日本人はどのくらいの金融資産を持っているのか?

(写真:アフロ)

「家計の金融行動に関する世論調査」は、金融広報中央委員会が、「二人以上世帯(訪問と郵送の複合・選択式の調査)」と「単身世帯(インターネットモニター調査)」を対象に、金融資産の保有状況や貯蓄割合、借入状況、老後の生活設計などを調べたものだ。今回はそのなかの「金融商品保有額」のデータ(2018年)から、現代日本の資産状況を概観してみたい。

「金融資産非保有」も「金融資産2000万円超」も3割ずつ

 金融庁の「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」に「老後資金2000万円が必要」との記述があり、大きな騒ぎ(炎上)になったことは記憶に新しい。報告書への批判の多くが「そんな大金、持ってるわけがない」だったが、実際はどうなのだろうか?

 世帯主の年齢別の金融資産では、70代以上で「金融資産非保有」が28.6%もいることが目を引く。金融資産を保有していても「500万円以下」が11.4%おり、合わせて40%になる。年金世代の4割もが「老後資金2000万円」で大きな不安に襲われたとすれば、参院選を控えた与党が報告書の存在自体を抹消しようとしたのも当然だろう。

 しかしその一方で、70代以上で金融資産「2000~3000万円未満」が9.6%、3000万円以上が18.3%で、合わせて27・9%になる。金融資産「1000万円以上」で見ると全体の42.2%だ。

 このように、70代以上の金融資産保有額は「U字」型になっていて、「金融資産非保有」と「金融資産2000万円以上」が約3割で、「金融資産500万円以下」と「金融資産1000万円以上」ならそれぞれ約4割ずつになる。

「老後2000万円必要問題」を報じるワイドショーには「貯金なんてする余裕はない」という高齢者が続々と登場したが、これは現代日本の資産分布状況の一方の極を切り取っただけにすぎない。テレビには出ないだろうが、「2000万円なら持ってます」という高齢者は同じくらいいるのだ。

 だからといって、こうした「富裕層」が老後になんの経済的不安もないかというと、そういうわけではない。金融庁の報告書へのもうひとつの典型的な反応は、「2000万円でほんとうに足りるの?」だった。

「人生100年時代」では、60歳で定年退職してからさらに40年間も人生がつづく。2000万円の金融資産を40年で割れば年50万円、夫婦の二人世帯なら一人当たり25万円=月2万円強だ。これで果たして「安心した老後」が過ごせるだろうか?

 超高齢社会を生きる私たちにとっての問題は、「老後が長すぎる」ことだ。こうしてフィナンシャルプランナーは、「老後に備えて5000万円(あるいは1億円)の金融資産が必要」とアドバイスするようになった。これ自体は間違っているとはいえないが、「金融資産5000万円」の基準をクリアできる高齢者世帯はせいぜい1割程度だろう。

 老後に備えて貯蓄することは大事だが、極端に高い目標を課すことはいたずらに不安を煽り、混乱を招くだけだ。

 これに対する私のこたえは「老後を短くする」だ。定年後も働いて年200万円の収入を得られれば、70歳までの10年間で2000万円、80歳まで働けば4000万円で、「(100歳までの)老後」は40年から20年に縮まる。医師の日野原重明氏のように生涯現役なら、「老後問題」そのものが消滅してしまう。金融資産を10年で倍にしたり、ましてや10倍にしようと焦るより、こちらの方がずっと現実的で希望がもてるのではないだろうか。

「金融資産非保有」の若者の半数は50代になっても貯蓄ゼロのまま

「金融商品保有額」のデータは、「20歳代」から「70歳以上」まで10歳単位で世帯主の年齢別に集計されている。それによると、当たり前の話だが、20歳代の「金融資産非保有」の割合は32.2%でもっとも多く、「金融資産1000万円」以上はほとんどいない。

 これは一時点の調査だから、現在の20代が30代、40代になったときの状況を示すものではないが、年齢によって金融資産の保有額がどのように変わっていくのかを(ある程度)知ることはできる。

「金融資産非保有」は20歳代の32.2%から30歳代では17.5%へと約半分になり、その後は若干の増減はあるものの60歳代まで20%前後で安定している。70歳以上で28.6%と上昇するのは、年金生活に入って貯蓄を取り崩すひとが出てくるからだろう。

