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ロマチェンコ対ロペスの「新旧対決」はなぜ米国内で注目を集めているのか?

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams / Top Rank

10月17日 ラスベガス                       

MGMグランド ボールルーム・カンファレンス・センター

世界ライト級4団体統一タイトル戦

WBAスーパー、WBCフランチャイズ、WBO王者

ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ/32歳/14勝(10KO)1敗)

12回戦  

IBF王者  

テオフィモ・ロペス(アメリカ/23歳/15戦全勝(12KO))

魅惑の新旧対決

 2020年のベストカードと呼んでも良いほど楽しみな一戦が近づいている。

 現役最高級のボクサーと呼ばれてきたロマチェンコと、新スター候補筆頭といえるロペスの新旧対決。過去に舌戦を繰り返してきた因縁から、敵対心を剥き出しにする両者の激突は、ボクシングファンなら絶対に見逃せない垂涎のマッチアップである。

 2人はともにトップランク傘下ということもあり、一度は5月30日にマディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)での挙行の線で内定した。MSGでは約300万ドルものゲート収入も見込まれる大イベントだったが、多分に漏れずパンデミックのおかげで延期が決定。それでもトップランク/ESPNがラスベガスに作り出した“バブル”での挙行が決まったことを、素直に喜ぶべきだろう。

 戦前の予想では、実績、経験、スキルで大きく上回るロマチェンコが優位との声がやはり一般的。ただ、現状、スーパーフェザー級がベストウェイトのロマチェンコと、スーパーライト級なみの体躯を持つロペスがライト級で対戦するという点がどう影響するかが注目ポイントになる。

 ライト級に上げて以降は支配的な勝ち方が減ったロマチェンコに対し、遠からずうちにスーパーライト級に昇級予定というロペスのサイズ、パワー、タイミングの良さ、時の勢いは侮れない。ポイント争いではやはりフットワークに秀でたロマチェンコが優勢としても、12ラウンズの中で1発でも強打を当てれば23歳の若武者にチャンスが出てくる。

 そんな背景から、最近は体重調整に苦しんできたロペスのコンディション作りがうまくいった場合という条件つきながら、番狂わせを予想する関係者も少なくない。緊張感あふれるバトルの末に、決着の瞬間まで目が離せないファイトになるだろう。

ESPNでの中継

 この試合はPPVでもESPN+でのストリーミング配信でもなく、ESPNによってプライムタイムに生中継されることも米国内では話題になっている。

 主催するトップランクのライバル、PBCは発足当時の方針を完全に変え、ここに来てPPV興行を連発。9月のチャーロ兄弟(アメリカ)のタイトル戦、10月のジャーボンテ・デイビス(アメリカ)対レオ・サンタクルス(アメリカ)戦、12月のエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対ダニー・ガルシア(アメリカ)戦はどれも好カードだが、すべてPPVになったことでボクシングファンは金銭面で大きな負担を強いられることになった。そんな中、ロマチェンコ対ロペスが、米国内では様々な形で視聴可能なベーシックケーブル・チャンネルのESPNで放送されることはファンを歓喜させている。

 ダイレクト・トゥ・コンシューマーの充実をはかるディズニーはESPN+の浸透にも力を入れており、1イベントごとの平均予算はESPNのボクシング興行よりESPN+の方が上だ(例年12月のESPN豪華興行など例外はもちろんあるが)。最近ではその時点で再開後最高のカードだったホゼ・ラミレス(アメリカ)対ビクトル・ポストル(ウクライナ)戦もESPN+での中継だったという例が示す通り、ESPNで放送される興行が必ずしも同局の看板イベントというわけではない。ただ、今回に関してはカードのインパクトと影響力に惹かれ、ESPNがリニア放送の予算の紐を緩めたようだ。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
Photo By Mikey Williams / Top Rank

 ロマチェンコの報酬は325万ドル、ロペスは150万ドルと伝えられており、”The Worldwide Leader in Sports(ESPNの愛称)”はアンダーカードまで含めて約500万ドルの放映権料をこのイベントに弾んだことになる。また、ファイトウィーク中には合計50時間に及ぶ関連番組が用意され、ロマチェンコ、ロペスは頻繁にお茶の間に露出している。

 今戦のリニアTVでの中継は、米カレッジ・フットボールのシーズン開催が危ぶまれていた頃に決まったこと。現在検討されていたら結論は変わったかもしれない。当初の予定通りに5月に開催されていれば、PPVになっていた可能性もある。だとすれば、少なくともこの試合に関しては、パンデミックによってファンは恩恵を受けたと考えることもできそうだ。

 ともあれ、試合の格だけでなく、内容も期待できる黄金カードがESPNによって大々的にプッシュされていることの意味は大きい。

 他のほとんどのスポーツ同様、ボクシングも興行再開後は低視聴率を続けてきたが、ここで関係者を喜ばせるような数字を叩き出せるかどうか。主役の2人にはぜひとも好ファイトを展開し、ボクシング界全体を活気づけて欲しいものだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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