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“王の帰還”ロマゴンの復活劇 真の王者の姿を見た一撃KO直後の行動

杉浦大介スポーツライター

2月29日、米テキサス州フリスコ フォードセンター

WBA世界スーパーフライ級タイトル戦

挑戦者 

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア・帝拳/32歳/49勝(41KO)2敗)

9回29秒TKO

王者 

カリッド・ヤファイ(イギリス/30歳/26勝(15KO)1敗)

 

約3年ぶりの戴冠

 “王の帰還”―――。そんなオーバーな表現を使いたくなるほどに、通称“ロマゴン”“チョコラティート”の復活劇はあまりにも見事だった。

 この日まで5度の防衛を記録してきた無敗王者を、ゴンサレスは序盤から流麗なコンビネーションで圧倒。特に中盤ごろからシャープさを増した軽量級マエストロの技量に、11,019人の観衆は酔った。

 メキシカンの多い土地柄ゆえに、観客のほとんどはメキシコ系アメリカ人対決だったメインイベントが目当てだったが、ラウンドを重ねるごとにゴンサレスに向けられる歓声が大きくなったのは当然だったのだろう。

 6、7回頃から明白なダメージを感じさせたヤファイに対し、ゴンサレスは8回終盤に左右連打で最初のダウンを奪う。仕上げは9回、完璧なタイミングで放った右ストレートで王者は再びキャンバスに倒れ込む。“ロマゴン”に約3年ぶりの世界王座をもたらした一撃は、過去と現在の架け橋のような美しいパンチだった。

どん底からの復権

 「(ヤファイが)接近戦を望んだことには驚かされました。ただ、私には準備ができていました」

 試合後のゴンサレスの言葉にあった通り、ヤファイの戦い方に疑問を感じたファンは少なくなかったかもしれない。

 ひと回り大きなサイズを持ちながら、英国人王者はアウトボクシングをするわけでもなく、1週前のタイソン・フューリー(ヘビー級)のように身体を使って相手の消耗を狙うわけでもなかった。中間距離から接近戦でのミックスアップは、回転力で勝るゴンサレスが望んだ土俵だったはずだ。

 もっとも、この日ばかりはヤファイの無策を指摘するより、真っ向勝負で打ち勝った小柄な新王者の力量をひたすら絶賛すべきなのだろう。

 

 2017年9月、シーサケット・ソールンビサイ(タイ)に戦慄的なKO負けを味わった際、誰もが絶対王者の限界を感じた。以降、格下相手に2勝はしたものの、ケガによるブランクも経験した。そんな逆風にも打ち克ち、ロマゴンは再びビッグステージに戻ってきた。

 すでにパウンド・フォー・パウンドのトップと目された頃の力はないとしても、かつてアメリカのファンに衝撃を与えた技量は健在。将来の殿堂入りも確実な英雄は、どこか懐かしさを感じる熟練のパフォーマンスを披露してくれた。そんな姿が見れたことを、同世代に生きる私たちも喜ぶべきだったに違いない。

真の王者として

 鮮やかな試合内容と同様、いや、個人的にそれ以上に感銘を受けたのは、フィニッシュ後のゴンサレスの行動だった。9回、危険を感じさせる倒された方をしたヤファイを見て、ルイス・パボン・レフェリーは試合をストップ。その瞬間、ロマゴンは勝利の雄叫びを挙げるわけでもなく、両手を突き上げることもなく、真っ先にヤファイの元に駆け寄ったのだった。

 ゴンサレスのそういったジェスチャーは今回に限ったことではないが、それにしても久々に世界タイトルを取り戻した直後の話である。雌伏の日々を経てここまで辿り着いたのだから、どれだけ歓喜を爆発させても許される。それをよしとせず、何よりも先に対戦相手に敬意を払い、その身体をケアした王者の姿に、私は鳥肌を禁じ得なかったのだ。

 「周囲のチームの人たちが私をこの場に戻してくれたのです。ミスター本田(明彦帝拳ジム会長)、エディ・ハーン、DAZNに感謝します。彼らは私が再び世界王者に戻る機会を与えてくれました」

 リング上でそう丁寧にお礼を述べる姿に、真の王者の姿を見た気がしたのは私だけではなかったはずだ。

井岡、田中との対戦も?

 こうして久々に世界タイトルを取り戻し、ゴンサレスの行方に新たな可能性が開けようとしている。試合後、ロマゴンはリング上で「統一戦がしたい」と希望を述べていた。キャリア終盤に差し掛かった大ベテランがさらなるビッグファイトを目指すのは当然で、今後は対立王者、元王者との対戦が視界に入ってくるのだろう。

 「ミスター本田とも力を合わせ、できればエストラーダとの統一戦か、シーサケットとの3度目の対戦を実現させたい。井岡(との統一戦)も候補だ。そういった選手たちとの試合が具体化するのが自然の流れ。ただ、どうするかは彼(ゴンサレス)次第だ」

 ポストファイトの会見で、マッチルーム・スポーツのエディ・ハーン・プロモーターはそう述べていた。

 ロマゴンとマッチルームはワンオフの契約だったようだが、一段上の報酬を提示してくるDAZNとの関係を保つのであれば、傘下選手であるWBC王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、シーサケットとの対戦をまとめるのは容易なはずだ。現在のシーサケットは無冠だが、ロマゴンが2連敗した仇敵へのリベンジを望むことも考えられる。 

 また、帝拳はもちろんトップランクとも親密なだけに、IBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦も想定内。さらにはWBO王者井岡一翔(Reason大貫)、転級を明言した田中恒成(畑中)まで含め、好選手が揃ったスーパーフライ級では様々な組み合わせが考えられる。

 このようにオプションは豊富な中で、ゴンサレスと帝拳はどんな選択をするか。その方向性は、ニカラグア、日本以外のファン、関係からも注目を集めることになりそうだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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