Yahoo!ニュース

中国無人ブームの終焉と実用ロボットレストラン

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
ROBOT.HE上海国家会展センター店。高口康太撮影。

「客寄せパンダとしてのロボットではなく、実用的なロボットの時代になりつつある」

昨日公開された記事「中華料理を自動化せよ――中国「ロボットレストラン」をいく」の取材中にそう痛感した。

未来を感じさせるテクノロジーは人をワクワクさせる。人間の代わりに機械が働いてくれる無人店舗、無人倉庫、無人工場などもそうした心おどるトピックだ。だが、現在の技術ではまだまだ機械では代替できない仕事は多い。たとえできたとしても人を雇う以上にコストがかかるのならば、企業にとっては意味はない。

海底撈の配膳ロボット。高口康太撮影。
海底撈の配膳ロボット。高口康太撮影。

中国では2017年に無人ブームが到来し、無人コンビニを筆頭にさまざまなプロダクトが発表された。だがそのほとんどはあまり実用的ではなく、人の代わりに働くロボットを客寄せの道具に使ったり、あるいは無人ブームに乗っかることで投資資金を集めたりと別の目的があるものが目立った。

広東省深セン市の無人レストラン「E頓飯」。高口康太撮影。
広東省深セン市の無人レストラン「E頓飯」。高口康太撮影。

前述の記事では無人ブームが一段落した2018年秋以降にオープンした3店舗を取材したが、機械を前面に押し出すというよりも、実用性を高めることに苦心していた。実用性を高めるためにはなにも完全に無人化、ロボット化する必要はない。人間のほうがうまくやれる、安くできるところは人間に任せてしまえばいい。またロボットについても難しい技術を使えば高くついてしまうので、倉庫用ロボットを改造したもので済ませられれば十分だ。

「核心技術はなんですか?」

この質問に、アリババグループ系の生鮮スーパー、盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)の劉●(リウ・ミン、●は「敏」の下に「心」)氏は「うちでは、独自開発の技術は使っていません。すでに使われているロボット技術を使っています。ロボットは、あくまで低コストの課題解決手段と考えています」と回答した。技術を開発そのものに興味はなく、ありものの技術でできる課題解決はなにかを考えることに注力しているという。

そのため彼らの考えるソリューションはなにもロボットには限られていない。ロボットをテーマとしたため記事では割愛したが、盒馬鮮生では厨房にも一つの工夫をこらしていた。それがRFID(電子タグ)を使った料理及び調理時間の管理だ。

同レストランでは料理はRFIDで管理されている。例えば魚料理を作るとしよう。厨房に魚が運び込まれた時点でRFIDがつけられる。最初のさばく工程の前に、料理人はその魚と自分のRFIDをリーダーに読み込ませる。次の加熱工程の時にも再び読み込み……と各工程で料理と料理人のRFIDを読み込ませていく。

ROBOT.HEの厨房。RFIDとリーダーを紹介する担当者。高口康太撮影。
ROBOT.HEの厨房。RFIDとリーダーを紹介する担当者。高口康太撮影。

これによって料理が現在、どの工程にあるのかがデジタル情報として記録される。注文を忘れるという事態も防げるし、顧客もスマートフォンから「現在調理中」といった情報を確認できるので、いつ料理が届くのか検討がつくわけだ。

さらに、どの工程にどれだけの作業時間がかかったかという記録が残される。データを蓄積すれば、揚げた魚と焼いた魚ではどちらにより多くの作業時間(=人件費)がかかっているかも一目瞭然となる上に、どの料理人がどういう作業が得意なのか、あるいは技術が向上しどれだけ作業時間が短縮したかも見える化されるようになる。現在はまだ始めたばかりの取り組みということでデータの活用にまではいたってないとのことだったが、将来的にはある料理人がどの作業が得意なのかを把握して効率的な持ち場配置にするなどの活用が期待できるという。

ROBOT.HEの保温ボックス。高口康太撮影。
ROBOT.HEの保温ボックス。高口康太撮影。

また、利便性を高めるという点で「これは考え抜かれている!」とうならされたのが保温ボックスだ。これは持ち帰り用の料理を注文した場合、できた料理は保温ボックスに保管される。スマートフォンに料理完成の通知を受けた後、店に取りにいき、スマホで認証してボックスから取り出すという仕組みだ。待っている間は別のことをしていればいいので、待ち時間を効率的に運用できる。

同様の仕組みを北京市のIT企業が集まる中関村のレストランで見た。オフィスで働いている間にまずはスマホでオーダー。店に着く頃には料理はできて保温ボックスに収められている。到着したらすぐに温かい料理が食べられるという寸法だ。

中関村のオフィス街にあるレストランにあった保温ボックス。高口康太撮影。
中関村のオフィス街にあるレストランにあった保温ボックス。高口康太撮影。

この保温ボックスもまた特に難しい技術は使われていないが、時間の有効活用という意味ではかなり便利なソリューションだろう。見たところ、かなり多くのサラリーマンが活用していた。

完全無人化、人間とおなじ働きができるロボットなど、ついつい目立つ技術に目が行きがちだが、本当に大切なのは現実的な課題を着実に解決しているソリューションではないだろうか。中国の目立つ技術だけではなく、技術的にはたいしたことはなくても本当に役にたっているソリューションに要注意だ。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

高口康太の最近の記事