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「BリーグからNBA入りをすれば…」下部リーグで過酷な挑戦を続ける馬場雄大の今

杉浦大介スポーツライター
写真:AP/アフロ

 田臥勇太、渡邊雄太、八村塁に次ぐ日本人史上4人目のNBAプレーヤーを目指し、馬場雄大は今季からダラス・マーベリックスの下部リーグチーム、テキサス・レジェンズでプレーしている。昨季までBリーグでプレーした馬場がNBAに到達すれば、国内の大学を経てBリーグで育った選手としては初の快挙。また、馬場は東京五輪への出場を決めた日本代表の一員でもある。八村、渡邊らとチームメイトになり、“史上最強”と呼ばれる代表チームでも活躍できるのか。

 2つの挑戦を続ける2020年は、馬場のキャリアにとってハイライトと呼べる1年になるはずだ。そんな馬場の現在地を探るため、レジェンズのホームであるテキサス州フリスコを訪ね、ロングインタビューを行った。

現在、3ポイントショットが絶好調

ーーGリーグ(NBAの下部組織)の1年目も後半に差し掛かり、ここに来てプレー時間が急激に増えています。もちろん良いことで、手応えを感じているのではないですか?

馬場雄大(以下YB) : 得点を取ったりも大事ですけど、それ以前にプレータイムをもらえるというのはコーチから信頼されているということ。思い返せば最初は出場機会がゼロの日とかもあったので、そこには成長を感じます。自分がやってきたこと、信じてきたことは間違いではなかったということを、少しずつ証明できています。これに満足せず、さらに次、次という感じで、自分の限界を決めずにやっていきたいですね。 

ーー評価してもらえているのはどの部分だと思いますか?

YB : まずディフェンスをハードにやることが大前提としてあります。その上で、さらに僕ならではの強みを出せているのが大きいのでしょう。速攻で走るところだったり、3ポイントシュート(以下、3P)を(高確率で)決めたり、他の人にはない強みをわかりやすい形で出せています。そういったところで結果を出しているおかげで、コーチが信頼しやすいというか、使いやすくなっているのかなと思います。

ーー3Pは現在まさに絶好調(注・取材日まで直近の4試合で合計13/18だった)ですが、練習の成果が出ているのでしょうか?

YB : そうですね。あとは他の選手が“チャンスあらば打つ”というスタンスでいるので、そこに触発されたというのもあります。正直、得点を取らないと評価されない世界ではあります。もちろん練習をしてきましたし、それに加えて打つことが習慣化され、その積極性がシュートに影響しているかなとも思っています。

ーーサマーリーグの時点から「自分のリングアタックはアメリカでも通用する」と話していましたが、フィニッシュに対する自信も変わってないですか?

YB : アメリカの選手はフィニッシュのバリエーションも多いですし、身体のぶつけ方もすごくうまいので、そういうところではまだまだ成長する必要がありますね。そこにまだまだ自分の成長を見出せるなとも感じています。でも、僕も現時点でもスピードある動きでフィニッシュし、ファウルをもらうというところは多少なりともできているかなとは思います。

ーー今後の自身の課題として見えてきている部分は?

YB : 先ほども話が出ましたが、やはりフィニッシュの部分です。3Pが入るようになって、相手のディフェンスが前に出てきている分、ドライブにいくケースが増えていくはず。そこでバリエーションのあるフィニッシュがないと、やはり得点も伸びないですし、信頼もされません。フィニッシュのバリエーションが一番です。あとは今後も継続して3Pを決め、確率を上げていかなければいけませんね。

ーー英語でのコミュニケーションは上達しているとヘッドコーチも話していましたが、ご自身ではいかがでしょう?

YB : いやー、(渡邊)雄太とかは学生でこちらに来て、授業を受けて、英語に触れる時間はものすごい長かったわけですよね。僕は今こうしてプロ選手としての活動しかしてなくて、まともに教わっているわけでもないので、ハンデ、出足の遅れはあります。ただ、やっぱりこっちにいて、生活するしか上達の方法はないのかなと。英語に触れていくことが大切。そこはあまり焦らず、我慢するところかなと自分で納得しながらやっています。

ハングリーな日々

ーーシーズン中も英語の勉強はしているんですか?

YB : 英語の本を調べながら読んだり、単語を覚えてボキャブラリーを増やしたりだとか、やっていますよ。(映像を)英語音声でみたりとか、やれることはなんとなくやっています。午前中練習をやって、午後に何もないという日がけっこう多いので、ある時間は有効活用するといった感じですね。

ーーGリーグには待遇面でマイナーリーグならではの厳しさがあると思います。去年、渡邊選手が「フライトの座席はエコノミー、ホテルはチームメイトと相部屋」だと話してくれたんですが、馬場選手が属しているレジェンズも同じですか?

