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NHK紅白歌合戦に今年亡くなった大物音楽家への本気の「追悼コーナー」を【月刊レコード大賞・特別編】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
第74回紅白歌合戦公式サイト

 東京スポーツ紙の「スージー鈴木のオジサンのためのヒット曲講座」と連動して、毎月「レコード大賞」を決める連載ですが、今回は特別編として、今年の紅白歌合戦のあり方を考えてみたいと思います。

 さる11月13日、今年のNHK紅白歌合戦の出場者が発表されました。ざっと計44組。でも昨年は「特別企画」含めて計52組。昨日「クイーン+アダム・ランバートが特別企画で出場決定」との報道がありましたが、それでも昨年に比べて、まだ7組残っています。

 私は、この残る枠、残る時間で「追悼コーナー」をやればいいと思っているのです。それも、表面的なものではなく、本気の。

 それくらい今年は、大物音楽家が多く亡くなりました。こんな年は今までなかった。

 さて、アメリカのグラミー賞授賞式でいちばんグッとくるのが追悼コーナー「イン・メモリアム」です。今年2月の同授賞式・同コーナーでは、今年1月にお亡くなりになった高橋幸宏さんが取り上げられました。

 アメリカの音楽界が歴史をしっかりリスペクトしている姿勢がびんびんと伝わってくるコーナーです。これを日本でやるなら、最大の音楽祭典=紅白をおいて他にはないでしょう。

 だから「追悼コーナー」のためだけに、追悼する対象をリスペクトする新たな出場者を招聘し、歴史性や音楽性をも踏まえた「本気」の追悼をすればいいと思うのです。もう小1時間くらいあっていいと思います。例えば23時からはずっと「追悼コーナー」とか――。

 ここからは、紅白ファンである私の単なる妄想です(楽しいので、音楽ファンの方は、みなさん妄想してみましょう)。

 まずは紅組。作詞家・三浦徳子さんの追悼として、彼女の言葉で世に出た松田聖子が、デビューからのシングル5曲を一気に歌う「三浦徳子メドレー」を披露。

 『裸足の季節』『青い珊瑚礁』『風は秋色』(すべて80年)、『チェリーブラッサム』『夏の扉』(同81年)という、三浦徳子さんお得意の、80年代をぐっと引き寄せたキラキラした言葉のプリズムが舞台を彩ります。

 余談ですが、2020年の紅白では、郷ひろみによる「筒美京平トリビュートメドレー」が披露されたのですが、『男の子女の子』(72年)と『よろしく哀愁』(74年)の2曲だけ。天下の筒美京平さんのトリビュートとしては、いかにも物足りないと思ったものでした。

 続いて白組。YMO(坂本龍一さん+高橋幸宏さん)の追悼は、趣向を変えて、日本を代表する「YMOチルドレン」の石野卓球による「YMOスペシャルDJタイム」はどうでしょう。爆音『ライディーン』にNHKホールは大盛りあがりのダンスフロアに。考えただけでもワクワクします。

 対して紅組は、大橋純子さんの追悼として、同じく爆発的な歌唱力を誇る島津亜矢が『シルエット・ロマンス』(81年)を朗々と歌う。ちなみに島津亜矢は13年に同曲をカバーしています。

 白組の極めつけは、谷村新司さんの追悼としての「AR(拡張現実)アリス再結成」。

 2001年の紅白で、堀内孝雄が、その年に亡くなった河島英五さんの映像とデュエットした、あの演出の発展形として、最新技術を導入したアリスの「疑似復活ライブ」を展開するのです。

 (以下、技術的に可能かどうかなど分かりませんが)アリスの当時のライブ映像から、最新技術で谷村新司さんの声を抜き出し、舞台にいる堀内孝雄と矢沢透の生歌・生演奏とセッションをする。アリスで音楽を知ってギターを始めた私としては、これはもう長く見たくなる、見続けたくなる演奏になるに違いない。

 その他にも、KANさん、もんたよしのりさん、犬塚弘さんなど、彼らをリスペクトする音楽家が、リスペクトする音楽性をもって追悼する、まさに「夢の舞台」が見たいと考えるのです。

 その流れで、紅白歌合戦全体のトリは、このたび配信リリースされた桑田佳祐&松任谷由実『Kissin’ Christmas(クリスマスだからじゃない)2023』の特別バージョン『Kissin’ New Year's Eve(大みそかだからじゃない)2023』はいかがでしょうか。

 歌詞の中で「クリスマス」という言葉は「♪クリスマスだから 言うわけじゃないけど」というパートだけで使われます。ということは、そこを「♪大みそかだから 言うわけじゃないけど」と替え歌すれば大丈夫。「♪もういくつ寝るとお正月」が今回のバージョンにも入ってますしね。

 この曲の忘れられないフレーズ「♪今年の想い出にすべて君がいる」をもとに、桑田佳祐と松任谷由実、出場者と会場全員、そして視聴者の我々が、曲の最後、「追悼コーナー」の総決算として、こう歌うのです。

――「♪人生の想い出にすべて君たちがいた」

  • 『裸足の季節』『青い珊瑚礁』『風は秋色』/作詞:三浦徳子、作曲:小田裕一郎
  • 『チェリーブラッサム』『夏の扉』/作詞:三浦徳子、作曲:財津和夫
  • 『男の子女の子』/作詞:岩谷時子、作曲:筒美京平
  • 『よろしく哀愁』/作詞:安井かずみ、作曲:筒美京平
  • 『ライディーン』/作曲:高橋ユキヒロ
  • 『シルエット・ロマンス』/作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお
  • 『Kissin’ Christmas(クリスマスだからじゃない)2023』/作詞:松任谷由実、作曲:桑田佳祐

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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