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持続化給付金の不正受給で日本の未来がわかる?

橘玲作家
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響で売上が減った事業者などを支援する持続化給付金で、大量の不正受給が発生しました。給付金の上限は中小企業が200万円、フリーランスなど個人事業者が100万円ですが、トラブルが多発しているのは申請要件の甘い個人事業者向けです。

報道によると不正受給の手口は、

  1. 税理士などが前年度の架空の確定申告書を作成する
  2. 申請者はそれを使って税務署で期限後申告し、控えを受け取る
  3. 今年度の架空の売上台帳で売上が減少したように見せかけて、確定申告書類とともに給付金を申請する

という単純なものでした。この手口が広範に行なわれていたことは、不正受給を報じた地方新聞社で複数の社員の不正受給が発覚したという、笑えない話でもわかります。

不正受給の指南で、紹介者や偽の申請書類を作成した税理士は半分程度のキックバックを受け取っていたようです。1人につき50万円ですから、10人で500万円、不正受給者を100人集めれば5000万円のボロ儲けです。反社会的組織の関与も疑われていますが、大金に目がくらんで手を染めた素人もたくさんいたでしょう。

不正が許されないのは当然として、不思議なのは、なぜ「どうぞズルしてください」のような制度にしたかです。申請者が継続的に事業を行なっているかどうかは、確定申告を3年ほどさかのぼれば確認できます。そうしたケースはすぐに支払い、「去年事業を開始し、しかも期限後申告」という疑わしいケースの事業実態だけを調べればじゅうぶん防げたはずです。

それにもかかわらず、なぜこんなかんたんな不正防止策を講じなかったのか。その理由のひとつに、1人10万円支給で「給付が遅い」「申請したのに給付されない」とメディア(とりわけワイドショー)がさんざん行政を叩いていたときと、不正受給の手口が広まって疑わしい申請が届きはじめた時期が重なったことがあるのではないでしょうか。その結果、「性善説」に立って迅速な給付をするしかなくなったとしたら、これはまさに「人災」です。

しかしさらに考えてみると、そもそもこんなアナログな方法で給付していることが異常です。マイナンバーは国民全員に付与されているのですから、それを税務申告データと銀行口座に紐づけ、申請内容と照合すれば不正をはたらく余地はなくなるでしょう。

このようなシステムが整備されていれば、本人がいちいち売り上げの減少を申し立てる必要すらなくなります。マイナンバーで銀行口座の入出金額を把握し、新型コロナ以降に収入が減ったひとだけを効率的に抽出して適切な給付をすればいいのですから。これなら、富裕層や収入の安定した公務員、年金受給者にまで1人10万円を配るようなバカげたことをする必要もなくなります。

日本政府は2000年に、「5年で世界最先端のIT国家を目指す」と宣言しました。それにもかかわらず20年かけてこの体たらくでは、電子政府化を進める世界各国との距離は逆にどんどん開いていくばかりです。菅新政権は「デジタル化」を掲げて発足しましたが、このままではきっと、2040年になっても同じ愚痴をいうことになるのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2020年10月19日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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