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【中高年音楽ファン向け】今夜の「紅白」、注目すべき出場者は?

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
会場となる東京国際フォーラム(写真:アフロ)

いよいよ、あと数時間でNHK『紅白歌合戦』(以下「紅白」)が始まります。

いろいろ言われがちな紅白なので、「音楽評論家」といういかめしい看板を掲げている以上、クールに接する方が得策だと思いつつ、私(55歳)は、紅白が大好きでして、毎年楽しみに見てしまうのです。

それどころか、録り溜めた過去の紅白の映像(特に昭和版)を眺めながら晩酌するのを、至上の幸福と考える、ちょっと変わった音楽評論家でもあります。

というわけで今回は、特に私と同世代=中高年の音楽ファンの方々に向けて、今回の紅白の見どころ、聴きどころをまとめてみたいと思います。内容的に、個人的な意見が過ぎるところもあるでしょうが、あくまで参考として読んでいただいた上で、長丁場を一緒に楽しめればと思います。

今回の紅白の見どころベスト5

さて、曲順リストを見て、真っ先に感じるのは、すでに指摘されているところですが、「メドレー」が少なくなっていることです。

この背景には、昨年の紅白が、無観客というハンデを逆に活かして、音楽をしっかり聴かせるという方向に転換したことが、予想以上に好評だったことがあると思います。

昭和の紅白をこよなく愛するがゆえに、バラエティ性が過ぎた平成紅白に多少の違和感を持っていた身として、バラエティ性の象徴としての「メドレー」が減少することは、好ましいことだと思っています。

そんな視点、つまり「日本最大・最強の音楽フェスとしての紅白」を愛する視点から、今回の紅白の見どころベスト5を挙げてみますと――。

1位:millennium parade × Belle(中村佳穂)『U』

その込み入った名前からして、中高年を遠ざけるに十分ですが、自信を持って、今回の見どころの1位とします。今年ヒットしたアニメ映画『竜とそばかすの姫』のメインテーマ。「millennium parade」(ミレニアムパレード)とはKing Gnu・常田大希による音楽プロジェクトの名前で、シンガー・中村佳穂が声を担当した主人公の名前が「Belle」。

映画で披露された、あの圧倒的な高精細CG映像に乗せて流れた中村佳穂の歌声は、観る者の度肝を抜きました。今回の紅白は、中村佳穂というシンガーを、一夜にしてメジャーシーンに押し上げる可能性があると言えます。

2位:藤井風『きらり』

今回の紅白における藤井風は、2018年紅白の米津玄師の位置にあります。つまりは見どころNo.1にするべき話題の出場なのですが、今年すでにテレビ朝日『報道ステーション』などで大々的に取り扱われましたので、この位置にしました。

歌うのは『きらり』という、クールなディスコ調な曲。ですが、『報道ステーション』でも披露した、彼特有の「強い」(妙な表現だがまさにそんな感じの)ピアノ演奏も聴かせてくれると、例えば、矢野顕子が時折聴かせる「強い」ピアノ演奏を好む中高年音楽ファンにも刺さるのではないかと思います。

3位:薬師丸ひろ子『Woman “Wの悲劇”より』

こちらは、昨年紅白の玉置浩二『田園』の位置。オーケストラをバックに歌うと報道されていますが、そのオーケストラも、昨年の『田園』と同じく東京フィルハーモニー交響楽団。

こちらは何より、曲の底力を感じてください。呉田軽穂、つまり松任谷由実作曲の最高傑作だと私は考えるのです(同じく、薬師丸ひろ子の『探偵物語』は、大瀧詠一作曲の最高傑作だとも思うのですが)。

特に「♪ああ時の河を~」(作詞:松本隆)というサビからの技巧的な転調(キー:Cm→Aフラット)は「日本転調史」というものがあれば、その筆頭に君臨するものでしょう。曲の底力、凄みを、ぜひ確かめていただきたいと思います。

