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【パリ】コロナ「衛生パス」 デパートでも義務化

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
駅構内でも「衛生パス」アプリの宣伝キャンペーン(写真はすべて筆者撮影)

コロナ下のフランスでは8月9日から、カフェやレストランに入るのにも「Pass sanitaire(パス・サニテール=衛生パス)」が必須になりました。さらに1週間後の16日からは、いよいよパリのデパートでも導入されています。

「衛生パス」とは

フランスの「衛生パス」は、ワクチン接種証明だけを指すものではありません。8月8日付の政府発行プレスリリース等によると、つぎの3つのタイプがあります。

  1. ワクチン接種証明書
  2. 72時間以内の陰性証明書
  3. 回復が証明できる11日以上6ヶ月未満の陽性証明書 

1の「ワクチン接種証明書」はこの写真のもので、スマホとA4版の紙のバージョンとがあり、いずれもQRコードで証明できるようになっています。2回の接種が必要なワクチン(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ)は2回めの接種の7日後から有効。1回で完結するワクチン(ジョンソン&ジョンソン)については、接種の28日後から有効。また、Covid-19感染歴のある人は、一度の接種の7日後から有効となっています。

筆者の「衛生パス」。ワクチン2回接種を証明するQRコードで、紙とスマホバージョンがある
筆者の「衛生パス」。ワクチン2回接種を証明するQRコードで、紙とスマホバージョンがある

2の「72時間以内の陰性証明書」は、PCR検査、抗原検査、医療機関が行った検査結果で、いずれも政府が認める方法で解読できるQRコードを示す必要があります。

3の「回復が証明できる11日以上6ヶ月未満の陽性証明書」は、PCR検査、抗原検査で陰性が証明できることが条件になっています。

証明がないと入れないの?

「衛生パス」の提示が必要という措置は7月から始まっていて、映画館、劇場、スポーツ観戦、美術館、動物園、フェスティバル会場などがそれにあたりました。

8月9日からは、カフェ、バー、レストラン(テラスを含む)や、病院、長距離移動(飛行機や高速鉄道TGVなど)も対象になり、さらに16日からは20,000平米以上の商業施設でも適用されるようになりました。

商業施設への適応目安としては、人口10万人あたり200人以上の新規感染者がある場合となっているようですが、知事に判断が委ねられていて、パリはこの基準値よりも若干低いものの、主だったデパート(ギャルリー・ラファイエット、プランタン、BHV、サマリテーヌ、ボンマルシェなど)では16日から「衛生パス」の提示が必要になりました。

さて、じつのところどんなふうになっているのか、わたしは16日にカフェとデパートに行ってみました。

まずはサンジェルマンデプレ界隈のカフェ。8月半ばのパリは、パリっ子たちがヴァカンスで出払っていてとても静かですが、その分ツーリストの姿が目立ちます。例年に比べるともちろん少ないものの、外国人観光客の数は、昨年の夏よりもだいぶ多い印象です。

「カフェフロール」のテラス席はとなりの本屋さんの前にも拡大中
「カフェフロール」のテラス席はとなりの本屋さんの前にも拡大中

老舗カフェのひとつ「ドゥマゴ」では、テラス席のお客さんを保護する目的と、入店の動線を統一するため、歩道にしっかりと囲いができていました。

歩行者はパーテーションの右側を通るように誘導。カフェに入るにもこの先からアクセスする必要がある
歩行者はパーテーションの右側を通るように誘導。カフェに入るにもこの先からアクセスする必要がある

カフェの入り口ゾーンには「衛生パス」を読み取るためのスタッフがいる
カフェの入り口ゾーンには「衛生パス」を読み取るためのスタッフがいる

こちらも人気カフェの「ル・ボナパルト」。

サンジェルマンデプレ界隈のカフェ「ル・ボナパルト」
サンジェルマンデプレ界隈のカフェ「ル・ボナパルト」

赤い綱のところが入り口になっていて、スマホの「衛生パス」QRコードをスキャンしてもらってはじめてこの綱がとかれて中に入れるというシステムでした。

ただし、カフェのテラスというのはそもそも歩道との境界線があいまいで、その開放感こそが良いものです。わたしがテラスに座っている間にも、何組か赤い綱からではなく何気なく横のほうからテラス席に入ってきて、好きな席に落ち着くという風景が見られました。コントロールをかいくぐろうという目的ではなく、あくまでも自然に何気なく、という行動です。

