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全勝同士注目のSフェザー級頂上決戦。勝つのはシャクールかバルデスか。現地記者が展望

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

4月30日 ラスベガス  MGMグランドガーデン・アリーナ

WBC、WBO世界スーパーフェザー級王座統一戦

WBO王者

シャクール・スティーブンソン(アメリカ/24歳/17-0, 9KOs)

12回戦

WBC王者

オスカル・バルデス(メキシコ/31歳/30-0, 23KOs)

 現地時間30日の夜、スーパーフェザー級の覇者を決める統一戦がラスベガスの聖地MGMグランドガーデン・アリーナで行われる。リオ五輪で金メダル獲得後、無敗のまま2階級制覇を達成したスティーブンソンがスター街道を走るのか。同じくプロデビュー以来全勝ながら、昨年9月の防衛戦前に禁止薬物問題で物議を醸したバルデスが名誉挽回の一戦を飾るのか。

 様々なストーリーラインに満ちた戦いは、ESPN系列で全米中継される。4人の在米メディア、関係者にこの試合に関する3つの質問をぶつけ、試合の行方を占ってみた。

パネリスト

ジェリー・クーニー(元世界ヘビー級タイトル挑戦者。元祖“ホワイト(白人)ホープ”と称されて1970~80年代に一世を風靡し、ラリー・ホームズ、マイケル・スピンクス(ともにアメリカ)に挑戦した)

ライアン・オハラ(コロラド州在住のライター。リングマガジンで記事を執筆する Twitter : @OHaraSports)

ノーム・フラーエンハイム(アリゾナ州在住のスポーツライター。アリゾナ・レパブリック紙、LAタイムズなどで記事、コラムを執筆 Twitter : @FrauenheimNorm)

ハンス・セミストーデ(ニューヨーク在住のボクシング記者。BoxingInsiderの編集者&ライター Twitter: @themistode)

1. スティーブンソンが勝ち、さらにファンを魅了するためにやるべきことは

クーニー : すでに2階級を制覇したスティーブンソンだが、依然として伸びしろを残している。スムーズで、スピードがあり、身体も強くなってきた24歳は大変な逸材だ。下半身を安定させた力強いパンチを打つのが課題だと思っていたが、最近では強打もできるようになってきた。テレンス・クロフォード(アメリカ)と一緒に練習するなど、優秀な人材に囲まれていることも大きい。スティーブンソンがセンセーショナルな試合を見せると思う。

オハラ : ビューティフルなテクニシャンのスティーブンソンが、観客を喜ばせるために特別なことをやるとは思えない。危険なパンチャーのバルデスを相手に、勝つためのボクシングに徹するだろう。フットワークを使い、角度を変えながら、バルデスのタイミングを狂わせようとするはずだ。

フラーエンハイム : スティーブンソンの技術の高さには疑いの余地はない。スピーティなフットワーク、反射神経、的確なカウンターをすべて持ち合わせ、そろそろパウンド・フォー・パウンド・ランキングが考慮されてしかるべきだ。スターダム入りに向けた向上心を忘れないスティーブンソンにとって、バルデス戦は次の段階に進むための舞台になる。大きく上回るスピード、クイックネスを有効に生かすのがそのための鍵。ただ、スティーブンソンが断然優位というオッズが指し示すよりも、今戦は難しい仕事になると私は考えている。

セミストーデ : 過去、手足の速いアダム・ロペス(アメリカ)に苦しみ、アウトボクサーのロバート・コンセイソン(ブラジル)にも敗北寸前の大苦戦を喫したことが示す通り、バルデスの苦手タイプははっきりしている。確かな技術を持ったそれらの選手たちより、スティーブンソンははるかに優れたボクサーだ。その気になれば苦もなくアウトボクシングできそうだが、内容を意識するなら、前戦のジャメル・ヘリング(アメリカ)戦で見せたより積極的な戦い方が指標になる。好調時のスティーブンソンなら、バルデスの周囲を軽快に動き回り、守備に気を配りながら、それでいて多くのパンチを打ち込めるはず。MGMに集まる大観衆を喜ばせる戦い方ができるに違いない。

Mikey Williams/Top Rank via Getty Images
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

2. バルデスが番狂わせを起こすには何をすべきか

クーニー : バルデス陣営は本当はこの試合を受けたくなかったが、昨年9月の薬物騒動の名誉挽回のため、承諾せざるを得なかったという業界内の噂を聞いた。実際にこの試合ではバルデスの不利は否めない。番狂わせを起こすためには、距離を詰め、どこかでいいパンチを当て、スティーブンソンにダメージを与えると同時にリスペクトを勝ち得ることだ。モハメド・アリ対ジョー・フレイジャー第1戦のフレイジャーのように戦わなければならない。そのためには最高のコンディションで臨む必要がある。

オハラ : バルデスはプレッシャーをかけ、スティーブンソンにミスをさせることが必須。ただ、スティーブンソンが致命的なミスを犯すとは思えない。

フラーエンハイム : スティーブンソンはこれまで苦戦の経験すらないが、意志の強さを備えたバルデス戦でついに試練に直面すると見る。スピードで劣るバルデスにとって、ボディから顔面へのコンビネーションを当てる術を見つけられるかどうかがポイント。粘り強いバルデスは、この試合のどこかでそれを可能にするのではないか。

セミストーデ : とにかくプレッシャーをかけることだ。ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)戦でのバルデスはうまくカウンターを取ったが、スティーブンソン戦でそれを試みようとすべきではない。ジャブは放つ必要もない。自分の頭を相手の胸に押し付け、ロープ際に強引に押し込むこと。スティーブンソンにパンチを当てるのは難しく、特に最初の数ラウンドはバルデスには難しい戦いになるはずだ。それでも積極性を保ち、相手を疲れさせられれば、ボディブローか右オーバーハンドがヒットする機会も出てくるかもしれない。ハイペースで攻め、スティーブンソンを精神的に疲れさせるのは必須。まだ苦戦の経験がないスティーブンソンに快適に感じさせないように戦えれば、番狂わせの可能性も見えてくる。

Mikey Williams/Top Rank via Getty Images
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

3. 試合予想は

クーニー : スティーブンソンが徐々にペースを握り、バルデスを切り刻み、終盤KO勝ちを収めるだろう。

オハラ : スティーブンソンが“クリニック”と呼び得るボクシングで3-0の判定勝ちを飾る。

フラーエンハイム : スティーブンソンにとって容易な試合になるとは思わないが、最終的にはWBO王者の若さと消耗の少なさが勝負を分ける。スティーブンソンが序盤を制し、バルデスの中盤の反撃からもサバイブし、中差の3-0判定勝ちで統一に成功すると見る。

セミストーデ : バルデスは“素晴らしいボクサー”であり、エディ・レイノソという最高のトレーナーもついている。ただ、スティーブンソンは“特別なボクサー”だ。24歳のスティーブンソンは世界最高の選手を目指していて、実際にいずれパウンド・フォー・パウンド最強と認められるようになるかもしれない。その日は多くの人の想定よりも早く訪れる可能性がある。スティーブンソンが判定勝ちを収め、実力を改めて印象付けるだろう。

Mikey Williams/Top Rank via Getty Images
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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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