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FIRE卒業? 会社員人生から卒業した人が会社員に戻ってくる理由をFIRE本著者が解説

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
会社員人生から「卒業」したはずがFIRE生活から「卒業」して会社員に戻る?なぜ?(写真:アフロ)

会社の「支配から卒業」したFIRE達成者がなぜ「FIRE卒業」して会社員に戻るのか

FIRE卒業、という言葉がちょっと流行っているようです。FIREといえばFinancial Independence, Retire Earlyの略で、経済的独立(前半のFI)を果たし、早期リタイア(後半のRE)を実現するチャレンジのことです。いってみればFIREを達成するということは「社会人人生からの卒業」ということになります。

ところが、会社員を辞めてFIRE生活に入った人が、FIREを卒業してまた働き始めているケースがあるのだとか。例えば以下のような記事があいついで掲載されています。

12/3 ダイヤモンドオンライン 「FIRE卒業」がトレンド入り。「FIRE」より「やりたい仕事で稼ぐ」を選ぶ人、増える

11/29 AERA.dot “FIRE卒業”が話題! 投資歴25年以上のパックンが最初から “FIRE”は目指さない理由

11/29 テレ朝ニュース 【退職3カ月で1200万失い】FIRE卒業「何やってもダメ」再び働く人増加…市場乱高下で

今回はこの「FIRE卒業」について考えてみます。

FIRE直後、マーケットの急落はかなり危ない アーリーリタイアに赤信号

ひとつめの「FIRE卒業」パターンは、資産の減少によるものです。ここから先、仕事をしなくても一生やっていけると思って退職してみたものの、株式市場の下落によって資産価値も急落、その後のリタイア生活に不安が高まったようなシチュエーションになります。

基本的にはFIRE用の軍資金は減らさず、運用益でやりくりしていく(物価上昇を見込めば取り崩してもプラスにしたい)ことを考えますが、資産が10%以上急落すればFIRE生活に不安が高まります。

この問題は「FIRE達成を決める金額が甘かった」という問題と「FIRE後の資産管理でリスクを取り過ぎていた」という問題があります。

前述のニュースの例ではそもそも資金額が低い状態でFIREに踏み切った例が含まれているようです。FIREを実行に移すときは、少し多めかなくらいの資産状況でFIREを実行した方がいいように思います。40歳代で1億円とよくテンプレートで語られますが、少々の下落でも耐えられる資金額でもあるわけです。

運用リスク管理については、私の著書「日本版FIRE超入門」でも触れており、FIRE達成後の資産運用はリスクを控えたほうがいいのでは、という指摘をしています。仮に1億貯めてFIREするなら、5千万円で投資を続けるが、5千万円は預金等に移して元本割れを回避するような、リスクを下げる資産管理を検討したほうがいいということです。

ただしこれをやると運用部分で6%稼いでも全体では3%のプラスにしかならないため(また、FIRE達成者は自分の運用スキルに自信があるため)、多くの人がFIRE後も資産のほとんどを運用につぎ込んでいます。さらに増やそうとするわけです。

ところが、今年のアメリカの株式市場に多くの資産がつぎ込まれている状態、あるいはFXや仮想通貨取引で市場予測が裏目に出たような場合、個人の投資テクニックがあろうとも資産価値が一気に減少することがあります。アーリーリタイア生活に赤信号がともるというわけです。

仕事だらけの人生から解放されたと思っていたら「何もやることのない日々」は苦痛だった?

ふたつめの「FIRE卒業」パターンは、仕事に追われる日々から解放されたと思っていたら、24時間やることが何もない日々に飽き、また会社員に戻るというものです。

仕事はイヤでしょうがないからこそFIREを必死に目指してきたわけですが、いざ辞めてみたら誰とも話をせずに1日が終わる変化のない日々が繰り返され、実は会社もあなたの「社会との接点」であったことに気づかされます。

このとき、夢中になれる趣味がある人はそれにのめりこむこともできるのですが、それもない場合、やることがまったくない日々に恐怖を感じ、会社員に戻りたくなるわけです。

拙著「日本版FIRE超入門」でも、FIRE達成後の生きがい問題について指摘をしています。普通にリタイアしても「65歳までの自由な時間」より「65歳以降の自由時間」が多くなります。これが40~50歳代前半でリタイアすれば2倍以上になることも珍しくありません。

65歳で普通にリタイアした会社員でもその自由な時間をもてあまし途方に暮れます。FIRE実行に踏み切る人は、お金の問題にメドがたったら「生きがい」「趣味」などのことを一度真剣に考えてみてから、FIREを実行することをおすすめします。

人とのつながりとほどほどの収入源は残す「ゆるFIRE(サイドFIRE)」を考えてみよう

最近、「ゆるFIRE」「サイドFIRE」などのキーワードが紹介されるようになりました。これらは「経済的独立(FIREのFI部分)」を達成し、「完全な早期リタイア(RE部分)はあえて踏みとどまるようなライフスタイルです。

ただし、経済的な余裕づくり、特に老後資産形成は完了していますから、年収600万円以上稼ぐようなフルパワーでの仕事をしなくてすみます。完全に早期リタイアをしなくても、FIRE達成者の働き方には余裕があるわけです。それを活かして、ゆるく働き続けてみるのが「ゆるFIRE(サイドFIRE)」です。

日常生活費くらいを稼ぐことができれば、資産の取り崩しペースは一気に縮小できますし、運用不調時にもそれほど焦る必要がありません。

毎日やることがないような自由時間におびえる必要もありません(自由時間は夜と土日だけに戻りますが)。職場で同僚や取引先と雑談をするような社会との接点も作ることができます(これ、以外にメンタル的に重要だったりします)。

アメリカでも、1億円近い資産を持ちつつあえてスタバで働くような人がいるとか。バリスタFIREというようですが、これは「人との接点」を持ち続け、「最低限度の生活費収入」を得られます。

スタバの店員をしているとお客さんと話をし、また「ありがとうね!」と言ってもらえることがありますが、これがけっこう嬉しいものなのです。

さらに「社会保険の加入」ができるというメリットもあります。日本でも、ゆるく会社員として働くことで、厚生年金保険料と健康保険料の半分を会社に払ってもらえることになりますし、しかも将来の厚生年金額が大幅減少するリスクを抑えることにもなります(早期リタイアをすると、65歳からもらう厚生年金額が大幅ダウンになってしまう)。

「FIRE卒業」は失敗ではない

一見するとFIRE卒業というのはFIREを実行に移した人が失敗をした、というイメージがあります。おそらく記事を読んで溜飲を下げた人もあるでしょう。基本的にFIREを実行した人は羨望の的であるからです。

しかし、FIRE卒業となった人は何も恥じる必要はありません。ゆるく働くほうが経済的にもメンタル的にも安定するならそのほうがいいですし、資産をもう一度作り直す人はここまで得たノウハウを活かせば、「第二のFIRE」にたどりつける可能性もあります。

今まさにFIREチャレンジをしている会社員の人は、FIRE卒業をした先達を参考に、「十分過ぎるくらいの資産を確保してからFIRE実行に踏み切る」こと、「FIRE後何をするかをしっかり考えて踏み切ること」をよく考えておきましょう。

今回のニュースは「ゆるく働きながらFIREするのもアリ」という、もうひとつのヒントを与えてくれました。これもぜひ検討のひとつに加えてみてください。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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