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J3福島・田坂監督インタビュー(3) 変化しなければ生き抜けない

杉山孝フリーランス・ライター/編集者/翻訳家
昨シーズンから福島を率いる田坂監督(筆者撮影)

福島ユナイテッドの田坂和昭監督は、サッカーの探求を進める。プロの世界を生き抜くために。

レジェンドたちは今もどん欲

――今年は選手が大きく入れ替わり、楽しみと不安とどちらが大きいのでしょうか。

「どちらとも言えませんね。難しさもあるだろうと考えるのは、他チームもかなり補強しつつ、パワー系の選手を集めているからです。うちはどちらかというと小柄な選手が多く、横に動くアジリティ能力で勝負するしかありません。だから、頭上をボールがポンポンと飛び交うサッカーをされると厳しくなるのではないかと考えます。

 ただ、獲得した選手たちは、私がよく言う『足が動く』し、判断の早い選手たちです。だから、密集をつくってよりコンパクトなサッカーをするには適していると思います。それに、複数のポジションでプレーできそうな選手たちを獲得しました」

――チームと個々の幅が相乗効果で広がりそうです。

「いつも話しているのですが、選手たちはいろいろな監督やチームに出会うはずです。どんな監督にも評価されるのは、安定したパフォーマンスを発揮できる選手です。そのために技術を身につけなければいけません。いろいろなポジションをやることで、技術は向上していくものです。それが選手生命を伸ばすことにつながります」

――チームも個人も、常に変化していくことが必要なのでしょうか。

「プロ選手でも会社員でも、それぞれの世界を生き抜くにあたり、変化しなければ何も変えていけません。老舗が悪いということではなく、ずっと続けることにも一理あります。でも、進化することで需要が生まれ、見てくれる人や応援してくれる人が増えていきます。特にサッカーは、変化が激しい世界です。ワールドカップなどの大きな大会を節目に、目まぐるしく変化していきます。個が変わらなければチームは変わらないし、チームが変わらなければクラブの周囲も変わっていきません。会社でも、要求に合わせた変化と貢献が、上へと行く要素だと思います。スポーツでも同じことで、何を必要とされるか分かる選手が代表チームなど上へと行けるのです。

 ベテランだって、いつまでも成長できると思います。カズ(三浦知良)さんや中山(雅史)さんも、いまだにものすごくどん欲です。草サッカーで毎年会っても、中山さんは相変わらず『うまくなりたい』と言い続けています。我々指導者も、止まった時点で終わりです。ある程度のベースはあっても、いろいろなものを求めて変化を起こしていかないと、置いていかれてしまいます」

――誰にでも常に可能性がある、ということですね。

「精神的なことになるかもしれませんが、才能をどうやって掘り起こすかも自分の能力です。もしかしたら私にも建築家や画家としての力があったかもしれませんが、それを発見するのは本人の力です。人という生き物は面白いですよ」

ラグビーからもヒントを見つける

――サッカーにも、まだ開発の余地はありますか。

「サッカーはどんどん科学的になってきています。コートやゴールの大きさや時間は決まっているけれど、足が遅いなら最短距離を走ればいい。1試合で走った距離や時速24キロでのダッシュの回数といったデータが出てくるので、それをどうトレーニングしていくのか科学的に考える時代になっています。そういうものの使い方を変えることで、変化を生むことは十分可能だと思います」

――他のスポーツから発送を得ることはありますか。

「大分では、練習場の隣で大学生が試合をしていたので、ラグビーをよく見ていました。特に後ろから見ると面白いですね。前方にパスできないので、全員で走ってボールを運びます。その際のローテーションの仕方が勉強になります。だから、たまにウォーミングアップでラグビーをすることもありますよ。後ろにしかパスできない時にどうプレーして、受け手はどう考えるのか、勉強になります」

――ないものを知恵で補うというのは、福島での田坂監督の考え方に通じるものがありますね。

「何か足りない時にどう変えていくかが面白いという人もいれば、すべてそろっているところがいいという人もいます。私は前者です。選手をどう変えていくか、どう工夫するか、というのが面白いんです。どうやってチームを変えていくかに、指導者冥利を感じます」

――今シーズンも、創意工夫の楽しいサッカーを見せてもらえますか。

「楽しいサッカーをしなければ福島じゃない、と思っていますからね。人によっては複雑に感じて、見ていても『何だ、これは?』と混乱するかもしれません。その中でも、選手を活かす狙いを示せるように、仕上げていきたいですね。それが勝利につながれば、地域の人にもスポンサーにも喜んでもらえます。育成と結果の両立は難しいとよく言われますが、私はどのチームでもそれにトライしてきました。今シーズンも、それは変わりません。いろいろなことを学ばせてもらった去年のベースに、上乗せをしていけます。だから楽しみなことは多いし、アイディアが湧いています」

――それを多くの人が見て、さらに楽しんでくれるといいのですが。

「たくさんの人に見てもらうためには、結果も出さなければいけません。さらに面白いことをやっていき、クラブが地域の人や行政を良い関係に巻き込んでいきたいんです。

 ユナイテッドは、福島県を巻き込んでいかなければいけません。スポーツ文化を、もっと発展させたいんです。地元にプロチームがあることで、子どもにスポーツをする環境と、夢を与えなければいけません。未来のためにも我々は、今できることを精いっぱいやっていかなければいけません。ユナイテッドに所属して、どういう貢献をしたか、名は刻まれていくんだと、選手にも話しています。そのための良い結果が出るシーズンにできるよう、頑張ります」

福島ユナイテッドは11日、ホームにザスパクサツ群馬を迎え、今季初戦を戦う。

FUFC PRESSから転載、一部加筆。

フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

1975年生まれ。新聞社で少年サッカーから高校ラグビー、決勝含む日韓W杯、中村俊輔の国外挑戦までと、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を約3年務め、同サイトの日本での人気確立・発展に尽力。現在はライター・編集者・翻訳家としてサッカーとスポーツ、その周辺を追い続ける。

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