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「僕が倒して勝つ瞬間を見て欲しい」谷口将隆(ワタナベ)WBO世界ミニマム級タイトル戦直前インタヴュー

杉浦大介スポーツライター
Photo By Hiroaki Yamaguchi

2月26日 東京 後楽園ホール

WBO世界ミニマム級タイトル戦

王者

ビック・サラダール(フィリピン/28歳/18勝(10KO)3敗)

挑戦者

谷口将隆(ワタナベ/24歳/11勝(7KO)2敗)

*インタヴューは2月22日、谷口の公開練習後にワタナベジムで収録された

パンチをもらわずに打つボクシング

ーー初の世界タイトル戦まであと4日ですが、調子はいかがですか?

MT : いい感じですね。あとはもう体重調整だけなんで、そこをしっかり調整して、落としたら完璧と言えるぐらいの仕上がりです。

ーー公開練習、メディア対応を見させて頂きましたが、かなりリラックスしている印象でした。 

MT : いつもこんな感じです。アマチュアの最初の1、2戦は死ぬほど緊張したんですけど、そこからは全然緊張もしなくなりましたね。日本タイトル、東洋タイトルのときも全然緊張しなかったんで。明日相手が来て、明後日予備検診なんですけど、そこからたぶんめちゃくちゃ緊張するんじゃないかとは思います。

ーー今回は世界タイトル戦なので、日本だけでなく、ネット上などでも世界中の多くの人が試合を見ると思います。自身のセールスポイントを改めて説明して頂けますか。

MT : 僕の売りは距離感と左ストレート。そこを注目して見て欲しいですね。もらわずに自分が打つというのが身上というか、モットーにしてます。

ーーディフェンスには自信を持っているんでしょうか? 

MT : そんなこともないんですけどね(笑)。今まではもらうのが嫌で自分も当てきれなかったんですけど、今回からは自分もしっかり当てて、なおかつもらわないというのをさらに上のレベルでできるようにというのを意識してきました。

ーー昨年11月にタイで行われたジョエル・リノ(フィリピン)戦の映像を見たかったのですが、見つかりませんでした。どういった内容だったのでしょうか? 

MT : 相手もそれなりに強かったんですけど、思い通りにはできましたね。欲を言えば倒してしっかりタイトルを獲りたかったんですが、最後は倒しきれなかった。何回か効いたなというのはあったんですけど。倒しきれなかったんで、勝ったのは嬉しいですが、そこが課題として残りました。

ーータイ人が相手ではなかったとはいえ、タイで勝ったことはやはり自信になりますか?

MT : それはなりますね。環境が全然違うので、あの環境に比べたら今は全然ラクと思えるようになりました。精神的にもリラックスできるようになりました。 

ーー世界戦前にタイでの試合をこなしておいたのは大きかったですね。 

MT : はい、良かったです。

ボディ打ちがポイント

ーーもう何度も話してきていると思いますが、サラダールの印象を改めてお願いできますか。 

MT : 身長はそんなに高くないんですけど、リーチが170cmくらいある。腕が長く、パンチが強くて、距離も長い。そういったところを注意したいです。ウィークポイントはボディとわかっているんで、どう当てにいくかですね。 

ーー田中恒成(畑中)戦でもボディでKO負けしています。やはりそこが焦点になるでしょうか。 

MT : 僕がボディを狙ってくるのもわかっているので、サラダールはカウンターを狙ってくると思うんですよ。そこをかいくぐって、さらに当てていきたいです。最初の距離感と、サラダールの攻撃力がどれだけあるのか、想像とどう変わってくるのか。そのあたりが重要になってくると思います。

ーーKOで勝ちたいという意識はありますか? 

MT : それはあります。世界戦なんで何があっても勝つっていうのはあるんですけど、その中で倒して勝ちたい。世界戦で倒して勝ってチャンピオンになるのはめちゃくちゃ大変なことだと思うので。明確な形で勝ちたいです。

ーーアマを経てプロ入りし、ここまで思い通りになった部分とならなかった部分があると思います。ここまでの推移に満足していますか? 

MT : いろいろ紆余曲折はあったんですけど、3年で世界タイトル戦の舞台にたどり着けました。自分の中では良かったです。ここで獲ってからがスタートという感じです。

ーー悔しい負けも経験してきましたが、それらもプラスに捉えることができているということでしょうか。

MT : それがあったから世界チャンピオンになれたと試合後に言いたいです。今考えても、あのときの負けがあったから、見返せたというのがあります。

ーープロキャリアを始めた頃と今の自分を比較し、一番変わっているのはどこですか? 

MT : 精神面です。自分の中で甘い部分があった。2回負けて、ケガもあって、それらを乗り切って、良い風に図太くなりましたね。

ーー甘かったのは具体的にどういった部分でしょう? 

MT : チャンピオンになれると簡単に思っていました。試合中ってなりふり構わないはずなのに、当時はちょっと頭が当たっただけでも対戦相手にごめんと挨拶したり。そういうのは勝負の世界ではいらんなと思いました。

いつか京口も超えたい

ーー負ける前と比べて今の方が強くなっていると思えますか? 

MT : そこはもう自信があります。 

ーー「今回の試合に勝って人生が変えたい」と話していましたが、勝てば実際には何が変わるんでしょうか? 

MT : 周りの対応も変わりますし、チャンピオンになることで自分の価値も変わります。王者になったおかげで周りからも見られるようになる。それによって自覚が芽生え、自分自身も成長できる。いろいろな面で変わると思うんですよね。

ーー好きな選手はマービン・ハグラー、パーネル・ウィテカー(ともにアメリカ)、渡辺二郎と記されているのを見ました。やはりサウスポー繋がりでしょうか? 

MT : そうですね。ウィテカーは打たせずに打つので、そういう選手に憧れます。日本人でいうと長谷川穂積さんも同じような感じですよね。そういうスタイルが好きです。マニー・パッキャオ(フィリピン)も好きなんですけど、できるかできないかって言ったらできないタイプのボクサーなんで(笑)

ーー海外で試合をしたいという希望はありますか? 

MT : 昔は全然なかったんですけど、今は海外で試合をして知名度が上がるっていうのがステイタスになっていますよね。だからあります。階級的に相手にされていない階級というのはわかるんですけど、機会があればアメリカでもやってみたいです。

ーー同門の京口紘人選手のことは散々訊かれていると思いますが、京口選手は友人なのか、あるいはライバルなのか、どんな位置付けなんでしょう? 

MT : 全部兼ね備えていますね。同期であり、同僚でもあり、友達でもあり、ライバルでもある。あとは追い越すべき、背中を見ている存在もであります。同期、ライバルとしてデヴューしたんですけど、今は差がついてしまったんで、ゆくゆくは超えたい存在というのを強く感じています。

ーーキャリアの最終目標は? 

MT : 世界チャンピオンになるのはもちろんとして、防衛し、できれば2階級制覇とかもしたいです。ただ、最終的には自分がやりきった、満足したと思いたいです。ボクサーって満足した、自分がすべきことはやったと思ってやめている人って少ないと思うんですよ。

ーー今回の世界タイトル初挑戦はその第一歩として、ファンを沸かせる試合をしなければいけないですね。 

MT : はい、自分が世界チャンピオンになるのはもちろんですけど、その中でも僕の技術と、気持ちと、欲を言えば倒す瞬間を見てもらいたいです。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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