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中南米夢決戦、コット対カネロ挙行の背景(ファイトマネー、契約ウェイト、ゴロフキン戦,,,, etc)

杉浦大介スポーツライター

Photo By Rich Kane- Hoganphotos/Roc Nation Sports/Golden Boy Promotions

11月21日 ラスベガス

マンダレイベイ・イベント・センター

WBC世界ミドル級タイトル戦(155パウンド契約ウェイト)

王者

ミゲール・コット(プエルトリコ/40勝(33KO)4敗)

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/45勝(32KO)1敗1分)

キックオフ会見ツアーは大盛況

テレビやネット上の動画でも会見ツアーの様子を目にした人なら、このカードへの期待の大きさを理解できたのではないか。

プエルトリコの英雄とメキシコのアイドルの激突。タイプ的に噛み合いそうな2人のパンチャーのマッチアップは、フロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦を除けば、実現可能な中で最高級のカードとしてしばらく待望されてきた。

約3ヶ月前に発表され、複数都市での会見ツアー、諸々のイベント、HBOでドキュメンタリー番組の放映・・・・・・・とプロモーション活動は近年の大興行の王道シナリオ通りに展開されていく。両雄は過去3日の間にロスアンジェルス、メキシコ、ニューヨークをツアーし、予想通り各地で大盛況だった(28日にはプエルトリコで挙行予定)。

コットが”Aサイド”の理由は

「(ファイトマネーに関する報道は)正確ではないし、近くもない。リング内では50-50のファイトであり、リング外でもそれに近い額が保証されている。両者には高額の報酬が約束されているよ」

カネロの所属するゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のオスカー・デラホーヤはそう語り、一部で報道されたコットが3000万ドル、カネロが1000万ドルというファイトマネーの額の開きを否定している。

ただ、コットにはメイウェザー戦での約2000万ドルを上回る額が保証されているのは事実の模様。最終的な報酬はPPV売り上げ次第だが、プエルトリコの雄がより高額を手にするのは間違いないようだ。

会見ツアーでの歓声の総量が示す通り、現時点で商品価値が高いのは今が旬のカネロの方。アメリカ国内ではパッキャオを超え、カネロはすでにメイウェザーに次いで2番目に興行力の高い選手になったのではないか。にも関わらず、コットの方がいわゆる“Aサイド”扱いなのはなぜか?

端的に言って、 この試合をどうしても実現させたかったのは、引退後の殿堂入りもすでに確実なコットではなく、依然として“過大評価”“人気先行”の評も目につくメキシカンアイドルの方だったからだろう。

経済的な成功は疑いもなく、戦ればカネロに勝機も大きいマッチアップ。主力選手をアル・ヘイモンにごっそり引き抜かれたGBPは、カネロ対コットを早いうちに組んで健在をアピールしたかった。カネロ本人も、キャリアのハイライトとなる星が欲しかった。

ボクシング界では新参のJay-Z率いるロックネイション・スポーツ相手に、報酬分配で多少妥協してでもこのメガファイトを熱望した背後にはそんな思惑が見えてくる。

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キャッチウェイトの議論は続く

試合成立に際し、契約ウェイトが再び話題になっている。コットの保持するWBC世界ミドル級王座の防衛戦であるにも関わらず、ミドル級リミットに5パウンド欠けた155パウンドのキャッチウェイトが採用されることになったからだ。

コットは去年のセルヒオ・マルチネス戦で159パウンド、今年6月のダニエル・ギール戦で157パウンドの契約ウェイトを主張して批判された。ミドル級昇級後3戦目だが、すべて契約ウェイトで試合をしてきたことになる。

より興行価値の高い選手が、戦術の一環として契約ウェイトを利用する昨今の風潮は残念ではある。ただ、今回のコット対カネロ戦に限っては、筆者は155パウンドは適切なウェイトではないかと考えている。

中南米のライバル対決であり、新旧スターの橋渡しとも言える一戦。箔をつけるためにWBC王座がかけられてはいるが、もともとタイトルマッチであるがゆえに人気、話題になったカードではない。

「カネロとコットはどちらも一人で売れる選手たち。タイトルがかかっていようが、ノンタイトル戦だろうが、問題なく大ビジネスになる。ファンはこのファイトがエキサイティングなものになるとすでに分かっているからだ」

デラホーヤがそう語る通り、この試合に関してはタイトルは二の次。ともに下の階級から上がってきた2人が、最も快適に感じるウェイトを選び、合意し、上質なファイトを見せてくれるのであればそれが何よりではないか。

もちろん、“ならばノンタイトル戦にすれば良い”という声はもっともではある。カネロが勝った際には、“155パウンド制限の試合に勝って2階級制覇か”と批判もされるだろう。しかし、筆者はもうタイトル統括団体に大きな期待はしていないし、“複数階級制覇”といった勲章に特別な想いも抱いていない。

注目するのは、誰と、どんな環境下で戦ったか。タイトル戦へのこだわりはそもそも薄れているだけに、体重設定がどちらかの有利不利に繋がらない限り、文句を言うつもりはないというのが正直なところである。

ゴロフキンとの指名戦の行方は

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ただ、今戦の勝者が、メガファイト登場でさらに跳ね上がるであろう商品価値を背景に、今後もキャッチウェイトを主張し続けるとしたら話は別である。特に次の相手が指名挑戦者扱いとなる暫定王者ゲンナディ・ゴロフキンだとしたらなおさらだ。

もっとも、体重の問題以前に、コット、カネロとカザフスタンの怪物パンチャーの早期対戦実現を疑う声は後を絶たない。

「メイウェザーは(9月12日の)アンドレ・ベルト戦後に引退すると話していて、どうするつもりなのか分からない。ただ、もしも現役続行するつもりなら、(自分との再戦は)ファンが観たい試合になるのだろう」

会見ツアー中、コットはゴロフキン戦よりもメイウェザーとの再戦に色気を見せる発言を残していた。メイウェザーの方がサイズ的に自身と同等で、倒されるリスクも小さく、なおかつ報酬が莫大とあれば当然か。

メイウェザー側にしても、コット相手に契約ウェイトのミドル級タイトル戦で6階級制覇が狙えるのであれば美味しい話(WBCがゴロフキンとの指名戦の後回しに同意すればの話だが)。ビジネスの大きさを考えれば、Jay-Zとヘイモンの不仲も大き過ぎる障壁にはなるまい。カネロ戦を好内容で突破した場合、来春のメイウェザー再戦がまず間違いなく話題になるだろう。

いずれにしても、コットが20連続KOを続ける暫定王者の挑戦を受けることはまずないというのが一般的な見方。ゴロフキンと対戦する気があるとすれば、無鉄砲なまでに強敵との対決を望むカネロの方か。GBPのデラホーヤも「ファンの喜ぶ試合をお届けしたい」と繰り返しているだけに、希望は持てる。

しかし、世界待望のコット対カネロ戦が前評判通りの好ファイトになった場合、ビッグマネーが動くリマッチはすぐに視界に入ってくる。その際には、例え第1戦でカネロが勝っても、タイトルを返上してノンタイトルの再戦にまっすぐ向かう可能性は否定できまい。

そういった意味で、この試合は最終的な勝ち負けだけでなく、どんな内容になるかにも注目が集まる。中南米のライバル関係決着というだけでなく、ゴロフキンとの”ミドル級決勝戦”の行方にも密接に関わってくるからである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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