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18歳選挙権を導入していたらもっと自民党が勝っていたという衝撃データ

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

未成年者8,000人が、今回の総選挙で投票を体験

自民圧勝と言われた総選挙を終えて1週間以上が経った。

こうした中、先週末、選挙権のない未来の有権者とも言うべき未成年者が、模擬的に選挙同様に投票するという模擬選挙の結果が、模擬選挙推進ネットワークから公表された。

「模擬選挙」は、世界中で行われている最もポピュラーな政治教育プログラムの一つでもあり、ドイツでは6万人以上が、米国では約700万人が、この「模擬選挙」に参加している。

国内における模擬選挙は、2002年からNPO法人Rightsで「未成年“模擬”選挙」として取り組んできたものを、「中立・公正」かつ戦略的に推進していく組織として発展・独立した模擬選挙推進ネットワークが2006年からは実施している。

とくに衆議院総選挙の場合、急な解散になるため授業などに組み込む事が難しく、タイミングや季節によって参加者も上下するが、今回の総選挙では、8,117人もの未来の有権者が参加し、学校として参加した学校も42校まで増えた。

図表1: 衆議院総選挙における模擬選挙参加者数・参加学校数の推移

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未成年の模擬選挙では実際の選挙よりも自民党が増

驚く事に、この未成年による「模擬選挙」の結果が、実際の選挙以上に自民党の支持が多かったというのだ。

具体的には、実際の選挙での自民党の得票数は全体の33.1%でしかなかったのに対し、未成年者による「模擬選挙」での得票数は36.7%もあったというのだ。

「模擬選挙」の結果は、国政選挙では、毎回、実際の選挙に極めて近い結果が出るほか、その選挙の特徴が顕著に出る事などが言われており、今回の総選挙は、自民党圧勝と報道されている様な結果になったわけだが、「模擬選挙」では、さらに実際の選挙より、その傾向が顕著に現れるという結果となったわけだ。

ただ、この「模擬選挙」は、実際の投票日より早くに投票を行う。そのため、実際の選挙の開票結果に影響を受けたというわけではない。にも関わらず、実際の有権者と同じ様な傾向が出るため、実際にこの「模擬選挙」を実施する学校の先生の中には、「実際の選挙の投開票が行われる前に、模擬選挙の結果から実際の選挙の傾向が分かる」という方もいる程だ。

今回の総選挙を行う解散の前々日、この自民党も含め、自民、公明、民主、維新、次世代、みんな、生活の与野党7党で、「18歳選挙権」の実現のための公職選挙法等の改正案が出された。

「18歳選挙権」に向けての動きについては、今回は省略するので、詳しくは、その翌日に書いた『与野党7党で「18歳選挙権法案」を衆議院に提出した。若者はその先の「ワカモノ・マニフェスト」を総選挙にぶつけろ』を読んでもらえればと思う。私自身、この「18歳選挙権」の問題について、専門家として国会に参考人承知され説明もしてきたが、この「18歳選挙権」を実現すると「自民党には不利になるのでは」、「浮動票狙いの革新政党が得をする」などと言われる事があるが、実際にはむしろ逆の結果が出ている事が分かる。

図表2: 模擬選挙と実際の選挙の得票数による政党割合比較

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ちなみに、実際の選挙に比べて票の割合が増えているのは、自民党だけではなく、民主党も実際の選挙で18.3%だったものが、模擬選挙では22.6%と増えている。

この他にも、次世代の党、社民党、生活の党、新党改革なども若干模擬選挙での得票率の方が高くなっている。

逆に、今回の総選挙においては、公明が実際の選挙で13.7%だったものが、模擬選挙では7.5%。維新の党も15.7%だったものが9.0%、共産も11.4%だったものが10.0%となった。

個人的な印象では、実際に「18歳選挙権」を実現しての選挙になると、必ずしも投票に行く人たちばかりではないので、未成年者の投票行動も公明、共産など組織票の強い政党の割合がもう少し増えるのではないかとは思うが、その場合、自民党系の組織票などもあるわけで、未成年の有権者が増える事が、少なくとも自民党にとって不利になるという事はなく、むしろ若い人に自民党への共感が高くなっている事が今回の模擬選挙では明らかになった様に思う。

有権者の17.4%しか投票せずに、なぜ自民党が圧勝?

今回の図表1を見ていて、実際の得票率では自民党は33.1%、さらに高くなった未成年者による「模擬選挙」でも36.7%と、どちらを見てもそれ程多いというわけではないのでは?との疑問を持った人もいるのではないかと思うのだ。

戦後最低を更新した今回の総選挙の投票率は52.66%。その内の33.1%である事を考えれば、有権者の17.4%しか自民党に投票していない事になる。

では、なぜ自民党圧勝と言われるような結果になったのだろうか。

図表3: 模擬選挙と実際の選挙の得票数及び議席数の政党割合比較

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その最大の要因は選挙制度にある。

得票率33.1だった自民党は、比例での獲得議席数の割合は37.8%と、それ程変わらない。

それがすべての議席数で見ると、一気に61.3%まで増える事になる。

こうした事が起こるのは、言うまでもなく、1つの議席を少しでも多く票を取った政党が獲得するという小選挙区制度だからだ。

そのため、民主党こそ得票数18.3%に対し議席でも15.4%を獲得しているものの、今回の選挙でいわゆる勝ち組と言われた公明党は、得票数13.7%に対して議席数7.4%、共産党も11.4%に対し4.4%しか当選していないという事になる。

