Yahoo!ニュース

Sミドル級の4冠王者カネロは危険な若き暫定チャンプ・ベナビデスの挑戦を受けるのか

杉浦大介スポーツライター
Amanda Westcott/SHOWTIME

11月25日 ラスベガス マンダレイベイ・リゾート&カジノ

WBC世界スーパーミドル級暫定タイトル戦

王者

デビッド・ベナビデス(アメリカ/26歳/28-0, 24KOs)

TKO6回終了

2階級制覇王者

デメトリアス・アンドレイド(アメリカ/35歳/32-1, 19KOs)

実力証明の完全勝利

 “メキシカン・モンスター”。マイク・タイソンが授与したというそんなニックネームが大げさには感じられないベナビデスの強さだった。

 サウスポーの技巧派、アンドレイドに最初の2ラウンドこそ奪われたものの、3回にスイッチが入って以降は一方的。4回に右フックでダウンを奪い、同時にボディ攻めも有効だった。5、6回は叩きつけるような左右パンチで襲いかかり、優勢は誰の目にも明白だった。

 最後まで打ち返して闘志をみせたアンドレイドだったが、あれ以上続けてもダメージを蓄積するか、豪快に倒されるだけだっただろう。6回終了時、コーナーがストップをかけたのは賢明は判断だった。

 「ベタ足だとか、デイフェンスが悪いとかいろいろ言われてきた。ただ、(アンドレイドは)最高級のディフェンスを持つ選手で、オフェンス面もいい。その選手が僕にはほとんどパンチを当てられなかったんだ。自分こそがベストだ。レジェンドになっていくつもりだよ。前の前に現れる敵を倒し続けるだけだ」

 ベナビデスは試合後、リング上でそう勝ち誇ったが、実際にこの日の勝利はキャリアでもベストと言えたのではないか。2023年、元IBF世界スーパーミドル級王者ケイレブ・プラント(アメリカ)、アンドレイドという実力者の連破に成功。この印象的な2試合を終え、年齢的にもこれから全盛期を迎える怪童が、現役では依然として最高級のビッグネームとの決戦を望んだのは当然の流れだった。

 「支配的な力を証明できたと思う。スーパーミドル級の真の王者が誰かをみんなに思い出させられた。僕とカネロの対戦をみんな見たいだろう?」

メキシコの英雄とメキシコ系新スターのスーパーファイト

 これまでサウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)対ベナビデス戦が行われなかった最大の要因は、ベナビデスがリング外の理由で2度、世界戦線から一時的に後退したからに他ならない。

 早い段階から希有なポテンシャルを誇示していたベナビデスだが、2018年にコカイン使用発覚、2020年の防衛戦前には規定体重を2.8パウンドもオーバーして王座剥奪。タイトルを持っていないなら、スーパーミドル級の4冠統一に執心するカネロがわざわざ後ろを振り返り、これほど若く、危険なパンチャーと拳を交える理由はない。興行の観点から見ても、メキシコ系ゆえに人気のポテンシャルは高くとも、短期間に2度もトラブルを起こした選手を大イベントの中心に据えるのはリスクが大きかった。

 ただ・・・・・・。ここでベナビデスが立派な実績を積み上げ、カネロの持つ4冠のうちWBCの指名挑戦者にもなったことで、ビッグファイトの機は熟した感がある。いや、“対戦しない理由がなくなった”という方が正確だろうか。

Amanda Westcott/SHOWTIME
Amanda Westcott/SHOWTIME

 9月、2階級下のジャーメル・チャーロ(アメリカ)が相手の比較的容易な防衛戦で判定勝ちを挙げたカネロにとって、来年5月のシンコデマヨはベナビデス戦こそがまさにパーフェクトファイト。好ファイトになる可能性は高く、今では興行的な成功も約束されたスーパーミドル級の頂上決戦である。

 他にめぼしいチョイスがあるわけではない。ファンをある程度、納得させられる選択肢として残っているのは、一度は敗れたドミトリー・ビボル(ロシア)との再戦、3階級下のテレンス・クロフォード(アメリカ)のメガマッチくらいか。

 ここで一部で噂されたハイメ・ムンギア(メキシコ)戦、復帰したばかりのジャモール・チャーロ(アメリカ)戦などを組むようなことがあれば、かなり激しく批判されるに違いない。そういった意味で、カネロは次戦決定まで、“ベナビデス戦を受けなければいけない”という一部のファンからのプレッシャーに少なからずさらされることになるのかもしれない。

予想はやはりカネロ優位と出そうだが

 いつしか33歳となったカネロにとって、ベナビデス戦は得るものも大きいが、リスクも大きい一戦となる。アンドレイド戦のベナビデスはクルーザー級かと思えるほどに大柄で、小型スーパーミドル級のカネロとの骨格の違いは歴然。アンドレイドは敗戦後、そのサイズのアドバンテージを強調していたが、規定の体重を作れている限りはそれもまた立派な武器である。

 それでも技術的に大きく上回るカネロが序盤を制するのは間違いなく、そこで主導権を奪ってしまっても不思議はない。スキル、ディフェンス力に秀でたベテランが、経験の差を感じさせる形でベナビデスを上回れば大きい。パウンド・フォー・パウンドのトップ3再浮上が考慮されるだけの貴重な1勝になるだろう。

写真:ロイター/アフロ

 ただ、カネロのカウンターを度々浴びてもベナビデスが決定的なダメージを負わなかった場合、勝負はわからなくなる。ポイントでリードされても、どこかで強打を決めて一気にペースを奪うのがベナビデスの常套手段。特にスタミナも落ちた後半、ベナビデスのパワフルなコンビネーションをカネロがもてあますような流れになったなら・・・・・・・。

 予想は依然としてカネロ優位と出るだろうが、勝つとしてもそれなりの消耗は覚悟しておかなければならない一戦。ミゲール・コット(プエルトリコ)対アントニオ・マルガリート(メキシコ)のような展開で後半、ラッシャーが徐々に形勢逆転しても驚くべきではないのかもしれない。

 それほどにスリリングなポテンシャルを秘めたバトルは実現するのかどうか。キャリアも後半に差し掛かった現時点でのカネロは、危険な戦いにどんな反応を示すか。主役の両者のファン層が被るのがネックだが、それでもPPV購買数80万ドルくらいは望めそうなビッグファイトは成立までこぎつけられるのか。

 カネロはともかく、その陣営は望んでいないという噂もあったマッチアップだけに、今後の展開が気にかかる。まずはカネロ本人が近い将来、どんな意思表示をするかを楽しみに待っておきたい。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事