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ターニングポイント 〜ガルシア対ジュダー最終会見より

杉浦大介スポーツライター

4月27日 ブルックリン バークレイズセンター

WBA、WBC世界スーパーライト級タイトル戦

王者

ダニー・ガルシア(25戦全勝(16KO))

対 

ザブ・ジュダー(42勝7敗(29KO))

ガルシアは真価を証明できるか

昨年にエリック・モラレス(2度)、アミア・カーンというビッグネームを倒して名を挙げたガルシアだが、真の実力はまだ未知数の声も少なからずある。

実際にモラレスはすでに引退間際で抜け殻のようだったし、カーン戦でも相手の打たれ弱さと無鉄砲さに助けられた向きがあったのも事実。そんなフィラデルフィアの新星にとって、ジュダーとの対戦は今後への重要な試金石となる。

格下には圧倒的に強いジュダーだが、コスタヤ・ジュー、フロイド・メイウェザー、ミゲール・コット、ジョシュア・クロッティ、カーンといった一流どころにはすべて完敗。2000年代を通じ、このスピードスターに勝ってキャリアにハクをつけるのが中量級有力選手たちの王道になって来た感すらある。

そのジュダーもコーリー・スピンクス(2度対戦し、初戦で判定負けも再戦では敵地で完全KO)、ホセ・サンタクルス、デマーカス・コーリーらの1.5流王者には明白に勝っている。しかも昨年3月のバーノン・パリス戦では9ラウンドでの痛烈なストップ勝ちで力を残していることを証明しただけに、ガルシアの真価を測るにはまさにうってつけの相手だろう。

「モチベーションはたっぷりだ。彼を水の中に深く沈めて溺れさせてやる」

25日の最終会見でもそう語った25歳ガルシアは、現代の象徴的なステッピング・ストーンを飛び越えるだけの力を備えているのかどうか。

キックオフ会見からファイトウィークを通じて陣営同士が盛んに舌戦を続けたこともあり、今回の一戦の注目度も大きくアップ。その大舞台で、カーン、モラレスに続いてジュダーも奇麗にKOすれば、ガルシアの知名度がさらに上がることは確実と言って良い。

ジュダーにとって最後のチャンス

アメリカ東海岸きってのやんちゃ坊主として存在感を醸し出して来たジュダーも、いつの間にか35歳。すでに大ベテランの粋に差し掛かり、ここで後のないリングを迎えることになった。

スーパーライト、ウェルターの2階級制覇を果たし、ウェルター級時代にはWBA、WBC、IBFの3団体統一王座も獲得。それほどの実績を残しながら、それでも“やや期待外れのキャリア”と評されてしまうのは、ある意味でジュダーが持って生まれた莫大な才能へのリスペクトだとも言えるのだろう。

抜群のハンドスピードは驚異的で、2006年4月の対戦時にはメイウェザーからもダウンを奪ったこともある(レフェリーはスリップと判定)。好調時には超人的な強さを発揮するジュダーだが、強敵相手には集中力の欠如ゆえに勝ち切れないのがキャリアを通じたパターンとなってしまって来た。

おかげで今回は故郷ブルックリンでの試合ながら、若き王者ガルシアの引き立て役的な扱い。ここで敗れるようなことがあれば、もうHBO、SHOといったメガケーブル局からは声がかかり辛くなるだろう。

「俺への尊敬がなさ過ぎる!」

最終会見時にもそうまくしたてたジュダーにとって、未知数のヤングスターとの対戦はスターダム復帰へのラストチャンス。時を同じくしてスーパーライト級にはカーン、ルーカス・マティセ、ラモン・ピーターソン、マイク・アルバラード、ブランドン・リオスといった魅力的なボクサーがずらりと揃っているだけに、勝てば一躍トップ戦線に復帰の可能性も残されている。

言ってみれば、ボクシング人生の最後の分かれ道ーーー。序盤はスピードを生かしてジュダーが主導権を握るとして、そこでフィニッシュするか、あるいは後半までペースを保つことができるかどうか。“スーパー・ジュダー”の最後になるかもしれない大舞台での勇姿に、いまー度全米からの注目が集まる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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