選挙制度についても考える所は多くあり、決して一票の格差の問題だけでなく、若者にとっては、世代間格差の是正の必要性や、シルバーデモクラシーの改善などから、「18歳選挙権」の他にも、世代別選挙区制度やドメイン投票など、提案したい事も色々あるが、今回はテーマが異なるので、こうした説明は、『各政党マニフェスト若者度評価。若者は本気で「ワカモノ・マニフェスト」をぶつけなければいけない』に譲る事にしよう。

ただ、こうした選挙制度による得票数の割合と、議席数の割合との違いから見れば、今回の「模擬選挙」における結果を見ても、未成年者の投票行動も、実際の有権者の投票行動とそれほど違いがない事が分かるのではないだろうか。

「18歳選挙権」の議論でも、必ずと言っていいほど、「18歳に政治を判断する力があるのか」という議論が出てくる。

しかし、今回の結果から言えば、良く捉えれば、「未成年者も大人と同様の政治判断能力がある」と言えるのではないだろうか。しかし裏を返せば、「実際の有権者も、未成年者と同じ程度の政治判断能力しかない」とも言えるかもしれない。

若年投票率だけが本当に低くなっているのか

もう一つ触れておきたい問題に、投票率の問題がある。

今回の総選挙においても、多くのマスコミが、投票率が低くなる事が最大の問題であるとし、中でも若年層の投票率の低さを問題として報じていた。

もっとも、若年層の投票率が低い事は事実であり、この事実を曲げるつもりはないが、一方で「最近の若者は、政治に関心がなく、投票率が低い」と勘違いしている方々には、少し事実を紹介しておきたいと思う。

図表4: 小選挙区導入後の世代別投票率の推移(1996年基準)

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図表4は、小選挙区制が導入され始めての選挙となった1996年の各世代別投票率を100%と置き、その後の各世代ごとの投票率がどの様に推移しているかを示したものだ。

全年齢による全体の投票率もその選挙によって上下し、今回の選挙では過去最低の投票率となり、1996年との比較でも84.3%まで落ち込んでしまったわけだが、ここで注目して欲しいのは、その事ではなく、20代の投票率の推移についてだ。

選挙によって上下する投票率だが、20代においては、その上下幅が他の世代より大きい傾向がある。

小泉政権になり与党が絶対安定多数となった2003年の選挙では、20代の関心は最も低く、1996年比でも唯一100%を割り97.8%になった。一方で、2005年の郵政選挙になると一気に1996年比は126.9%まで増える。若者の政治的関心はさらに2009年の民主党による政権交代選挙では135.8%まで上がっているのだ。これが、2012年の再び自民党に政権交代した選挙においては、残念ながら大きく減るわけだが、それでも104.0%と1996年時よりも投票率が高いのだ。

ちなみにこの2012年の選挙で1996年時よりも投票率が高かったのは、唯一20代だけだったのだ。

このことから考えれば、「最近の有権者は・・・」と言われるべきはむしろ別の世代にあるのかもしれない。

まだ、最新の世代別投票率は出ていないが、残念ながら、今回の投票率の低下は、若者の投票率の低下に拍車をかけているのは間違いない。

しかし、こうしたグラフから見れば、関心が高まる様な選挙であればある程、20代の投票率はより顕著に上がっている事が分かるはずだ。

この事から考えれば、投票率が低い事を指摘するだけではなく、どう若者に関心を持ってもらえる様にするかもまた重要なのではないだろうか。

選挙権年齢の18歳への引き下げが、年明けの通常国会に再提出され、この通常国会中で成立、2016年の参議院議員選挙からは、18歳からの投票が実施される予定だ。

こうした中で、18歳、19歳という新たに増える有権者はもちろん、さらに若い未来の有権者をどう育てていくかは、大きな課題である。

今回紹介した「模擬選挙」はそうした今後期待される政治教育のプログラムとしてもさらに幅広い人たちに活用されていく事を期待したいと思う。

例えば、今回紹介した「模擬選挙」についても、実際の選挙の投票よりも早い段階に投票を行いながら、選挙が終わって1週間もしないと公表されない。これは、公職選挙法上で人気投票の公表が禁止されているためだ。

先日も『若者政策先進国ドイツの先進事例から考える「日本が取り組むべき若者政策」』でドイツにおける先進事例を紹介したが、ドイツにおける「模擬選挙」などでは実施した「模擬選挙」の結果を選挙特番まで作って実際の投票日の前に放送するという。シルバーデモクラシーなどと言われる状況の中で、若者たちの声をより政治や政策形成、政策決定に反映していくためには、むしろこうした結果も踏まえて有権者に投票してもらったほうがいいのかもしれない。

「18歳選挙権」の実現に向けて法改正が進む中、政治教育の必要性はさらに共有されていく事になるだろう。ただ、こうした政治教育だけでは片手落ちであり、同時に、若者たちに政治関心を持ってもらうためにも、また有権者としてこの国の将来を担ってもらうためにも、選挙などの間接参画だけでなく、EUなど若者の参画に先進的な国々の様な幼少の頃からの各年代に合わせた直接参画の仕組みも重要になってくる。

今回は、「模擬選挙」の結果に焦点を当てたが、こうした「模擬選挙」の投票結果なども一つのキッカケに、今後どのように若者の政治参加を進めていくのかも合わせて多くの人に考えてもらえればと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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