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マカロニえんぴつ『大人の涙』と星野源、藤井風によるタイアップ頂上対決【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
マカロニえんぴつ Official Website

 今月は「いいタイアップソング」が多い1か月だったように思います。

 まず、いちばん良く聴いたのは、マカロニえんぴつのニューアルバム『大人の涙』。若者だけでなく大人が涙してもいい出来のアルバムでした。

 彼らに強く感じたのが「ロックバンド感」。デスクトップでワンオペで作る音楽が増えてきた反動で、コスパ・タイパの悪いロックバンドという形態が少なくなってきた中、さらに「ロックバンド感」のあるバンドなんて、風前の灯火のような気がします。

 しかしニューアルバム『大人の涙』にはロックバンド感、つまり、メンバーがスタジオの中でワイワイ言いながら、ワチャワチャしながら、音を組み立てていった感じがするのです。

 そこから生まれ出てくるのは、一筋縄ではいかない「なんじゃこりゃ」な音。

 まずは『ペパーミント』。日本テレビ系『DayDay.』テーマソングとのこと。ビートルズ的なんだけれども、本家とは違う、何かザラザラする変な調味料が入っている感じ。

『ネクタリン』はNHK Eテレ『天才てれびくん』のテーマソング。こんな奇妙なコード進行を幼少期、全身で浴びた子供たちの未来が楽しみだ。

『愛の波』は、彼らが憧れるユニコーンみたっぷり。彼らと同様「なんじゃこりゃ」なドラマだった(=ほめ言葉)テレビ朝日『波よ聞いてくれ』主題歌。

 「なんじゃこりゃ」なロックバンド・サウンドには、とても新しいのだけど、実はとても懐かしい気もしたのです。今後もワイワイ・ワチャワチャしながら、ワクワクする「なんじゃこりゃ」な音を作り続けてほしいと思います。

 あとは、星野源『生命体』。TBS系『世界陸上』『アジア大会』テーマソング。弾けるようなリズムアレンジがめちゃめちゃ気持ちいい(懐かしのPSY・Sを想起しました)。

 星野源『生命体』を直球のタイアップとすれば、日本テレビ系/テレビ朝日系『FIBAバスケットボールワールドカップ2023』の中継テーマソングとなった藤井風『Workin' Hard』は、かなりの変化球。

 「結果なんぞかったりーわ」と歌いながら、藤井風がなぜか茶畑で働き出すMVは、「絶対に負けられない戦いがここにはある」感ゼロ。そこが素晴らしい。

 いずれにせよ、これまで乱造された「がんばろう」「情熱・努力・根性」「感動をありがとう」的なスポーツ中継タイアップ曲に比べて、とても音楽的クオリティが高い。

 こうなってくると残る問題は、テレビのスポーツ中継のクオリティですね。「♪"絶対に負けられない戦い"ばっか言って、メダルの数ばっか数えて、日本のチャンスになったら叫ぶばっかの実況なんて、かったりーわ」と、最後は藤井風ふうに。

『ペパーミント』作詞:はっとり、作曲:田辺由明

『ネクタリン』作詞:はっとり、作曲:はっとり

『愛の涙』作詞:はっとり、作曲:はっとり

『生命体』作詞:星野源、作曲:星野源

『Workin' Hard』作詞:Fujii Kaze、作曲:Fujii Kaze

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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