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次戦はムンギア、ゴロフキン? 人気者ベルランガを獲得したマッチルームの思惑とは

杉浦大介スポーツライター
Ed Mulholland/Matchroom

6月24日 ニューヨーク

マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

NABOスーパーミドル級タイトル戦

エドガー・ベルランガ(アメリカ/26歳/21-0, 16KOs)

3-0判定(116-108x2, 118-106)

WBO王者

ジェイソン・クイグリー(英国/32歳/20-3, 14KOs)

無敗のパンチャーが移籍初戦を制す

 言うまでもないことだが、集客力、人気があるというのはプロボクシングの世界では非常に大事な要素である。

 まだ世界タイトル挑戦の経験すらなくとも、ベルランガはその面ではすでにハイレベルと言えよう。この日もマイナータイトル戦、アンダーカードにも特筆すべきものがなかったにもかかわらず、キャパシティは約5000人という中規模アリーナがソールドアウト。アトラクションに溢れたマンハッタンのど真ん中に、それだけのファンを集められるボクサーはそれほど数多くいるわけではない。

 ただ・・・・・・肝心のパフォーマンスを見る限り、少なくとも現時点のベルランガはやはり“人気先行”と考えられても仕方ないように思えた。

 中堅のクイグリーから3、5回に1度ずつ、12回に2度と合計4度のダウンを奪っての判定勝ち。馬力とパワフルなパンチを改め示し、かつて世界王者時代の村田諒太の対戦相手候補にも挙がったアイリッシュを相手に挙げた勝利に価値はある。とはいえ途中、アウトボクシングを許し、相手のカウンターを浴びるシーンもしばしば見受けられるなど、隙の多い戦いぶりにも見えた。

Ed Mulholland/Matchroom
Ed Mulholland/Matchroom

 一時は破竹の勢いで名を売ったベルランガだが、16連続初回KOの後、これで5連続判定勝ち。2022年6月のロアメール・アングロ(コロンビア)戦で相手に噛みつき事件を起こした後、トップランクとは友好的に別離した。マッチルーム・スポーツに移籍しての約1年ぶりのリングでも、大きな成長度を見せたとは言い難かった。

 「7〜11ラウンドは大人しくなってしまったね。(ただ、)2、3回で決着がついてしまっていたら、彼のためにもならなかった」

 争奪戦の末、ベルランガを獲得したエディ・ハーン・プロモーターのそんな言葉は真実なのだろう。

 初回KO記録のおかげでビッグパンチを狙いすぎる悪癖がついた印象もあったが、この日はよりまとまったボクシングではあった。より試合感覚が詰まるであろう次戦以降、さらなる成長度を誇示できるかどうかが見どころになってくる。

次戦の相手はビッグネームか

 「最高の相手と戦いたい。その時が来たと感じている」

 そんなベルランガの言葉に同意するかどうかはともかく、26歳のプエルトリコ系アメリカ人にステップアップの時が近づいているのは間違いない。

 スーパーミドル級での最大のターゲットはもちろん4団体統一王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)。 今回のクイグリー戦に好内容で勝てば、カネロ側が9月に予定する次戦の相手にベルランガを指名するのではという予測もあった。

 正直、現状では力の差があるカードだが、プエルトリコ対メキシコのライバル関係もあり、興行的な成功は確実。マッチルームはベルランガ獲得交渉の際、カネロ戦をチラつかせたと信じられている。

 ただ、ベルランガ対クイグリー戦の直前、カネロはPBCと複数戦契約を結ぶと報道されたのはご存知の通り。3戦契約なのであれば、ベルランガのカネロ挑戦は少なくとも来年いっぱいは難しくなる。しばらくは独自路線をいくことを余儀なくされるはずだ。

 次戦がより大きなファイトになると仮定して、理想的な候補はハイメ・ムンギア(メキシコ)、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)か。

 42戦全勝(33KO)という立派な戦績を積み上げながら、ミドル級以上ではなかなかステップアップしないムンギアとの対戦を組めば、これもまたプエルトリコ対メキシコのマッチアップ。一部のファン、関係者から真価に疑問が呈されていることでもこの2人には共通点がある。ともに攻撃的なスラッガー同士、実現すればスリリングな試合になるだろう(現在、ムンギアを抱えるゴールデンボーイ・プロモーションズのオスカー・デラホーヤとハーンは不仲ゆえ、対戦交渉は一筋縄ではいかなそうではあるが)。

 ピーク時のゴロフキンはベルランガよりもはるかに格上の選手だったが、41歳になった今では世界王座をすべて返上して半引退状態。報酬次第で現役続行もあるという話だけに、少々強引に引っ張り出すことは不可能ではないだろう。ベルランガには危険な相手ではあるものの、GGGの衰えが昨年9月のカネロ第3戦よりさらに進んでいることも考えられるのは事実ではある。

Ed Mulholland/Matchroom
Ed Mulholland/Matchroom

 「(ベルランガの相手には)勝ちに来る選手が必要だ。前がかりで戦う選手を相手にしたとき、彼の力も存分に発揮されるのだから」

 ハーン・プロモーターのそんな分析は的確に思えるが、今後もベルランガのマッチメークは容易ではあるまい。冒頭で述べた通り、興行力の高さゆえに貴重な存在ではあるが、一気に対戦相手の質を上げすぎればあっさりと失速しても不思議はない。本人の気持ち、ファンの期待を満たし、それでいて勝機のある相手を首尾良く見つけられるかどうか。最終的にトップランクが手を焼いたのはこの部分であり、柔軟性に定評のあるハーンの手腕が改めて問われる。

 現実的にはジョン・ライダー、ビリー・ジョー・サンダースといった英国勢が適任かもしれないが、どのレベルの相手を選ぶかが注目される。その選択から、マッチルームとDAZNの、現在のベルランガへの評価と期待度がうっすらと見えてくるのかもしれない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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