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本日報道の「iDeCo加入65歳まで延長」は実現性大

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
iDeCoに65歳まで積み立てられるようにする改正の議論は実現性が高そうだ(写真:西村尚己/アフロ)

iDeCoに65歳まで加入し積みたてられるようになるという報道は実現性が高そうだ

本日のいくつかニュースがiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入延長について報じています。これは昨日(8月23日)開催された、社会保障審議会企業年金・個人年金部会の議論を踏まえたものです。

昨日の部会ではiDeCoおよび企業型確定拠出年金のマッチング拠出について議論がなされ、スケジュール感としては年内とりまとめ、来年の国会へ法案提出を目指す方向のようです。

新聞記事では観測記事やスクープ記事(実際に実行するかは分からないが、検討中の情報が記事になるもの)と、実現性が割と高い記事、実際に改正された法律の解説をする記事などがあります。今回の「iDeCoの65歳加入延長」についてはどちらかといえば、実現可能性が高いほうのニュースになると思います。

というのは、すでに昨年6月、「規制改革実施計画」(閣議決定)に「個人型確定拠出年金の加入者資格喪失年齢の引上げ」が掲げられており、法改正の下地は整っている項目だからです。

政府の目指すテーマにも入っていることから、厚生労働省がきちんと議論を詰めていけば税制改正大綱で反映されることに強い期待がもてます。

また、実現可能性が高いだけではなく、企業年金の専門家の視点からみても、これは私たちにとって有意義な改正になると考えられます。ここではその解説をしてみたいと思います。

(参考リンク)

厚生労働省 社会保障審議会企業年金・個人年金部会

日本経済新聞2019年8月24日朝刊 「イデコ加入 65歳まで延長 高齢者就業増に対応 厚労省、法改正案来年提出へ

内閣府 規制改革実施計画

現行制度は60歳までだがiDeCoに65歳まで加入し積みたてられるようになる

まず現状のiDeCoについて確認しておきます。iDeCoは個人型確定拠出年金の愛称で、個人が任意で加入し自分のお金を老後に使う目的で積み立てていく制度です。積みたてた掛金については所得税や住民税の課税を免れる税制優遇があるほか、運用益についても非課税となります。

現状のiDeCoは60歳までが加入可能年齢となっています。これは「積立が可能な年齢」という意味でもあります。60歳以降も働いていて、まだ年金受け取りをしていなかったとしても積立の追加はできません。

受け取りについては60~70歳の間となっていて、個人のライフスタイルに応じて自分で受け取りタイミングを決定できます(加入期間が10年に満たない場合、61~65歳まで受け取りを遅らせなければならない)。

これについて、改正のアイデアは「65歳まで加入できる=65歳まで積立できる」というように規制を緩和しようというものです。

現在、65歳までは継続雇用等で働ける環境が整いつつあり、60歳以降も多くの人が働いている現実があります。しかも公的年金は65歳スタートに切り替えを終えつつあります。

むしろ、2001年に法律ができあがった確定拠出年金の枠組みが、60歳代も働く現代に取り残されている格好です。

iDeCoに65歳まで入れるようになるメリットは大きい

65歳まで加入し積み立てをできることは個人にとって大きなメリットです。何より5年間長く積み立てができることで、老後の資産形成は確実に進展します。

月1.2万円の積み立てができる人(企業年金のある会社員、公務員等)なら5年で72万円、月2.3万円積み立てができる人(企業年金のない会社員)なら、138万円を積み立てることができます。自営業者等は月6.8万円の枠があるので最大で340万円の拠出も可能です。この5年間の金額が、「60歳までの積立額」に上乗せされれば老後の安心の大きな力になります。

そしてこれらの掛金は所得税・住民税の課税計算から除外されるので税負担を軽くした分、老後の財産を増やせることになります。言い換えれば、実質負担は少なくて老後の貯金が捗るということです。仮に20%相当の税金を納めていたとしたら、72万円の積み立てのうち、14万円は「税金を納めなかった分、老後の貯金が増えた」ということになるわけです。実質58万円出すと、14万円の非課税ボーナスがもらえると考えると、「運用」としても美味しい選択肢です。

また、多くの人は20歳代から計画的に老後の貯金をするわけではありません。早くても40歳代、遅い場合は50歳代であわてて積み立てを始めることがよくあります。そんな場合も65歳まで積み立てられる時間が伸びることになりメリットがあります。

現行制度だと「60歳まで積み立てするが、65歳まで働いているのに、5年間は運用だけする」という中途半端なブランクが生じていることも問題でしたが(しかもその5年間は口座管理手数料が引かれる)、これも解消されることになるでしょう。

一方で、受け取り可能な年齢については60歳で据え置き、個人の選択する自由は妨げないほうがいいのでは、という意見も出ています。「65歳まで積み立てできるように引き上げるから、65歳以降が受け取り開始年齢に引き上げる」というのも考え方のひとつですが、60歳代以降は働き方が多様で、60歳リタイアする人も少なからずいることから、強制的な引き上げは避けたほうがいいと思われます。「60歳から75歳の間で受け始める」とレンジを広げるのがいいと思います。

企業型確定拠出年金とiDeCoの同時加入にはまだ整理が必要か

同部会では、企業型確定拠出年金に対して追加の掛金を個人が積み立てるマッチング拠出の制度についても議論されています。

企業型確定拠出年金は会社が積立を行う退職金・企業年金の一種ですが、iDeCoと同等の優遇措置を得られるマッチング拠出制度を同時に実施したり、制度改正を行ってiDeCoに加入できるようにする選択肢があります。しかし、制度設計が少々複雑になるため、企業の利用が足踏み状態になっている点が指摘されています。

とはいえ、抜本的な改革をして制度を再編すると、すでに制度利用をしている企業や社員にも影響が生じるため、なかなかスッキリした妙案がないのがこちらの悩みのようです。

ただ、企業型確定拠出年金についても65歳まで加入しやすくする議論はあり(現状でも制限付きで可能)、iDeCoとセットで規制緩和が行われる可能性は高そうです。

実現は早くても数年後か それでも改正には期待

今から気が早い話かもしれませんが、改正の最短ルートを考えた場合、今年の年末に税制改正大綱で改正が認められ、2020年の通常国会に法案提出、ゴールデンウイーク前後に法案が成立、ということになります。

ただ、実際の法施行には時間を少し置くと思われ、2021年春で実施されるかも微妙なところでしょう。2022年くらいの実施が現実的かなと思います。

いずれにしても、今アラフィフの人であれば65歳まで積み立てできるイメージを持っておいてもいいでしょう。法改正の実現に期待したいところです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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