4位:BiSH『プロミスザスター』

「楽器を持たないパンクバンド」という変わった触れ込みでファンを増やしてきた女の子6人組。メンバーの名前は、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D……と、中高年なら、ちょっと尻込みしてしまう文字列。

「パンクバンド」と言いながら、若い女の子6人組ということで、一見、アイドル的な建て付けでもあるのですが、基本、統一された振り付け、かつ最初から最後までユニゾン(斉唱)という既存のアイドルグループとの大きな違いは、「個」が立っていることです。特にアイナ・ジ・エンドの独特のくぐもった声質は、今後シンガーとして大成していくに十分なものと見ます。

期待したいのは、1982年紅白におけるサザンオールスターズ『チャコの海岸物語』以来、断続的に発生している「事件的」パフォーマンスです。つい先ごろ、2023年での解散を発表したことは、「事件」の前触れのような感じがしてなりません。1982年紅白を生で見た立場として、BiSHには、派手で鮮やかな「事件」「やらかし」を期待したいところ。

5位:上白石萌音『夜明けをくちずさめたら』

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で、役者として進境著しい姿を見せた上白石萌音ですが、シンガーとしても素晴らしく、12月8日に放送されたフジテレビ『FNS歌謡祭第2夜』における、木村弓とのデュエット『いつも何度でも』(生歌・生中継・生演奏)は、それはもう見事なものでした。

「芸能IQ」が高いのでしょう。ゆくゆくは薬師丸ひろ子の方角に大成するはず。今回の紅白の生歌にも、期待せざるを得ません。

次点:さだまさし『道化師のソネット』

天下のさだまさしに「次点」とは失礼ですが、注目すべきは、今回歌う1980年のヒット=『道化師のソネット』の歌詞です。引用は避けますが、コロナ禍に息を潜めて踏ん張ってきた、すべての人々の胸に迫るものだと思います。なお、カウントダウンコンサートの会場から生中継とのこと。

今回の紅白の「見どころゾーン」

参考「第72回NHK紅白歌合戦 出場歌手・曲順」(NHK公式)

私は毎年、紅白の「見どころゾーン」を決めます。年も取ってきたので、紅白という長丁場をずっと集中して見るのはしんどい。そこで「この歌手からこの歌手までは全集中で見よう」という「ゾーン」を決めるのです。

今回は、その「見どころゾーン」がとても決めやすかった。かつ、その「ゾーン」に一定の長さがあって、妙な言い方ですが、効率的で無駄がない。紅白側が、私に配慮してくれたのかとさえ思いました(冗談です)。

それは「後半」の、藤井風から薬師丸ひろ子に至る、以下の並びです。

  • 藤井風『きらり』
  • YOASOBI『群青』(機械的な音列を見事に歌いこなす、シンガー・ikuraの歌唱力)
  • 鈴木雅之『め組のひと 2021紅白ver.』(大腸がんの闘病から芸能活動を再開した桑野信義も参加。実はとっても上手い彼のトランペットも聴きたいところ)
  • ゆず『虹』
  • 星野源『不思議』(昨年紅白の演奏水準は紅白史に残る)
  • あいみょん『愛を知るまでは』
  • BUMP OF CHICKEN『なないろ』(傑作『天体観測』とのメドレーとのこと。このメドレーなら許せる)
  • さだまさし『道化師のソネット』
  • 東京事変『緑酒』(椎名林檎は2010年代紅白のMVP)
  • 薬師丸ひろ子『Woman “Wの悲劇”より』

家族の世話や年越し準備など、バタバタとしながら紅白を見ることになる中高年音楽ファンの方々も、この「見どころゾーン」だけは、じっくりと画面を凝視することを、おすすめします。

あとは、2009年紅白の矢沢永吉のような「当日サプライズ」があるかとか(個人的にはAdoを期待)、ケツメイシ『ライフイズビューティフル』で、あの、中高年の星となった漫才師は出てくるのか、などのワクワクもあり。今年も紅白を楽しみながら、また1つ、歳を取りたいと思うのです。

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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