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中国“最恐”のテレビ番組が不発に、有名企業血祭りの315晩会の変調

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
写真は北京市のCCTVビル。(写真:ロイター/アフロ)

中国でもっとも「恐ろしく」、そして「面白い」テレビ番組。それが315晩会だ。

3月15日は「世界消費者権利デー」だ。ケネディ米大統領が1962年に「消費者の権利」を提示したことにちなんで、国際消費者機構が1983年に制定した記念日である。中国では1991年から中国中央電視台(CCTV)が『315晩会』という特別番組を放送している。

この特番が凄まじい。マクドナルド、ナイキ、アップル、フォルクスワーゲン、ニコン、無印良品……などなど大企業が名指しで取り上げられ、いかに消費者を軽んじているかと徹底的に批判される。批判された企業は数時間以内に謝罪声明を発表するのが常。番組放映中に謝罪するのがマニュアルだ。

唯一、徹底抗戦したのが2016年の特番で取り上げられたアップルだ。中国の法律では保証期間中の故障で新品に交換すると、その時点から新たに保証期間がスタートする。基本的に修理ではなく交換で対応していたアップルにとってはいつまでたっても保証期間が切れなくなってしまうため、元の端末の裏側カバーだけ流用することで「交換ではなく修理」という扱いにしていたが、これが「他国と比べて中国でだけ劣ったサービスを提供している」との批判を受けた。他国とは法律が違うむねを説明しようとしたアップルだが、人民日報など他の官製メディアもアップル批判に参戦。集中砲火を浴びて謝罪に追い込まれた。

企業側から見ると、批判されれば即土下座をしなければならない恐怖の番組。視聴者から見ると、大企業があわてふためき謝罪する姿を見て溜飲を下げられるという暗い喜びを味わえる番組というわけだ。

さて、2018年の特番ではどのような問題が取り上げられたのだろうか。

・フォルクスワーゲン・トゥアレグのエンジン浸水による故障。

・地方都市、農村部で販売されている模倣ブランドの飲料。

・「柿とトマト」「卵と豆乳」など食い合わせが悪い食品を指南するエセ健康論。

・宝飾品店の無料贈呈品のウソ。安物を高級品と偽ってプレゼントしている。

・シェアサイクルのデポジットを返還してもらえない問題。

・プラスチックゴミから作られた水道管が基準値を満たさぬ粗悪品。

・電気自転車のバッテリー発火問題。

・樹脂製サンダルがエスカレーターに巻き込まれ怪我をする危険性。

・道路用塗料の劣悪製品。光に反射せず夜に見えづらくなる。

・日本、韓国、オーストラリアから輸入された歯ブラシが中国の国家基準に合致していない問題。

以上のようなラインナップだが、誰もが名を知る大企業はフォルクスワーゲンのみ。しかも番組放送前にリコールを発表していたため、インパクトは弱かった。大企業があわてふためく姿を楽しみにしていた視聴者は肩すかしを食らった格好だ。

なぜ今年の315晩会は低調に終わったのか。企業の悪をただすにも娯楽番組形式でやる必要はない。吊し上げ式の海外企業バッシングはやめようという流れならば歓迎だが、口さがない中国のネットユーザーは「CCTVに賄賂を贈らない、おばかな企業がいなくなったため」と噂している。CCTV関係者に賄賂を贈れば315晩会に取り上げられずにすむとの噂は以前から根強い。実際、CCTVとの折衝が可能だとうたう広告代理店も複数存在する。2014年には315晩会を制作するCCTV財経チャンネルのトップ、郭振璽をはじめとする複数の関係者が収賄容疑で逮捕されており、疑惑を裏付ける傍証となっている。

今年の315晩会の変調は中国報道の健全化を意味しているのか、それともブラックジャーナリズム(金銭と引き換えに報道を取り下げること)のさらなる蔓延を示しているのか。今後が注目される。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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