YB : はい、同じです。(相部屋は)最初はありえないと思っていたんですけど、実際にやってみて、僕自身、あまり環境に左右されない人間なのかなと感じてるところです。2人部屋でもあまりストレスなく過ごせています。そういう性格も、この世界で生きていくには適しているんだろうなと思います。(笑)

ーーレジェンズでのプレーに戻ると、現在絶好調のおかげもあって、ネット上で“日本のクレイ・トンプソン”なんて書かれてましたね。

YB : ああ、見ました。どうですかね。(笑) 肌の色と、あとシュートが入るということで重なる部分があったんでしょうか。まあでもクレイ・トンプソンはずっと決めていますからね。僕もこれを機にずっと“打てば入る”って選手になっていければ、自分自身でも納得できるとは思います。そういう風に1回取り上げられたからといって、調子に乗るんじゃなくて、ひたむきに、周りの声を気にせずに励んでいきたいなと思っています。

写真:レジェンズ関係者が撮影
写真:レジェンズ関係者が撮影

ーー目標はもちろんNBA昇格だと思います。先ほどこの世界では数字も大事だとおっしゃってましたが、上へのアピールのために必要なことというと?

YB : どうやって選手を判断するかというときに、もちろん映像もそうですけど、パッと見るのはやはりスタッツですよね。いくらディフェンスで良い動きをしても、得点がゼロだとかだと、このレベルではいいですけど、NBAにいくとなるとちょっと物足りないところがありますよね。リバウンド、アシスト、スティールもそうですけど、やはり数字に残るところで貢献しなければいけないなという気持ちはこっちに来て深まりました。

ーーディフェンスをしっかりやればプレー時間は増え、その与えられたミニッツ内で数字も残せば先が見えてくるという感じでしょうか?

YB : そうですね。エクスキュート(仕事を遂行する)する力は日本人はやはりあると思います。監督から言われたことをしっかりやるというのは日本人の得意なところですよね。そういったところも武器にしてやっていきたいです。

ーーチームメイトのキャメロン・ペインをはじめ、NBAでプレーしてきた選手と日常的に触れ合う中で、目標とする舞台への距離を測れるようになりましたか?

YB : (ペインは)やはり飛び抜けていて、彼にしかないものもあります。ほとんどのNBA選手がそういったものを持っていると思うと、かなりハードな道ですよね。でも、僕も先ほども話した速攻、ディフェンス、3Pといった自分にできることに磨きをかければ、いける可能性はあると思います。(難しさは)感じてますけど、一方で自分への自信も持っています。

ーーここまでやってきて、Gリーグライフは予想通りか、それより厳しいのか。あるいは考えていたよりできているのか。いかがでしょう?

YB : シーズンごとの目標は決めていたんですけど、試合ごとの目標は決めてなかったんです。今季を終えて、その結果として2ウェイ契約だったりといったものを獲得できたら、納得できるシーズンになるのでしょう。ただ、目標はNBA選手になることなんで、それになれて初めて満足するんだろうなとは思います。

NBAに上がるために

ーーシーズンごとに目標を定めているというお話でした。もちろん今年中にNBAにいければベストでしょうけど、もう少し先まで見据えているんでしょうか? 

YB : もちろん今季中にいけたらいきたいですけど、やっぱり1年目でチームを知って、2年目で、というのが大学時代もありました。そんな簡単にチームを知ることはできないと思っています。言葉の問題もありますし、あまり焦るべきではないのかなと。毎日をどう過ごすかということが絶対に将来に影響してくると思うので、そこの取り組み方を意識しながらやっていきたいですね。

ーーこの厳しい挑戦を楽しめていますか、それとも辛さが大きいですか?

YB : うーん、たまに“辛いな”と思うことはもちろんありますよ。わざわざ言葉も通じないこの過酷なところに来て・・・・・・。アルバルク東京のこととか、もともといた環境のことをたまに考えたりもします。でも、毎試合、始まる前にアメリカ国歌を聴くたびに、身が引き締まるんですよ。そこで“やっとここまで来た”という思いがにじみ出るんですよね。だから、(辛いという)感情を抱くのは本当にたまにです。

ーーアルバルク東京の話が出ましたが、NBAに到達すればBリーグ出身の日本人選手としては初めての快挙になります。Bリーグを代表しているという思いはやはりあるのでしょうか?

YB : 当初はあまり意識していなかったんですけど、今、こうしてGリーグのコートに立って、自分の過去を振り返った上で、やはりBリーグを代表する立場にいるんだなと感じています。僕が頑張れば、Bリーグの選手たちに夢を与えられます。子供たちにも、日本のリーグからでも世界の最高峰に挑戦できるという夢を与えられるポジションに僕はいます。NBAを目指してやっていく上で、そこに自覚を持って、責任を持ってプレーしているつもりです。

ーー開幕前の記事で、「僕がNBA入りすれば日本バスケががらりと変わるようなインパクトを与えられる」と話していました。新しい道を作るパイオニアとしての思いから来た発言だったんでしょうか?

YB : 僕がNBAに入れたら、Bリーグの選手たちは、“この間まで身近で戦っていた選手がNBAでやっている”と思えるじゃないですか。そういった感じで競争意識を駆り立てられますよね。常に目標を持ってやることが個人のレベルアップにもつながり、それによって日本の全体的なレベルアップも図れます。それにつながることを、僕が発端としてできるかなと考えています。

ーー自分の辿ってきた道が正しかったと示したいという気持ちもありますか?

YB : いや、それはないですね。自分の夢に向かってやってきたので、NBAに行かなくても正しかったと思えます。結果がどうあれ、大事なのはその場その場でいかに全力で生きたかということ。将来、大人になった時に子供にもそれを教えられると思っています。

2月6日、テキサス州フリスコのコメリカセンターにてインタビュー実施。“東京五輪への想い”編に続く

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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