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農民全員に6000万円プレゼント、中国でまたまた生まれた「土豪村」

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
「中国一の金持ち村」こと、華西村(写真:ロイター/アフロ)

「土豪村」という中国語がある。「土豪」とはネットスラングで「成金」の意、つまりは成金村だ。

ここ数年、中国には土豪村がいくつも出現している。その最新版が広東省中山市南朗鎮関塘村だ。367人の村民で13億元(約218億円)を分配したという。一人平均約6000万円の臨時収入が転がり込んだ計算になる。

金の配分は2月上旬だったというが、村民たちはこの情報をひた隠しにしていた。だがやはり隠し通せなかったようで、2月下旬に情報を嗅ぎつけた自動車ディーラーが村にやってきて高級車の販売会を開催。「農村で高級車の販売会?!」とニュースになり、全国に知れわたってしまった。

土豪村はどのようにしてこれほどの金をバラマキできるのだろうか。大きく二つのパターンがある。

第一のパターンは農村企業で稼いだ金の分配だ。土豪村という名前がはじめて使われたのは四川省の復興鎮建設村だが、同村は合作社(組合)を設立し、企業式の養豚場、果物農園で成功した。農民たちは土地か資金を提供することで株式を獲得。毎年分配金を受け取れる。このパターンの成功では「中国一の金持ち村」華西村が有名だ。1980年代から郷鎮企業の経営に成功。平均収入は1000万円を超えたという。

そして第二のパターンが近年増えている「村の共有地の貸し出し」だ。都市の拡大に伴い、近郊の村が都市に飲み込まれていく。これを「城中村」(都市の中の村)と言う。当然、土地の価値は大きく上昇する。社会主義のお国柄なので土地は売却できないが、数十年の貸し出しという契約で企業に貸し出せば大金を得ることができる。こうして濡れ手に粟の土豪村が次々と生まれているわけだ。

羨ましい限りだが、土豪村には土豪村なりの悩みもあるという。第一に大金をめぐる争いだ。2011年の烏坎事件をご存知だろうか。「烏坎村の村民が汚職容疑の村長を追放。民主選挙による村長選出を要望した。政府は武装警官隊を派遣して村を包囲したが最終的には譲歩し、選挙実施を認めた」という筋書きで紹介されることが多い事件だが、そもそもの発端は村の共有地を企業に貸し出したが、その代金を前村長が横領したとの疑惑である。「民主主義が欲しい」という麗しい話ではなく、俺たちに金をよこせという戦いだったわけだ。ちなみに選挙は許されたものの、横領された金は取り返せないまま。村民たちは怒り心頭だという。

第二に大金を手にして身を持ち崩す人が多いこと。突然これまで見たこともない額を手にし、浮かれてアルコール中毒やギャンブル狂になってしまう人も多い。冒頭で紹介した関塘村でも悪い虫がつかないようにと大金ゲットのニュースはひた隠しにしていたのだが、情報が流出して大変なことに。ついつい高級車を買ってしまった村民もいたという。今後もあの手この手の誘惑が来ることは間違いない。

「大金で堕落した村人たちをスポーツの力で更生させよう」という不思議な試みも伝えられている。西安市の西査村も共有地の売却で儲かった土豪村の一つ。村民の一人、査丁さんは酒と麻雀におぼれる村民を嘆き、サッカーの力で更生させることを決意した。自費で立派なサッカー場を作り、アマチュア・サッカーチームを結成。酔っ払い農民たちも次第に運動の魅力に目覚めていったという。

「中国と農村」と言うと貧困というイメージがつきまとう。もちろんいまだに貧困で苦しむ村は多いのだが、その一方で土豪村のような事例も生まれている。中国の変化の早さには驚くばかりだ。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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