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エロール・スペンス Jr.が最後のテストマッチで再び完全KO勝利、いよいよ収穫期へ

杉浦大介スポーツライター

Photo By Ryan Greene / Premier Boxing Champions

8月21日 ブルックリン コニーアイランド

IBF世界ウェルター級挑戦決定戦

エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ/26歳/21勝全勝(18KO)

6ラウンド2分6秒TKO

レオナルド・ブンドゥ(シエラレオネ/41歳/33勝(12KO)2敗2分)

タフなベテランを綺麗に沈める

ブルックリンのシアターに3723人の観衆を集めて行われたIBF挑戦者決定戦では、スペンスの戦い振りに注目が集まったことは言うまでもない。

事前から”アメリカの新恋人”の勝利自体はまず間違いないと思われていた。しかし、いかに27歳のトッププロスペクトでも、経験豊富なブンドゥをこれほど手際よく片付けると思った関係者は少なかったはずだ。

シエラレオネ出身、プロボクサーとしてはイタリアをホームとする41歳のタフさは盛んに喧伝されていた。事前は判定勝負を予想する声が大半。実際に序盤ラウンドはブンドゥが健闘する姿を見て、多くのファンは長期戦になると考えただろう。ところがーーー。

第3ラウンドあたりから、スペンスはシャープなジャブ、的確なボディブローでペースを掌握。相手のパンチが自身にダメージを与えるものではないと判断すると、中盤からさらにプレッシャーを強めていく。

こうしてリズムを掴むと、第6ラウンドに左アッパー、右フックで2度のダウンを奪い、アメリカ人サウスポーはあっさりとフィニッシュに持ち込む(注・1つめのダウンをレフェリーはなぜかスリップと判定)。特にブンドゥがロープ際に横転した2度目のダウンは強烈で、41歳のベテランの身体が瞬間的に心配になるほどだった。

再び地上波放送でアピール

「第1、2ラウンドはやりにくかったけど、途中でリズムをつかめた。彼がタフなのはわかったけど、ダメージを受けたパンチはない。ただ、スイッチと飛び込んでくるようなスタイルへのアジャストに時間がかっただけだ。このパフォーマンスで、自分がウェルター級のトップファイターの一人だと証明できたと思う」

この試合を見た人は、スペンスのそんな言葉に誰もが同意するに違いない。

これで昨年以降は6試合連続で、それまでKOされた経験がなかった選手に初のストップ負けをプレゼントしたことになる。フロイド・メイウェザーにも力を認められたエリートは、ここでまた階段を一段上った。

前戦のクリス・アルジェリ戦に続き、この日のブンドゥ戦も地上波NBCで全米に生中継された。リオ五輪の男子バスケットボール決勝戦の直後に放送されたおかげもあって、一説では平均視聴者600万人というとてつもない視聴率をマークしたと伝えられている。それほどの視聴者の前で、 “スペンスはやはり本物”と改めて印象付けた意味は計り知れない。

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次戦でタイトル戦希望だが・・・・・・

「ケル・ブルックの持つ王座に挑戦したい。次の試合で彼と戦いたい。彼がタイトル返上するか、剥奪されるようなら、空位のタイトルを争いたい。機は熟したよ」

KO直後に腰にベルトを巻いているようなジェスチャーを見せたスペンスは、リング上でのインタヴューで高らかにそう宣言した。

もっとも、IBF王者のケル・ブルック(イギリス)は9月10日にミドル級の帝王ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に挑戦予定。その試合後にウェルター級王座の指名戦を行うかを決めなければいけない。もともとウェルターでは大柄なブルックはそこでタイトル返上し、昇級することが有力視されている。

だとすれば、スペンスの次戦はコンスタンティン・ポノマレフ(ロシア)との王座決定戦になる可能性が高そうである。

ブルックも強敵との対戦を熱望しているだけに、本来ならばスペンスとの防衛戦は望むところだっただろう。ビッグファイト実現はタイミング次第。英米スター候補のフレッシュなマッチアップが叶わないとすれば、残念という他にない。

ただ・・・・・・スペンスが年内にもタイトルを獲れば、また新たな楽しみが増えるのも事実ではある。

ウェルター級強豪たちのサバイバル戦開始か

PBCはこれまで陳腐なマッチメイクで批判を集めてきたが、過去数カ月にキース・サーマン(アメリカ)対ショーン・ポーター(アメリカ)、レオ・サンタクルス(アメリカ)対カール・フランプトン(イギリス)という好カードを成功させた。

この余勢を買って、しかもアル・ヘイモンと各テレビ局との契約が後半に入るタイミングもあり、今後はPBC傘下選手の潰し合いが増えていくとの予想は根強い。

目玉となるのはやはり群雄割拠のウェルター級。中でも待望の若きエース候補であるスペンスへの期待は大きい。IBFのタイトルホルダーとなったスペンスが、サーマン、ポーター、ダニー・ガルシア、エイドリアン・ブローナー(すべてアメリカ)、アミア・カーン(イギリス)らと対戦していけば、そのシリーズはファンを惹きつけるに十分だろう。

いずれにしても、2012年ロンドン五輪に出場したアメリカ勢の中では最高級の評価を集めるサウスポーが、収穫の時期に入ろうとしているのは間違いない。

次戦で首尾良くタイトルを獲得したとして、2017年はさらなる飛躍の年。そこで彼が誰と対戦し、どんな結果が出るかが、アメリカのボクシング界にとっても重要な意味を持ってくる可能性も十分にありそうである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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