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政権交代(2)・・・政治・政策リテラシー講座5

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

先の記事にも書いたように、政権交代の問題は、民主主義の問題であり、最終的には有権者・国民の問題だといえます。

ある調査によると、国民の間に、政治は国民の声を聞いていないという思いや政治不信は根深いそうです。そのような不信の結果から、2009年の政権交代が起きました。しかしながら、その結果をみると、目先の変化はつくれても、適切な政権を運営し、社会的な変革をしていくことは簡単ではないことがわかります。

また新しい政権ができると、メディアは権力に対して否定的にみる傾向にありますので、さまざまなメディアにおいて批判的な記事もたくさんでてきます。政策が全てうまくいくとも限りません。また、政策ややり方を大きく変えるということは、これまでのやり方に慣れ、従来の手法でメリットを得てきた人(注)が、不安感や不利益を蒙ることもあるわけです。その意味で、不満や反対意見も生まれる可能性もあります。

このような状況が長く続くと、国民や有権者の間に不信や反対が生まれてきて、内閣支持率や政権党の支持率が急送に低下することもあります。それが、またメディアに取りあげられたりして、政権運営が厳しくなることもありました。

もちろん、その場合、政権をまた交代するという選択もあります。しかし、民主主義の仕組みにおいて、政策や政治で何らかの実を挙げるには、時間がかかるのです。

その意味では、民主主義のルールとして、民主主義の仕組み(つまり選挙)で選んだ以上は、有権者や国民も、政権や与党に対して、批判的精神を持ちながら、自分で選んだという事実を受け入れ、中長期的な成果に期待して、ある程度の期間は見守り、理解・支持し、場合によっては我慢することが必要であるといえます。もちろん、状況によっては果敢に決断して、選挙で再度政権を交代することも必要です。

このように、政治においては、代表には社会を導く力である「リーダーシップ」が求められるわけですが、有権者・国民には同様に上述のような心得としての「フォロアーシップ」が必要なのです。

ちなみに、アメリカでは、大統領が新しく就任して最初の100日間は、ハネムーン期間といわれ、メディアも議会も大統領への批判を控える慣習があります。それと同様のことが、有権者や国民に求められるわけです。

ここで、一つクイズを出したいと思います。

次の項目が書かれた投票項目に、みなさんも、それがほしければ「イエス(Y)」、それがほしくなければ「ノー(N)」で答えてみてください。

1.休憩時間( ) 

2.アイスクリーム( )

3.宿題( )

これは、米国の小学生向けのキッズ投票で行われるもので、米国の多くの子どもたちは、当然、1に「イエス」、2に「イエス」、3に「ノー」と回答します。みなさんもそうだったと思います。

米国の場合、子どもに回答させた後に、次のような詳細な質問が書かれた投票を子供たちに配ります。「1.<休憩時間> 20分は腕立て伏せと腹筋の時間になります。」「2.<アイスクリーム>はにんにく味です」「3.<宿題>は週末はでません」

そうすると、子供たちは驚きと失望を表すそうです。当然です。皆さんも、多分同じでしょう。

この投票クイズは、どのような投票をするかを判断するには、きちんとした情報やリサーチが必要なことを教えているのです。これは、有権者教育とか政治教育といわれるもので、国民や有権者が、政治や政策判断するために必要な知識やスキルを教える教育なのです。

社会の問題があるとき、それを解決するために、有権者が政権交代を選択することはいいことです。しかしながら、社会的な雰囲気や短期的な利益で誤った選択をすれば、民主主義の制度で、不利益を蒙るのは、有権者や国民、あるいは将来世代の国民です。つまり政治や政策は、有権者や国民自身の責任なのです。

その意味では、有権者も、子供のときから有権者教育などを通じて必要な知識やスキルを得たり、また日ごろから社会的な問題に関心をもち、できるだけ的確に政治や政策の選択・判断をしていくことが大切だといえます。選挙は、有権者・国民と政治との間の一つのコミュニケーションであり、政権交代はその結果から生まれるものといえるかもしれません。

そして、有権者・国民は、その政治選択とその結果から、成功や失敗を学んで、政治選択の次の機会やその後につなげていくことになるのです。そのように選挙や政治の実際で有権者・国民が学んでいくことでしか、民主主義の進歩はないのです。その意味でも、民主主義においては、有権者・国民の役割と絶えざる努力は非常に大切です。

以上のようなことを考えていくと、民主主義の社会を運営し、政権交代を的確な機会にしていくには、有権者・国民が、自分の社会や自分の周りの人たちに関心や愛着を持ち、この社会を守りたい、あるいはよりよい社会にしたという気持ちをもっていることが必要であり、大切であるということになります。その気持ちを実現するには、誰に政治を任せるか、今の政治がダメなのであれば次に誰に任せるかを真剣に考える必要があります。

そして、米国のオバマ大統領も言っているように、「政府はすべての問題を解決することができない」のです。ですから、わたしたち有権者や国民も、単に議員に政治や政策のすべてを任せきりにするのではなく、発言したり、必要なら自分で行動し、問題を解決していく必要があります。

これらのことからもわかるように、政権交代は政治や社会に大きな変化をもたらしますが、民主主義社会では、政権交代と連動した有権者や国民の絶えざる日常の意識や活動がさらに重要なのです。

(注)これは、一般的にはいわゆる既得権益者のことです。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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