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“ネクスト・メイウェザー”が伊藤雅雪を撃破した王者へリングと真価が問われる一戦へ

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams (Top Rank)

10月23日 アトランタ ステイトファーム・アリーナ

WBO世界スーパーフェザー級タイトル戦 

王者

ジャメル・ヘリング(アメリカ/35歳/23勝(11KO)2敗)

12回戦

同級暫定王者

シャクール・スティーブンソン(アメリカ/23歳/16戦全勝(8KO))

友人対決ではない?

 少々地味ながら、今秋のボクシング界では屈指の好カードの開始ゴングがもう間近に迫っている。

 2019年に伊藤雅雪(横浜光)に勝って王者になり、4度の防衛を重ねてきたヘリングに正念場が到来。フェザー級に続く2階級制覇を狙うスティーブンソンとの防衛戦は、ハイレベルの技術戦となることが必至だ。

 この試合は、両者ともにネブラスカ州オマハでボーマック(Bomac)ことブライアン・マッキンタイア・トレーナーに指導を受けた同士の対戦であることが話題の1つになっている。

 ヘリングはボーマックに師事して以降、7戦7勝とキャリアを大きく転換させた。一方、スティーブンソンのチーフトレーナーは別にいるが、オマハのマッキンタイアのジムでトレーニングを積んだ経験がある。2人は同じくボーマック傘下のWBO世界ウェルター級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)と親しいことでも共通しており、いわば“同門対決”と呼べないこともない。

 「彼は友人じゃないし、好きでもない。ボクシング以外ではヘリングと話すこともないよ」

 スティーブンソンは最終会見の際に盛んにそう語り、友人同士の戦いであることは否定していた。

 こうして顔見知りの相手と少々強引なトラッシュトークを演じようとした背景には、今戦はNBAのアトランタ・ホークスの本拠地が舞台となる大興行だが、チケットセールス不振が騒がれたことも影響しているのだろう。

 実際にこの記事を書いている現在、アンダーカードが行われているアリーナの上階はカーテンで閉じられている。アトランタが第2の故郷と言えるジャーボンテ・デービス(アメリカ)が6月のマリオ・バリオス(アメリカ)戦でこの会場を超満員にしたような盛況は望めそうもない。

 卓越したディフェンス技術で“ネクスト・メイウェザー”とまで称されてきたスティーブンソンだが、リオ五輪銀メダリストの肩書きがあった上でも、実際に知名度はまだ全国区とは言いきれない。パワーと攻撃時の迫力には欠け、安全運転に終始したジェレマイア・ナカシリャ(ナミビア)との前戦では凡庸な内容を批判された。そんなスティーブンソンがさらにメインストリームに躍り出るために、試合運びの巧さを評価される先輩サウスポー、ヘリングとの一戦ではアピールが必要と考えるファン、関係者も多いに違いない。

“近未来のパウンド・フォー・パウンド候補”らしい戦いを

 これまで伊藤、ラモン・ローチ Jr.(アメリカ)、ジョナサン・オケンド(プエルトリ子)といった底力のある選手を下してきたヘリングは、特に4月の前戦で英国の強豪カール・フランプトンを見事な6回KOで下して称賛された。

 一方、スティーブンソンはクリストファー・ディアス(プエルトリコ)、ジョエ・ゴンサレス(アメリカ)といった実力者に勝ってはきたものの、王者との対戦は実はこれが初めてである。それでも掛け率では圧倒的に有利とされているのがスティーブンソンのポテンシャルの証明。過去最大の話題を集め、ESPNで生中継される今戦は、一般的にスティーブンソンの”カミングアウト・パーティ”と見られている節すらある。 

 そんな状況下で迎える今戦で、“近未来のパウンド・フォー・パウンド候補”とすら評価されるスピードスターがどんなボクシングを見せるか。

 ともに端正な技巧派同士。サイズ、リーチではヘリングが上回っているものの、スピード差は歴然としており、スティーブンソンの優位は動かない。両者のタイプを考えれば、挑戦者が多少強引にいくことは王者にとってプラスに働きかねないようにも思えるだけに、その戦い方に興味はそそられる。

 「必要以上に積極的に出る必要性は感じていない。これはエリートレベルの世界戦だ。KOを狙うとも言わないけど、彼がミスを犯したらつけこむつもりだ」

 最終会見時にはそう述べていた24歳の挑戦者は、普段通りのディフェンス技術に程よい積極性をプラスしたエリートファイターらしい姿を見せられるか。

 黒人が多いアトランタのファンとESPNの視聴者を魅了し、オスカル・バルデス(メキシコ)との統一戦の機運を高められるか。もちろんヘリングは決して簡単には勝てない王者だが、そんな選手との戦いは、スティーブンソンにとってスターダムへの試金石という捉え方もできるはずである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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