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「スクールカウンセラー」はほんとうに役に立っているのか?

橘玲作家
(写真:アフロ)

どれほど「いじめ対策」をしてもいじめ件数が増えつづける事態に業を煮やした文部科学省は、来年度から「スクールロイヤー(学校弁護士)」約300人を各都道府県の教育事務所や政令市などに配置するそうです。といっても、弁護士が学校に常駐するのではなく、トラブルがあったときに相談できる弁護士を登録しておく制度です。

いつでも専門家から法律的なアドバイスを受けられるのはよいことのように思えますが、なんとなくうさんくさく感じるのは、「スクールカウンセラー」の前例があるからです。

いじめや不登校など学校現場の「問題行動」にうまく対処できないのは、教師に専門的な心理学の知識がないからだ。臨床心理士の資格をもつスクールカウンセラーを学校に常駐させれば、生徒は教師を気にすることなく適切なアドバイスを受けることができ、教師も問題行動を起こす生徒にどう対処すればいいか教えてもらえるのだから、大きな利益が得られるはずだ。――このように説明されれば、誰でも「もっともだ」と思うにちがいありません。

では、1995年に鳴り物入りでスタートした「スクールカウンセラー事業」にどれほどの効果があったのでしょうか。驚くのは、その検証が財務省主導で2004年に1回だけしか行なわれていないことです。

この調査では、2001年と02年の公立中学校1校あたりの問題行動の減少率を比較しています。それによると、「スクールカウンセラーのみを配置する自治体」で、減少率は配置校が11.7%、未配置校が10.7%、「(スクールカウンセラーに)準ずる者を原則どおり30%以内で配置する自治体」で、減少率は配置校で16.85%、未配置校で15.9%でした。この結果をかんたんにいうと、スクールカウンセラーがいてもいなくてもまったく関係ないのです。

唯一ちがいがあったのは「(スクールカウンセラーに)準ずる者を30%以上配置する自治体」で、こちらは減少率が配置校で30.4%、未配置校で17.4%でした。「効果があったならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、「準ずる者」というのは、大学や短大を卒業し、「心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相談業務について、5年以上の経験を有する者」などとされています。不思議なことに、臨床心理の専門家が多いほど生徒の問題行動は増え、子どもの相談に乗った経験があるだけの「素人」が多いほど問題行動は減るのです。

さらに困惑するのは「中学校へのスクールカウンセラーの配置率と問題行動件数の減少率の相関関係」です。こちらも奇妙なことに、もっとも効果が高かったのは配置率21~40%(マイナス10.4%)で、配置率41%以上でマイナス8.2%、61%以上でマイナス5.7%と、カウンセラーを配置するほど問題行動が多くなってしまうのです。

もちろん一片の調査だけで「スクールカウンセラーは不要だ」と決めつけることはできません。しかし国民の「血税」を投入する以上、文科省と臨床心理学会は、厳密なランダム化比較試験によって政策の費用対効果を納税者に説明する責任を負っています。

スクールロイヤーも同じで、せっかく調査研究を行なうのであれば、ぜひその結果を広く公表し、世界の専門家が検証できるようにしてほしいと思います。

参考:財務省 (2004年). “総括調査票 スクールカウンセラー活用事業(PDF)”

『週刊プレイボーイ』2019年11月18日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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