憲法からみる二院制 参議院の優越とは?

国会議事堂(写真:アフロ)

参議院とは?

 『第三身分とは何か』などを著してフランス革命を指導したシェイエスは、1789年のフランス革命後の憲法制定に際して、こんな言葉を残しています。

 「第二院は代議員(第一院)と一致するときは無用であり、代議員に反対するならば有害である」

 シェイエスはこのように、二院制は間違った制度であると考えていました。

議会制民主主義の2つの要素

 イギリスに端を発した「議会制民主主義」は、本来的な民主政とはいえず、一般的には「貴族政」に分類されるものですが、今や先進国のほとんどで採用されており、比較的安定した制度として重宝されています。メディアなどで「民主主義」という言葉をもちいるとき、一般には直接民主政ではなく、この「議会制民主主義」を指していることが多いと思われます。

 議会制民主主義には、2つの要素があり、それらの組み合わせ、バランスによって様々なバリエーションがあります。その2つの要素とは「自由主義的要素」と「民主主義的要素」です。

 一般に自由主義的要素を強めていけば、権力分立型となり、民主主義的要素を強めていくと権力は集中するかたちとなります。たとえばアメリカなどが採用する大統領制は議会と政府の間の権力分立を重視した自由主義的統治機構と言えますし、日本やイギリスが採用している議院内閣制は、議会と政府が一体となって民意に基づいて政治を行うという意味で民主主義的な統治機構と言えるでしょう。

二院制のメリットとは

 それでは、二院制を採用していることはどちらの要素に基づくものでしょうか。そもそも、民主主義的要素を重視し、国民に民意を問い、その結果によって政治を行うのであれば、議会には下院だけあれば足りるはずです。しかし、それでは、一時の世論によって政治が暴走してしまうおそれもあります。多くの過ちは熱狂によって支えられていることは歴史が示すとおりです。日本においても特に小選挙区制が導入されて以降、与党側または野党側が地滑り的な大勝利を収めて一方的に議会の多数派が入れ替わってしまう現象を私たちは目の当たりにしてきています。そのとき、「いやいや、ちょっと待てよ」という歯止めの役割りを果たすのが、もう一つの議会、すなわち上院なのです。

 すなわち、二院制のメリットとは、(1)立法機能を分割することで1つの議会の多数派による専制を抑止できること、(2)拙速な決定を避け、慎重に審議できること、(3)下院の衝動的な行動をチェックできること、(4)国民の多様な意見や利益を細やかに代表できること、にあるとされています。

ねじれ国会の歴史

 日本では、戦後長らく、与党第1党は自由民主党が占め政権を維持し、野党第1党は日本社会党が占めてきました。いわゆる「55年体制」と呼ばれるものです。この55年体制の時代は、衆参両院で自民党が過半数を維持していましたから、自民党内部で議論された予算や法律が、衆議院を通過した後、お決まりのように参議院を通過していました。衆議院で通過した予算案・法案はほぼそのまま参議院を通過していたので、「参議院は衆議院のカーボンコピー」とまでいわれ、「参議院不要論」を唱える人もいました。

 しかし、1989年に自民党が参議院で過半数を失うと状況は一変します。衆議院を通過した法案が参議院を無傷で通過することが非常に難しくなったのです。このときに生じた「ねじれ国会」の状態は、1993年の細川連立内閣誕生まで続いています。

 さらに、1996年の参議院選挙で橋本政権が大敗したため、これに続く小渕政権時の金融国会では、金融再生関連法案において、野党提案をほぼ丸のみするという屈辱を味わうことになりました。この後、自民党は参議院での過半数獲得を目的として、自自連立、自自公連立という道を選び、結果的に現在の自公連立へとつながっています。

 そして、2007年の参議院選挙での第一次安倍政権の惨敗によって民主党に参議院第1党の座を明け渡すと、次の福田内閣では、野党の同意が得られずに日銀総裁の空位が3週間続いたり、ガソリンの暫定税率を衆院再可決で復活させたりするなど、自民党は参議院対策に苦しむこととなります。

 その後、2009年の総選挙に民主党が政権を奪ったことによりねじれ国会は解消されますが、2010年の参議院選で再び自民党が勝利したため、またもやねじれ国会が生じてしまいます。このあたり小選挙区制とメディアによって生み出される風により、シーソーゲームのように順番に自民党と民主党が選挙で勝利するので、国会は不安定となり、「決められない政治」となってしまったのです。

 今回の参議院選挙では、自民党が27年ぶりに過半数を取るか注目されましたが、結果は、改選による獲得と非改選議席の合計が119議席と、惜しくも過半数獲得には至りませんでした。

ねじれ国会の何が問題か

 それでは「ねじれ国会」の一体何が問題なのでしょうか。

 やはり、それは「決められない政治」となってしまい、政治が停滞することが大きな問題です。上述の通り、参院が国会を止めた結果、「日銀総裁人事」「ガソリン税暫定税率」といったような深刻な問題が解決されないまま、宙吊りにされてしまうのです。

 さてここでちょっと学生時代を思い出していただきたいのですが、みなさん、学校で「衆議院の優越」という言葉を勉強しませんでしたでしょうか?

