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地方議員は兼業が前提で市議の58%が兼業。豊田秘書問題もチェックすべきは別のところ

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

青森の町議の兼職が話題になっているが、地方議員は「兼職が前提」

暴言等で話題になった豊田真由子衆議院議員の政策秘書に青森県板柳町議が就任し、兼職している事が、多くのメディアで取り上げられている。

ワイドショーにまで取り上げられ、国民的にも関心が高いようだが、どうもその報道の論点に違和感を感じる。

さらに問題を感じるのは、この兼職を問題視して辞職勧告するという板柳町議会だ。

「町議会ってこんなレベルなんだろうな…」とあらためて感じさせられもしたが、政治に携わるある面では専門家たちの対応としては呆れて物も言えないレベルの様に感じる。

まぁ、わいせつ事件で市議が逮捕されたり、政務活動費で大量の切手を購入、換金するという詐欺まがいの事を行ったという疑惑を持たれている議員が何人もいて、その全員が辞職しないという市川市議会の議員を選んだ市民が「何を偉そうに!」と言われたら、「その通りだ」というしかない状況ではあるが…

市川市議会については以前書いた『中1女子へのわいせつで市川市議逮捕、政務活動費での切手大量購入換金疑惑など不祥事が続く市川市議会…』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20170714-00073277/)を見てもらえればと思う。

まず、いいか悪いかは別として、地方議員は兼職が前提になっている事がある。

一般の方からすれば「兼職が問題」というのと、兼職では「実際に仕事に支障がある」というのは同じ様に感じるかもしれないが、今回の問題も兼職で「町議会の仕事」、「政策秘書としての仕事」双方において仕事に支障が出た場合には、それぞれが問題になる事があり得るが、「兼職」という事だけで問題になる事はない。

ちなみに、今回のケースで「町議会の仕事に支障がある」とされるケースだが、地方議会の場合は、多くの自治体では年4回の議会が開催される、その4回も期間は2週間程度であり、本会議や委員会で実際に出席が義務付けられている日数はさらに少ない。

この最低限の日数だけでも秘書が出席した場合、実際には問責決議などを行うと、逆に訴えられた場合難しくなるケースも想定できるのではないかと思われる。

全国の市議会議員では57.7%の11,127人が兼業

図表: 市議会議員の兼業状況

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出展: 市議会議員の属性に関する調(平成28年8月集計)から高橋亮平作成

2016年に集計された全国813市の市議会議員19,284人の実態を見ると、専業で市議会議員をやっている人は8,157人と42.3%にしか満たない。

兼業として最も多かったのが農業林業が2,508人、次いで卸売小売業が1,174人、建設業が815人となっている。

これがいいか悪いかは別問題として、実態についても共有する必要がある。

今回の件で「兼業するならやめろ」というロジックで問題にすると、全国の半数以上の11,127人の市議会議員は辞めるべきという事になってしまうわけだ。

板柳町議会議員のうち何人が兼業なのか知らないが、「兼業」という事自体を問題だとすると、自分たちの兼業だけ認めて、この兼業は問題だとするのは極めて難しい。

どういう結果になるのか見守りたいと思うが、町議会議員とはいえ政治家である。

法の趣旨と論理に基づいて対応してもらいたいと思う。

こうした対応の一つ一つが「やっぱり地方議員のレベルって…」と全国に波及する責任も感じながら対応してもらいたいものだと思う。

今回、あらためて地方議員の兼業が話題になったわけだが、もちろんそういう法律なのだからそれでいいと言っているわけではない。

議員の中には、議員の立場を利用して、兼業している職業の利益を増やしている様な政治家もいる。

むしろこうした問題はしっかりと明るみに出して、チェックされていかなければならない。

また、先述の様に本会議や委員会に出席さえしていれば後は何もしていなくても何も言われないという風潮についても変えていかなければならない。

それぞれの皆さんが住んでいる自治体ではどうなっているか、兼業の議員たちは本当に議員として成果を出しているのかについては厳しい目でチェックしてもらいたいと思う。

こうした議会での議員たちの活動については、都議会議員選挙の前に都議会を題材に『これでいいのか都議会!議員による条例提案はわずか2.9%、知事提案の原案可決は99.6%』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20160930-00062722/)や、『注目の都議会、データで見る全議員の実力。質問ゼロ議員も!<都議会議員活動データランキング>』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20160921-00062407/)といったコラムも書いてきたが、こうしたものも参考にしながら、ご自身の街の議会ではどうなっているのかとチェックしてもらえればとも思う。