入店を監視する専門のスタッフでもいないかぎり、いちいち厳密にチェックできないのが現実でしょう。ただし、ギャルソンさんはメニューを運ぶと同時に「『衛生パス』を見せましたか?」とお客さんに声をかけていて、責任者と思しき男性が着席したお客さんの「衛生パス」をチェックしていました。

入り口でチェックしきれなかったお客さんの「衛生パス」を席でチェック
入り口でチェックしきれなかったお客さんの「衛生パス」を席でチェック

各テーブルに手指消毒液がある風景もすっかりおなじみになった
各テーブルに手指消毒液がある風景もすっかりおなじみになった

デパートの前に臨時検査所が出現

老舗デパート「ボンマルシェ」の入り口には、もうずいぶん前からガードマンが常駐しています。コロナ以前にテロ対策など安全上の必要からです。

「衛生パス」提示初日のこの日、案の定、ガードマンよりも先に、スマホを手にしたスタッフが入り口に控えていました。セールのシーズンも終わり、パリっ子がごく少ない時期ですから、行列をしなければ入店できないような混乱はありません。けれども、お客さんのなかには戸惑っている人もあり、おそらく係員は終日その説明に追われていたことでしょう。

ところで、「ボンマルシェ」には、本館のとなりに食品館「ラ・グラン・デピスリー」というのがあります。こちらのほうでもやはり「衛生パス」が必要かどうかトライしてみたところ、その必要はありませんでした。

入り口スタッフによれば、「2つは別の店で、『ラ・グラン・デピスリー』は20,000平米以下だから」という説明。たしかにそうとも言えますが、コンフィヌモン(外出制限)期間中、商業施設が軒並み閉鎖になった中でも、食料品店や薬局など、生活必需品の店は開いていたことに通じるものでしょう。

右が「ボンマルシェ」本館で入り口で「衛生バス」チェックがある。左の食品館「ラ・グラン・デピスリー」はノーチェック
右が「ボンマルシェ」本館で入り口で「衛生バス」チェックがある。左の食品館「ラ・グラン・デピスリー」はノーチェック

このデパートの前の歩道に、真新しい白いテントがありました。聞けば、ここで予約なしで抗原検査を受けることができるとのこと。結果は30分後にスマホに送られてくるシステムで、この陰性証明があればデパートに入ることができるのです。

料金は、フランスの健康保険を持っていればそれでカバーされるそうですが、持っていない外国人でも、30ユーロを支払って検査が受けられるとのこと。薬局とほぼ同じシステムの検査所がデパート前にも出現したというわけです。

デパート前に真新しい仮設テント
デパート前に真新しい仮設テント

テントでは抗原検査が受けられる。数人の外国人が順番を待っていた
テントでは抗原検査が受けられる。数人の外国人が順番を待っていた

ところで、「衛生パス」チェックに対応しなくてはならない施設は膨大な数にのぼりますが、QRコードの読み取りはどうしているのでしょう?

すでに一般に浸透しつつあるTousAntiCovidというスマホアプリと同じように、TousAntiCovid Verifというチェック専用のアプリが用意されていて、それをダウンロードして「衛生パス」のQRコードにかざせば、有効かどうかがたちどころにわかるようになっています。

さて、この「衛生パス」システム。いまのところ成人(18歳以上)が対象ですが、9月30日からは12歳以上にまで拡大する方針が打ち出されています。

72時間以内の陰性証明書も有効ではあるものの、実質的にはワクチン接種をしていないとなにかと不便になりそうなのは確か。政府としてはとにかくワクチンを、という姿勢ですが、その方針に異を唱え、「個人の自由を奪うな」というスローガンを掲げ、「衛生パス」導入に反対するデモが全国各地で行われています。子供にも「衛生パス」が適用されるとなると、運動はさらに高まりを見せることでしょう。

8月17日現在、フランスのワクチン完全接種率は67.8パーセント。このところ新規感染者数は増加傾向で、2万人超という日も珍しくありません。海外県ではまたしてもコンフィヌモン(外出制限)という報道も聞かれ、まったく予断を許さない状況。コロナとの共生はまだまだ綱渡りといったところです。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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