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ラプターズ渡邊雄太が「思い出の地」で見せた奮闘によみがえった5年前の記憶

杉浦大介スポーツライター
ジェームズ・ハーデンをガードする渡邊雄太(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NBAを代表するスターたちを相手に奮闘

 昨季まではメンフィス・グリズリーズのゲームを取材に行っても渡邊雄太のプレーが観れるという保証はなかったが、今季は少々様相が違う。

 2020〜21シーズン、トロント・ラプターズのローテーションにしっかりと食い込んだ背番号18は、最近は第1クォーターの終盤にコートに立つのが恒例になった。2月5日、ブルックリンでのネッツ戦でもそれは同様。第1クォーターも残り1分12秒というところで交代出場すると、ネッツが誇るジェームズ・ハーデン、カイリー・アービングといったスーパースターたちを追い回した。

 「ケガ人がいるとはいえローテーションの1人として出ている時点で、自分の成長を感じることができます。その中でちょっとずつではあるんですけど結果も残せてきている。チームが求めていることをできていると思いますし、試合を重ねているごとに自分が成長できているなと感じています」

 1月31日の試合後にそう述べていた通り、今では8年連続プレーオフ進出を目指す強豪チームのローテーションの一角として確立した感がある。

 この日も10分2秒をプレーし、無得点ながら1リバウンド、1スティール、1ファウル。数字にインパクトはなかったが、堅実な形でラプターズの123-117での逆転勝利にアクセントを添えた。そんな26歳のサウスポーの姿をバークレイズセンターで眺めながら、筆者はカレッジ時代に渡邊がこのアリーナでプレーした時のことを思い出していた。

 目標に近づき、そして悔しい経験を味わったアリーナ

 現在、ラプターズは仮の本拠地としているフロリダ州タンパを離れ、アウェーで6連戦中。この6試合の中には昨季まで2シーズンを過ごしたメンフィス、ジョージ・ワシントン大時代に4年間を過ごしたワシントンDCといった、渡邊にとっての思い出の地が含まれる。

 その2つの街ほど印象的ではなくとも、ブルックリンもそれなりに思い入れのある場所なのではないか。バークレイズセンターは渡邊が大学1、2年生だった2015~16年、アトランティック-10(A-10)トーナメントが開催された場所だったからだ。

 カレッジ時代、渡邊が毎年目標として挙げていたのはこのA-10トーナメントで優勝し、NCAAトーナメントに進むこと。結局、その目標は果たされることはなかったが、未来のNBA選手を3人(渡邊、パトリシオ・ガリーノ、タイラー・キャバナー)も抱えていた2016年は実際にその可能性を十分に感じさせるチームではあった。

 この年のA-10トーナメント準々決勝ではセント・ジョセフス大と対戦し、一時は二桁リードを奪いながら、後半に崩れたジョージ・ワシントン大は80-86で逆転負け。この勝利で勢いをつけたセント・ジョセフス大はA-10トーナメントを制し、NCAAトーナメントに進出する。一方、”マーチマッドネス”という大目標には辿り着けなかったジョージ・ワシントン大も、代わりにNITトーナメントで優勝して実力を証明してみせた。

 そんな背景まで含めて、バークレイズセンターのコートサイドで見たこの年のジョージ・ワシントン大対セント・ジョセフス大は忘れられないゲームとして筆者の記憶にも刻まれている。そして、そのゲームで21得点を挙げ、勝利の立役者となったのが、現在、渡邊と同じくラプターズでプレーするデアンドレ・ベンブリーだった。

かつてのライバルと同僚に

 時は流れ、今では渡邊とベンブリーはチームメイトとしてNBAのコートに立っている。

 5日のネッツ戦ではベンブリーも24分36秒をプレーし、5得点、4アシスト、2リバウンド。自身の夢を破った選手と一緒に渡邊が懐かしいコートに立ち、スター軍団の強豪チームを倒す姿が見れたのは感慨深かった。それと同時に、渡邊が辿ってきた長い道のりに改めて思いを馳せずにはいられなかった。

 2016年春、3年生だったベンブリーはA-10の年間最優秀選手に選ばれており、渡邊よりも格上の存在だった。まだ2年生だった渡邊の成績は平均8.4得点、4.0リバウンドに過ぎず、将来のNBA入りが具体的に話題になる選手ではなかった。しかし、その後、1年ごとに着実な成長を続けた渡邊は、2018年にグリズリーズから2ウェイ契約を受け取ってNBA入りを果たす。

 3年目の今季、ラプターズで頭角を表し、ついにローテーション入り。同じ年齢ながら、2016年のドラフト1巡目全体21位で一足先にNBAに入ったベンブリーよりも今ではより長い平均プレー時間を任されるようにすらなった。

ネッツ戦でケビン・デュラントと競り合うベンブリー
ネッツ戦でケビン・デュラントと競り合うベンブリー写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ベンブリーもカレッジ時代はカンファレンスのスター選手だったが、NBAではロールプレーヤー。そんな事実はNBAの厳しさを物語る。そして、それほどハードな世界で、少しずつでも確実に前に進んできた渡邊の道のりは余計に価値があるものに思えてくる。

 2016年の取材ノートを紐解くと、セント・ジョセフス大との試合後、バークレイズセンターの通路で渡邊が残したこんなコメントが刻まれていた。

 「現段階での僕の力ではNBAはほど遠い場所だなと思っています。ただ、ゲーム中にベンブリーとマッチアップしても、抑えられていた時間帯もありました。正直、まだ遠いですけど、一歩ずつ、一歩ずつ、(NBAに)近づいていっているんじゃないでしょうか」

 日本人としては稀有な能力に恵まれながら、渡邊はこのように自分の立ち位置を常に客観的に見ることができる冷静さを備えていた。課題を認識し、克服に取り組むだけの練習熱心さも持っていた。だからこそ、こうして成長を続けて来られたのだろう。

 そんなプロセスを振り返れば、26歳というもう若手とはいえない年齢でも、ここからさらに前進することは不可能ではないとも思えてくる。2016年、バークレイズセンターでプレーした頃と比べれば、ほとんど別人に思えるほど上達した今の渡邊を見て、さらなる成長を期待させられずにはいられないのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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