皆さんがこれまで応援し続けてきた議員は、思いの外、議会でほとんど働いていなかったという事が結構な割合であり得る。

今回話題になった背景にある議員の報酬の高さについては、これまでにも『民主主義のコストとは?市民一人当たり議員報酬総額の最安は228円の名古屋市。最高は・・・』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20161021-00063500/)や、『自治体議員報酬ランキング最も高いのは横浜市の1,549万円、次いで神戸市、北九州市と福岡市・・・』(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20161013-00063182/)等といった形でコラムも書いているのでこちも参考にしてもらいたいと思う。

豊田議員の秘書問題は、むしろ重要なのは議員秘書給与を得るための詐欺ではないかという可能性

では本題の「豊田議員の秘書問題は何も問題がないのか」という事についてだが、可能性だけで言えば、「政策秘書としての勤務実態がない中で国費から秘書給与を得ている」という可能性や、「実際には豊田議員の承諾を得ないで、公設秘書などが勝手に政策秘書を雇っていた」という可能性、「政策秘書給与が満額本人に行っていないで議員や第三者に還流している」みたいな可能性だってあるかもしれない。

国会議員秘書給与については、かつて何人もの国会議員たちを巻き込んで大きな問題になっている。

上記の様なケースが発覚した場合、その時どころではない問題である。

国会議員の政策秘書の兼業については冒頭から書いている様に議員の許可があれば可能だが、今回のケースについては、記者会見で政策秘書は「豊田真由子氏とまだ会っていない」と話している。

この点から考えると、豊田氏はどうやって兼業の許可をしたのか、そもそも本当に豊田氏が許可をしているのかという疑念が浮かぶ。

むしろマスコミは、衆議院事務局にどういう形で許可されていると認定されたのか、豊田事務所にも今回のケースであれば政策秘書の妻と言われる公設秘書にでも、どうやって豊田氏の了承をとって誰が書類を準備して豊田氏の捺印まで行ったのか等の言質をとった方がいいのではないかと思う。

また、今回の政策秘書である板柳町議の件では、同政策秘書が8月9日に記者会見を行った場所は板柳町役場だ。

一般的に政策秘書が仕事を行うのは議員会館であり、国会議員によっては政策秘書も地元秘書の様に政策とかけ離れた地元活動等に従事させている事務所もあるが、それでも仕事場は、地元選挙区という事になる。

ちなみに豊田真由子議員の選挙区は埼玉4区(朝霞市・志木市・和光市・新座市)。

政策秘書が頻繁に国会や選挙区に来ているという事であれば、よほどのバカでもない限り、国会か地元で記者会見を行う。

秘書の勤務場所については指定されていないとしても、国会に近い埼玉が選挙区の議員がわざわざ青森にい続けている人物を雇うという事は、極めて考えづらい。

マスコミは、この政策秘書は秘書就任からどれだけ東京や埼玉に来ているのかを徹底的に調べた方がいい。

勤務実態がないまま政策秘書給与を不正に取っていたという事になれば、これは詐欺や横領という可能性も出てくる。

「ネタとして面白い」という事ではなく、マスコミには是非こうした点について調査してもらいたいと思う。

最後に話は外れるが、今回この記事を調べていて知ったのは、豊田真由子議員の出身校が船橋市立法典東小学校であった事。

我が家からすぐの地元じゃないか…隣の市とはいえまた地元からこんな政治家を輩出してしまったのかという失意の念にかられる…

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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