 その一方で、「金融資産1000万円以上」は、20歳代の3.4%から30歳代(17.4%)、40歳代(30.8%)、50歳代(44.2%)へと着実に増えていく。

 ここからわかるのは、資産というのは毎年の収入から積み立てたお金の合計(+運用利回り)だという単純な事実だ。だからこそ、年を重ねるごとに金融資産の額も増えていく。

 もうひとつは、20代で「金融資産非保有」だった若者のうちおよそ半数は貯蓄を始めるが、残りの半数は30代、40代、50代になってもずっと「金融資産非保有」のままらしいことだ。これは、世の中に「稼いだ分だけ使ってしまう」ひとたちが一定数いるからだろう。これが、日本社会で「経済格差」が拡大する(主要な)メカニズムだ。

 毎月の収入がすべて生活費に消えていくのなら、何歳になっても金融資産はゼロのままだ。それに対して毎月少しずつでも貯蓄し、それを株式などで複利で運用すれば金融資産は増えていく。この状態が10年、20年、30年とつづけば、両者が保有する金融資産の額は大きく開いていくだろう。こうして社会が高齢化すればするほど、“グローバリズムの陰謀”などなくても、「経済格差」は自然に拡大するのだ。

「金融資産非保有」の8割が「持ち家」という謎

 私たちはごく当たり前のように、「持ち家は金持ち」「賃貸は貧乏」と思っている。だが実際は、この調査で「持ち家」と回答したなかで「金融資産非保有」が19.7%もいる。これは持ち家が5軒並んでいたら、そのうちの1軒は銀行口座の残高がほとんどないということだ。

 金融広報中央委員会の調査はExcelのデータをダウンロードできるようになっているので、そこから金融資産ごとの持ち家率を計算してみると、「金融資産非保有」と回答した世帯のうちじつに78.8%が「持ち家」だ。

 それに対して、金融資産100万円未満(56.4%)や200万円未満(54.2%)は持ち家率がずっと低く、「金融資産非保有」の持ち家率を超えるのは金融資産700万円以上(81.6%)からだ。

「貧困層(金融資産非保有)の8割は持ち家」というこの奇妙なデータはなにを意味しているのだろうか。

 以下は私の推測だが、「金融資産非保有」で「持ち家」というのは、貯金をはたいてマイホームを購入したケースもあるかもしれないが、その多くは貧困によって実家から出られないまま高齢になり、結果として「持ち家」の世帯主になったのではないだろうか。

「賃貸は貧乏」と思われているが、家を借りるには敷金や家賃、引っ越し代などを払わなければならないし、最低限の家財道具も買い揃えなくてはならない。そのためには、一定以上の収入がある安定した仕事に就く必要があるだろう。逆にいえば、こうした条件を満たさなければ実家を出ることができないのだ。

 ひきこもりは親に依存して生きていくしかないから、当然「実家暮らし」で、親が亡くなるか老人ホームなどに入れば「持ち家の世帯主」になる。非正規の不安定な仕事で「実家に閉じ込められている」ひとも、一般に思われているよりはるかに多いのではないだろうか。

 このデータでもうひとつ興味深いのは、金融資産1000万円~1500万円で持ち家率81.5%、金融資産3000万円以上でも持ち家率89.5%で、「富裕層」の1~2割は賃貸生活をしていることだ。

 もちろん「ヒルズ族」のように、大きな収入があっても身軽な賃貸を好む層はいるだろう。だがこれも年齢別のデータがないので推測することしかできないが、高齢者の富裕層が賃貸に移行しているのが主因ではないだろうか?

 自分の親を見てもわかるが、80歳を過ぎて持ち家(とりわけ一戸建て)の管理をするのは困難だ。庭の手入れができなければ雑草に蔽われ、ゴミ出しが面倒になればたちまち「ゴミ屋敷」になってしまう。それを考えれば、「お金持ち」が持ち家にこだわる理由はない。富裕層が自宅を売却して高級サ高住(サービス付高齢者住宅)や高級有料老人ホームに移れば、統計上は「賃貸」になる。

「人生100年時代」では、富裕層は「賃貸」で、乏しい年金をやりくりしなければならないひとたちが自宅から出られず「持ち家」になる。いずれそんな未来がやってくるのではないだろうか。