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「ボクサーにはわかるものです」アンドリュー・モロニーが物議を醸した無効試合を語る

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams / Top Rank

11月14日 ラスベガス MGMグランド カンファレンス・センター

WBA世界スーパーフライ級タイトル戦

王者

ジョシュア・フランコ(アメリカ/24歳/19勝(8KO)1敗2分1無効試合)

無効試合(2回終了)

前王者

アンドリュー・モロニー(オーストラリア/29歳/21勝(14KO)1敗1無効試合)

 6月にフランコがモロニーからダウンを奪って判定勝ちし、新王者に就いた世界タイトル戦のダイレクトリマッチ。2回まではモロニーが優位に試合を進めたが、偶然のバッティングで右目が腫れたフランコが2回終了後に続行不可能になったためノーコンテスト(無効試合)と発表された。「バッティングではなくモロニーのパンチが原因だった」と見た人が圧倒的に多く、ネバダ州アスレチックコミッションもビデオチェック。しかし、30分近い長い審議の末に裁定は変わらず、物議を醸す結果となった。

納得できない無効試合

ーーフランコ戦を終え、オーストラリアに戻られたと聞いていますが、今はどうしているのでしょう?

アンドリュー・モロニー(以下、AM) : 母国に戻り、現在、シドニーのホテルで2週間の隔離中です。(双子の兄の)ジェイソンと同じ部屋に宿泊し、外に出ることは許されません。かなり退屈しています(笑)

ーー兄弟で同じ部屋に滞在しているんですね。

AM : その通りです。前回、ラスベガスからオーストラリアに帰国した際には、隔離中に幸運にもスイートルームに宿泊できて、その時は2部屋とキッチン、バルコニー、リビングルームがありました。それが今回は他の部屋が空いていなかったということで、2つのベッドがあるだけの1ルームに宿泊になったんです。残念なことです(笑)

ーーフランコ戦からもう1週間以上が経ちました。今、あの試合とその後の混乱をどう振り返りますか? 

AM : いまだに現実のことではないような感じがします。これまでボクシングを見てきて、あんな事態にはお目にかかったことがないですし、信じられないような思いです。この試合のために一生懸命準備し、自分が勝つ姿を何度も思い描いてきました。それがこんな形で取り上げられてしまうなんて、もちろんまったく予期していませんでした。

ーーフランコの目の腫れはバッティングではなかったというあなたたちの主張を、ボクシング関係者のほとんどが支持しているように思います。実際に戦っていて、ケガはパンチによるものだという確信がありましたか?

AM : 100%、間違いありません。試合中のバッティングは過去にも経験しており、頭が当たった際にはボクサーにはわかるものです。フランコとの試合では何の衝撃もありませんでした。良いジャブを当てた直後、彼の目が腫れ始めたのもはっきり覚えています。パンチが原因だという確信があったからこそ、レフェリーが試合を止めたときに私は喜びの声を上げたんです。

ーー「もしもバッティングによるものだったとすれば、4回まで相手の目は狙わなかった」と話している記事も読みました。

AM : フランコの目が腫れ始めた後、(ジェイ・ネイディ)レフェリーははっきりとした意思表示をしなかったんです。私たちのコーナーに来て、「頭に気を付けろ」という指示を出しましたが、「ケガは頭が当たったためだ」とは言いませんでした。それゆえに、私はジャブで彼の目を狙ったのです。レフェリーからケガはバッティングよるものだと知らされていたら、戦術を大きく変え、4回まではボディを狙っていたはずです。

ーービデオ判定の結果が出るまでに30分近くがかかったことも大きな話題になりました。あの長い待ち時間の間、どんなことを考えていましたか?

AM : フラストレーションを感じる時間ではありましたが、その一方で、判定は変わるだろうという自信がありました。コメンテーターをはじめ、映像を見た人はみんな「頭は当たってなかった」と話していたからです。誰もがパンチによるものだと見たのだとすれば、私の勝利に変わるはずだと考えていました。26分間のあと、結果がノーコンテストのままだと発表された時には信じられない思いでした。

改めて映像を見ても明白なバッティングのシーンを見つけるのは難しく、モロニー側の意見を支持する声が多い。 Photo By Mikey Williams / Top Rank
改めて映像を見ても明白なバッティングのシーンを見つけるのは難しく、モロニー側の意見を支持する声が多い。 Photo By Mikey Williams / Top Rank

今後の標的はフランコのラバーマッチのみ

ーー試合の翌週、トップランクのボブ・アラム・プロモーターと改めて対面したと聞きました。フランコ戦直後はアラムも激怒していましたが、どんな声をかけられたのでしょう?

AM : ボブはフランコとの第3戦を確約してくれ、できればオーストラリアで開催したいと話してくれました。オーストラリアでは観客の動員も可能です。ファン、家族、友人たちの前で戦い、世界タイトルを取り戻せるのだとしたら、こんなに素晴らしいことはありません。それと同時に、ボブは今回の判定に抗議し続け、覆すために全力を尽くすと約束してくれました。他の多くの人々と同じく、ボブもバッティングは見ておらず、私が勝つべきだと思ったのです。

ーーすでにネバダ州のコミッションに訴えを起こしたことがニュースになりましたが、その件について最新情報はありますか?

