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メディアによる“世論操作”も危険だ

橘玲作家

日曜に繁華街を歩いていたら、鉦や太鼓の騒々しい音が聞こえてきました。なにごとかと思って見に行くと、特定秘密保護法に反対するひとたちのデモでした。といっても、拡声器や鳴り物で音は大きいものの参加者は50~60人ほどしかおらず、街はひとで溢れていましたが誰もが無関心に通りすぎていくだけです。原発事故直後の大規模なデモとは雲泥の差で、秘密保護法への国民の関心の程度がわかります。

そもそもこの法律は、安全保障にかかわる国家機密を漏洩した公務員への罰則を強化するためのものです。しかしこれではほとんどのひとにはどうでもいい話になってしまいますから、法案に反対するひとたちは、戦前の治安維持法を引き合いに出して、「あなたの生活が危険に晒されている」と主張しています。

新聞やテレビでは、「高校時代の同級生と居酒屋で酒を飲んだら特定秘密の話題が出て逮捕された」などの“想定事例”が紹介されていますが、ここまで拡大解釈するならば、警察や自衛隊も「国民を弾圧する可能性がある」として全否定しなくてはならなくなります。極端なネガティブキャンペーンの氾濫が冷静な議論を妨げているのはとても残念です。

朝日新聞は秘密保護法についての世論調査を実施し、「賛成21%、反対51%」と一面で報じました(12月8日朝刊)。記事にはアンケートの詳細が出ていますが、質問は次のようになっています。

「特定秘密保護法は、国の外交や安全保障に関する秘密を漏らした人や不正に取得した人への罰則を強化し、秘密の情報が漏れるのを防ぐことを目的としています。一方、この法律で、政府に都合の悪い情報が隠され、国民の知る権利が侵害される恐れがあるとの指摘もあります。特定秘密保護法に賛成ですか。反対ですか。」

この質問では、秘密保護法の意義を前段で紹介し、後段で反対派の主張を述べています。一見すると両論を併記しているようですが、これは自分の都合のいいように回答を誘導する典型的な手法です。

その理由は、質問の構成を逆にしてみればすぐにわかるでしょう。ひとは無意識のうちに前段を弱い(偽の)主張、後段を強い(正の)主張ととらえ、質問者の意図に添った回答をするのです。

同じの世論調査には、「この法律は、衆議院に続いて参議院の委員会でも与党が採決を強行しました。特定秘密保護法について与党が採決の強行を繰り返したことは問題だと思いますか。」のように、明らかに中立性に欠ける質問がほかにもあります。こうした手法は統計学者などから繰り返し批判されており、関係者には周知の事実でしょうから、これでは「見識」を疑われても仕方ありません。

秘密保護法についての世論を知りたいのなら、余計な注釈は付けず、「賛成ですか、反対ですか」と聞けばいいだけです。しかしそうすると反対が減って「よくわからない」という回答が増えてしまうので、こうした形式を採用したのでしょう。

反対派は秘密保護法が危険だと声を大にして主張しますが、メディアによるこうした“世論操作”も同じように危険なのです。

『週刊プレイボーイ』2013年12月24日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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