 一般に、「旧帝国憲法下においては衆議院と貴族院は対等だったが、現行の日本国憲法においては衆議院の優越が定められている」と我々は習います。

 しかし、これは実際には正しくありません。

 日本の参議院は衆議院とくらべて実質的に対等といってよく、それゆえに権力集中型の議院内閣制にもかかわらず、総理大臣の地位が弱められてしまっているのです。

首班指名・条約批准における衆議院の優越

 衆議院が優越しているのは、首班指名、条約批准、法律案・予算案の先議権です。

 まず、首班指名と条約批准について憲法の該当条文を見てみましょう。

第67条

1 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

2 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて10日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第61条

条約の締結に必要な国会の承認については、前条第2項の規定を準用する。

 首班指名を定めた67条では10日経過で衆議院の議決が国会の議決となると定められています。また、条約の批准について定めた憲法61条の「前条2項の規定」とは、法案の議決に関する条文で両院の決議が不一致のまま30日経過した場合には、衆議院の議決が優先するというものです。

 この2つについては、一定期間が経過すれば衆議院の議決が優先するとあるので、確かに衆議院が優越していると言えるでしょう。

法律案・予算案議決における参議院の優越?

 しかし、この2つについては、そうそう生じるものではありません。やはり議会の権限として大きなものは、法律案の議決、そして予算の議決です。

法律案の議決

第59条   

1 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 まず、法律案の議決ですが、これは両院で不一致となった場合の規定が2項で定められています。ただ、参院で否決された法案を再び可決するためには、衆院で3分の2以上の多数決で再可決しなければなりません。これはなかなか至難の技なのです。まぁ今の与党は3分の2以上の議席を有しているのですが。

 しかも、再可決には不一致から60日を経過する必要があり、国会の会期日数が残り59日以下であれば、参議院は委員会に法案を付託せずに握りつぶすことができるのです。与野党ねじれ国会の状態では、野党側はよくこの手法を用います。こうなると必要な法案が国会を通りませんので、国会は機能停止状態となってしまいます。

予算案の議決

第60条   

1 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

 次に、予算案ですが、こちらは条約批准の条項と同じなので、一見衆議院が優越しているように見えます。

 しかしここにはからくりがあって、実は現状の日本の財政では、赤字国債の発行なくして予算を組むことができません。したがって予算案だけは衆議院だけで通すことができても、その土台となる赤字国債を組むための特例公債法の議決は法律案の議決と同じになってしまうのです。結果的に、法律案を通さなければ予算案も通らないので、事実上参議院が予算を否決することができます。これは教科書で教わる内容と異なり、「参議院の優越」という状態ともいえるものです。

解散のない参議院

 さらに、参議院は解散がありません。このことはつまり、内閣による牽制が働かないことを意味しています。戦後において首相の権限はこれ以上ないくらいに強化されていますが、それでも短命の内閣が多いのは参議院に対してあまりに無力だからです。

 このことを熟知していたのが田中角栄とその末裔たちでした。彼らは参議院を支配することによって日本の政治を牛耳っていたのです。

 そしてこの参院支配に風穴を開けたのが小泉元総理です。2005年に彼は長年の悲願である郵政民営化法案が参議院で否決されると、ただちに衆議院を解散しました。そして総選挙勝利という民意を背景に、参議院をも屈服させたのです。

 小泉元総理のこのウルトラCともいえる荒業は1911年のイギリスで時のアスキス内閣が提出した法案が貴族院で否決されたことに対し、庶民院を解散することで反撃に出たという先例にヒントを得たのではないかと言われています。

 アスキス内閣でも小泉内閣でも衆議院は法案を可決しているわけですから、これを解散するのは不合理のようにも見えますが、しかしこうでもしないと、内閣は参議院と戦うことができないのです。

二院制のデメリットと改革案

 二院制のデメリットについては、もうおわかりでしょう。(1)上院が強い拒否権を有する場合に立法上の行き詰まりを生じること、(2)両院間の意思の統一を図る必要があるため政策決定が非効率となり遅延することが問題です。

 しかし、一院制を取ることには私は反対します。やはり上述のような二院制のメリットは必要だと考えるからです。

 二院制を批判したシェイエスらがフランス革命期に作った国民公会は一院制議会でした。結果的に、国民公会は暴走を起こし、政敵である少数派を次々に死刑にするという恐怖政治を引き起こしています。このような議会(第一院)の暴走を抑えるという自由主義的観点からも第二院は存在すべきでしょう。

 

 二院制のメリットを最大限享受した上で、デメリットを少なくするためには、衆議院の優越をより明確に打ち出す必要があります。

 まずはやはり、法律案の議決に関する59条において衆議院の優越を強める必要があるでしょう。その上で、多数派の専制に対するチェック機能を充実させるため、参議院議員と衆議院議員の性質の違いを確保することや参議院の審議時間を長くするなどといった、細かい修正が必要になると思われます。「衆議院のカーボンコピー」でも「法律予算成立の障害」でもない、「良識の府」としての参議院を機能させることが何より望ましいでしょう。

 これらの点については諸外国の制度との比較が欠かせないので、稿を改めてまたご説明したいと思います。