AM : 弁護士がネバダ州アスレチックコミッションに訴えを起こし、まだその行方を待っている段階です。公聴会が行われるかどうかは現状ではわかりません。

ーー残念ながら試合後の話題は判定問題に集中してしまいましたが、2ラウンドのみとはいえ、あなたは好調だったように見えました。2回までの自身の動きをどう振り返りますか?

AM : 自分はフランコとの第1戦で見せたよりもはるかに優れたボクサーであることを示そうと決意を持って臨みました。2回だけとはいえ、それができていたと思っています。私の方がスキルで上回っており、やろうとしたことはすべてできていました。前戦のあと、私の真価を疑った人は多かったと思いますが、私の方が上だと見せられたはずです。試合が続いていれば間違いなく明白に勝てていたでしょう。

ーー次戦はフランコとのラバーマッチになると考えて良いでしょうか?それとも他の相手と1試合挟むこともあり得ますか?

AM : ダイレクトにフランコとの第3戦に臨みたいです。今後、判定が覆り、タイトルを取り戻したとしても、フランコともう一度戦い、私が王者にふさわしい選手であると示すつもりです。

フランコ側も第3戦に同意していると伝えられ、早期実現の可能性は高そうだ。 Photo By Mikey Williams / Top Rank
フランコ側も第3戦に同意していると伝えられ、早期実現の可能性は高そうだ。 Photo By Mikey Williams / Top Rank

ーー2020年、あなたとジェイソンはトップランク傘下で2戦を行い、ラスベガスで長い時間を過ごしました。この日々をどう思い返しますか?

AM : ベガスの町は大好きで、今では私たちにとって第2の故郷と感じるようになりました。気候も気に入っていますし、快適で楽しい日々が過ごせました。今後、ラスベガスでまた何度も戦い、そして次回はより公平な結果が得られることを願っています。

ーー最高の思い出は、MGMグランドガーデンの“バブル”で行った卓球でテレンス・クロフォードに勝ったことかなと思ったのですが、いかがでしょう?

AM : 確かにそれが私の最高の思い出です(笑)。ただ、実は私とクロフォードは1勝1敗。最初は私が勝ったのですが、2戦目は彼が勝ちました。互いに試合前日で、休まなければならなかったため、第3戦は行われなかったというわけです。いつか彼との決着をつけたいですね(笑)

ーー井上とジェイソンの試合前日、あなたが卓球するのを見て、うまさに驚かされました。あなた以外では、クロフォードが最強でしょうか?

AM : あとはトップランクのカメラマン、マイキー・ウィリアムズも上手ですね。私たちの間では重要な卓球トーナメントが継続しています(笑)

微妙な結果のおかげで知名度はアップ

ーー10月初旬から続いた長い滞在を終えてオーストラリアに戻ったわけですが、論議を呼んだ今回の試合後、母国の人々の反応はどうですか?

AM : 世界中から多くのサポートが得られ、もちろんオーストラリアも同じです。母国の人々からも多くの声をかけてもらっています。現在、オーストラリアではボクシングは人気スポーツとは言えないため、今戦前まで私は母国でもそれほど名前を知られた選手ではありませんでした。ただ、今回の試合後、多くの人々が私のことを知り、応援してくれているのを嬉しく思っています。

ーー高視聴率を稼いだクロフォード戦のセミファイナルだったこともあり、アメリカでも多くの人が試合を見て、あなたの知名度も上がったように感じます。結果は残念でしたが、それはポジティブな要素と言えるのでしょうか?

AM : 確かにそれはポジティブな要素ですね。おかげでフランコとの第3戦はより大きな注目を集めるファイトになるでしょう。ここで私の名前を知った人たちには、これからもずっと応援してほしいものです。

ーー最後になりますが、2021年に何を成し遂げたいですか?

AM : まずはフランコを倒し、私のタイトルを取り戻さなければなりません。その後、スーパーフライ級の他の王者たちとの対戦を目指したいと思っています。

ーー他に戦いたいタイトルホルダーはいますか?

AM : それは陣営に任せるつもりです。現時点で考えているのはフランコに勝つことだけで、他の選手のことは頭にありません。

ーーなぜそう聞いたかというと、スーパーフライ級には日本人王者もいるので、いずれ来日戦の可能性もあるかなと思ったからです。

AM : 井岡一翔と田中恒成が年末に対戦するんですよね。良い試合になるでしょう。予想?とても興味深い試合ですが、私は田中が勝つと思っています。

ーージェイソンが井上尚弥と戦い、先日のあなたの試合も物議を醸す結果になったおかげで、モロニー・ブラザーズの日本での知名度もかなり上がったと思います。ただ、その前に私の方がオーストラリアに行き、あなたたちの試合を取材する可能性の方が高いかもしれません(笑)

AM : 来るべきですよ!アラムはテオフィモ・ロペス対ジョージ・カンボソス・ジュニアをメインにして、私がフランコと第3戦を行い、さらにジェイソンのビッグファイトも組み込んだビッグイベントを計画しています。それが実現したらあなたもオーストラリアに来るべきだし、多くの人に見てもらいたいと願っています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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