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五輪4連覇に暗雲? 男子バスケのアメリカ代表に何が起きているのか、海外記者が解説

杉浦大介スポーツライター
Ned Dishman/NBAE/Getty Images

 アメリカ代表は東京五輪で4連覇を果たせるのかーーー。

 レブロン・ジェームズ、ステフィン・カリーといった大物が辞退し、アメリカは少々スケールダウンした陣容となった。7月上〜中旬にラスベガスで行われたエキジビションゲームでは、ナイジェリア、オーストラリアにまさかの2連敗スタート。その時点で先行きに不安が囁かれたのは仕方ない。

 しかし、エキジビションゲームの最後の2戦ではアルゼンチン、スペインに連勝。徐々に調子を上げ、NBAファイナルに出場しているメンバーもまもなく合流するアメリカは、上り調子で五輪の戦いに臨めそうではある。

 本番を直前に控え、AP通信のバスケットボール記者で、2006年以降、アメリカ代表の戦いを継続して眺めて来たブライアン・マホーニー氏に意見を求めた。米国時間7月23日には東京に飛び、通算5度目の五輪取材に臨むという大ベテラン記者の目に、今回のアメリカ代表はどう映っているのか。

準備が最も難しかった五輪

 東京五輪へ向けた準備は、アメリカ代表にとって極めて難しいものになりました。

 ラスベガスでのエキジビションゲームで苦戦を続けたというだけではなく、ブラッドリー・ビールの離脱、ケビン・ラブの辞退のおかげで選手の入れ替えを余儀なくされました。ここに来て、ザック・ラビーンが安全衛生プロトコルに入ったおかげで東京入りが遅れるというニュースも届いてきています。NBAファイナルに出場している3選手の合流も大会開始直前にずれ込みました。私の知る限り、五輪前にこれほど厳しいチーム作りを強いられたアメリカ代表は過去にはなかったと思います。

 エキジビションゲームで2敗を喫したことには私も驚かされました。オーストラリアは多くのNBA選手を擁した好チームだということはわかっていたので、オーストラリア戦の敗戦はそこまでの衝撃ではありませんでした。しかし、ナイジェリアに負けるとは思わなかったというのが正直なところ。ナイジェリアはより長期にわたってチームとしての練習を積み重ねていたことは承知していましたが、それでも、です。

 ナイジェリア戦後、グレッグ・ポポビッチHCは「ここで負けたことはある意味で嬉しい。ここから学ばなければいけない」と話していました。どこかで負けることがあるとすれば、本番の五輪よりもエキジビションで負ける方がベターなのは確かでしょう。国際試合の経験が不足した選手たちは、ここでの敗戦でライバル国への警戒心を強め、より切迫感を持って臨むかもしれません。

 ただ、その一方で、過去の大会のように毎試合大差をつけて勝つのではなく、早々と2敗を喫したことで、五輪で対戦する国々に自信を与えてしまったのではないかと思います。多くのチームは「今回のアメリカには付け入る隙がある」という意識で対戦に臨むことでしょう。

リラードの勝負強さとリーダーシップも不可欠ぼ武器だ
リラードの勝負強さとリーダーシップも不可欠ぼ武器だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

攻撃面ではリオ五輪のチームよりも上

 今大会に臨むアメリカ代表の強みを探すなら、まずはケビン・デュラントの存在が真っ先に挙げられます。アキレス腱のケガから復帰して1年目、しかもプレーオフでも長時間をプレーした後だったので、私はデュラントが五輪でプレーするとは思いませんでした。しかし、結局、デュラントは出場を選択しました。世界最高級の選手であり、国際試合でもカーメロ・アンソニーらと並び、アメリカ史上最高レベルの活躍をしてきたスコアラーがコートにいることには大きな意味があります。

 デュラント同様、国際試合の3ポイントラインの遥か後方からでもシュートが決められるデイミアン・リラードの決定力は貴重な武器になるでしょう。ジェイソン・テイタムの得点力の素晴らしさも忘れてはいけません。

 この3人を軸に据え、他の選手たちが上手にサポートすれば、やはりアメリカは強力なチームです。総合的に見て、今大会のチームは、5年前のリオ五輪のチームよりも才能に恵まれた選手たちが揃っていると私は見ています。守備面ではわかりませんが、少なくともオフェンス力は前回より上のはずです。

 一方、弱点とまで呼べるかはわかりませんが、サイズ不足は不安材料になりかねません。ラブが離脱した後、ジャベール・マギーを加えたのはサイズを増すため。フランス代表のルディ・ゴベア、スペイン代表のマルク・ガソルといった強力なビッグマンと対峙した時、ディフェンス、ファウルトラブルが懸念されるのは事実です。

 また、今回のチームには五輪でのプレー経験がある選手がほとんどいないことは何らかの形で影響してくるかもしれません。それと同時に、チームとして一緒にプレーした期間がごく短いことももちろん弱点になりかねないと思います。

アデバヨのインサイドでのプレーも重要になる Ned Dishman/NBAE/Getty Images
アデバヨのインサイドでのプレーも重要になる Ned Dishman/NBAE/Getty Images

4国による金メダル争いか

 アメリカ代表の鍵になる選手を選ぶとすれば、もちろんデュラントです。今回のチーム内では国際舞台での経験が豊富な数少ない選手ですし、得点力、勝負強さもすでに証明されています。アメリカが勝ち進むためには、デュラントの力が間違いなく必要になってくるでしょう。

 先ほども述べたサイズ不足という不安材料を考慮すれば、ドレイモンド・グリーン、バム・アデバヨというビッグマンたちの働きも重要ですね。彼らはもともとPFですが、アメリカ代表ではセンターを務めなければいけません。特に守備面で、この2人のプレーに委ねられる部分は大きくなるはずです。

 五輪でライバルになるのは、フランス、オーストラリア、スペインでしょうか。前回のワールドカップでアメリカを下したフランスにはもちろん警戒が必要です。オーストラリアは五輪でのメダル獲得経験はまだありませんが、徐々に近づいており、今回こそがその時になるかもしれません。2019年のワールドカップを制したスペインも伝統的な強豪であり、ここまで挙げた3カ国にアメリカも含めた4チームが優勝候補。この4強のうち1チームがメダルを逃すことにもなります。

 最後に私の予想を述べておくと、今大会でもやはりアメリカが金メダルを獲得すると考えています。予選リーグの早い段階で負けを味わっても驚かないですし、決勝トーナメントでも苦戦することはあるでしょう。他のチームを大きく引き離す戦力を誇っているわけではありません。ただ、それでもデュラント、リラード、テイタム 、クリス・ミドルトン、デビン・ブッカー、ドリュー・ホリデーといった選手たちが揃っているわけですから、他国がアメリカを40分にわたって封じ込めることはやはり難しいはずです。

 最終的にはアメリカが必要な得点を奪い、勝利の術を見つけ続けると思っています。母国の人々に誇りを感じさせる結果を出し、五輪が進むにつれて、アメリカ国内も徐々に盛り上がっていくのではないでしょうか。

マホーニー記者(左)の予想通り、アメリカは包囲網を突破して五輪3連覇を果たすのか(写真撮影は2018年)写真提供:杉浦大介
マホーニー記者(左)の予想通り、アメリカは包囲網を突破して五輪3連覇を果たすのか(写真撮影は2018年)写真提供:杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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