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4冠王者対決後にカネロ対クロフォード戦実現か 米殿堂入りアナウンサーが大胆予想

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

9月30日 ラスベガス T-モバイルアリーナ

世界スーパーミドル級4団体統一タイトル戦

王者

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/33歳/59-2-2, 39KOs)

12回戦

世界スーパーウェルター級4団体統一王者

ジャーメル・チャーロ(アメリカ/33歳/35-1-1, 19KOs)

 史上初の4冠王者同士の対戦のゴングが間近に迫っている。メキシコの英雄・カネロが健在ぶりを示すのか。2階級を上げて挑んでくるチャーロが不利の予想を覆し、初のメガファイトで世界中を驚かすのか。両者は29日、前日計量をともに167.4lbsでクリアし、決戦ムードが高まっている。

 楽しみな1戦を前に、元HBOの名アナウンサー、ジム・ランプリーに今戦の展望と予想を尋ねた。ランプリーは「HBO World Championship Boxing」の実況を30年にわたって務め、2015年にボクシング名誉の殿堂入りも果たした大ベテラン。今戦ではPPV.comのライブアナリストを務める74歳は、カネロの今後について興味深い予想も巡らせてくれた。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 *以下、ジム・ランプリーの1人語り

 注目ポイントは“左フック”と"昇級の影響”

 カネロ対チャーロ戦の鍵を挙げるとするなら、まずはチャーロがカネロが放つ左フックを浴びない位置にいられるかどうかだと思います。カネロの過去の戦いでも示されて来た通り、その左フックは勝負を決める可能性のあるパンチです。

 チャーロにとってはハイペースの戦いになった方が勝機があるでしょうから、アグレッシブに攻めなければならないし、自らアクションを起こす必要がありますが、その一方で左フックは常に警戒しておかなければいけません。いずれにしても、チャーロには容易な戦いにはならないでしょう。

 チャーロが2階級を上げてこの試合に臨んでくることが、どんな影響をもたらすかにももちろん注目しています。マイナス点が指摘される傾向にありますが、階級を上げることがポジティブに働くケースも幾つも見て来ました。

 特にチャーロはカネロよりも長身です。スーパーミドル級の身体を作り上げるのは難しくないようにも思えます。ただ、これに関しては実際に戦いを見てみないとわからないところがあります。

 カネロは巨大な野心に突き動かされ、素晴らしいキャリアを築き上げて来ました。現在のカネロのモチベーションは、“史上最高のメキシカンボクサー”と記憶されて引退すること。彼にとってそれ以上の栄誉はないはずで、その目標に向けて最高の集中力を持って今戦に臨んでくると考えています。そんなカネロが勝利の術を見つけなかったとすれば私は驚くでしょう。

評価を取り戻すための戦い

 カネロがキャリアの下り坂にいるのは事実には思えます。もっとも、そういった見方の大部分はドミトリー・ビボル(ロシア)戦から生まれて来たもの。あの試合の敗戦はマッチメイクのミステイクだというのが私の意見でもあります。

 なぜカネロはビボルと戦わねばならなかったのか。アメリカ国内でも、欧州でも、カネロ対ビボル戦の挙行を望んでいるファン、関係者など存在しませんでした。より大きく、リーチも長く、強さも備え、アマチュア経験も豊富な上の階級の王者とあえて戦う必要はなかったと思っています。

 今のカネロはそのミステイクから回復している最中。チャーロ戦はその途上で迎えた一戦です。ここでチャーロに敗れるようなことがあれば、もう下降線、ピークは過ぎたという見方は確かなものになるのでしょう。そうはさせないというのがカネロの大きなモチベーションになっていると私は感じています。

Esther Lin/SHOWTIME
Esther Lin/SHOWTIME

 これは昨日、カネロにインタビューした際の話です。「現在、パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングではテレンス・クロフォード(アメリカ)が1位、井上尚弥(大橋)が2位だと誰もが考えている」と彼に伝えると、カネロは「同意しません。私こそがいまだにPFP1位だと思っています」と返答しました。

 そこで私は「今回の試合でそれを証明する必要がある」と告げましたが、そのような周囲の見方からもカネロは闘志をかきたてられているのでしょう。

 そういった背景も考慮し、私は今戦ではカネロが10回TKOでチャーロを下すと予想しています。とても良い試合になると思いますが、気を引き締めたカネロが仕事をやり遂げると見ています。

階級の違いを超えたスーパーファイトが視界に入るのか

 最後にカネロの今後についても触れておくと、先ほども話した通り、カネロは自身がPFPでクロフォードに匹敵する位置にいると信じています。私を含め、周囲が同意していないことを熟知したカネロは、キャリア終盤に自分の言葉を証明するための戦いを選ぶと見ています。

 結論を言うと、チャーロ戦後、3階級の差を超えてのクロフォードとの直接対決が実現するんじゃないでしょうか。クロフォードもその試合を望んでいるでしょうし、両者の交渉が注目されることになると思います。

 最も理に叶うカネロの対戦相手を問われれば、それはデビッド・ベナビデス (アメリカ)との激突です。ただ、一般的に最も注目を浴び、話題を呼ぶ試合を選ぶなら、クロフォード戦の方でしょう。

 カネロ自身も、PFP1位で引退するためにはクロフォード戦が必要だと考えると思います。もちろんベナビデス、クロフォードの両方と対戦してくれるのであればベストではありますが、カネロはクロフォード戦の魅力を無視できないというのが私の予想です。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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