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親子を追い詰める #子育て罰 条例の懸念、#埼玉県 #虐待禁止条例#憲法違反 の指摘も

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
埼玉県での子育てがつらくなる?(写真:イメージマート)

埼玉県自民党の県議が提出した「児童虐待禁止条例改正案」に批判が寄せられています。

親子を追い詰めかねない条例内容であるにもかかわらず、10月13日に可決予定という拙速で強引な手法に、私も疑問を強く感じます。

子育て当事者による反対署名も開始されました。

1.子どもだけの登下校禁止、子どもを残してのごみ捨て禁止、不登校の子の親も外出禁止条例に!?

条例案の内容を簡単に整理すると、次のようなものです。

・小学校3年生までの子どもを自宅・その他の場所(車内等)に残したままでの保護者の外出を禁止する。

・小学校6年生までも、同じ内容の努力義務を課す、というものです。

条例案が可決されると、どのようなことが、埼玉県で児童虐待とされるのか、埼玉県議会での質疑をもとに、次のような内容であると整理されています。

条例で禁止されている行為の例

・小学生だけで公園で遊びに行く

・児童が一人でお使いに行く

・不登校の子どもが日中家にいる状態で、親が買い出しや仕事に行く

・兄の習い事の送迎時に、弟が昼寝をしていたので起こさず外出する

・ゴミ捨てにいくため留守番させる

・小学校1年生から3年生だけで登下校する

・18歳未満の子と小学校3年生以下の子が一緒に留守番をする

・車などにどんなに短時間であっても残していく

確かに、車への置き去り死を防ぐことは重要ですが、ゴミ捨ても禁止、小学生だけの登下校も禁止となると、共働き化する日本では難しいと思われる読者も少なくないのではないでしょうか。

不登校の子どもたちの親は、事実上の外出禁止令ともなってしまいます。

報道ステーションでは、「埼玉県下の市町村では、小2年生から子どもたちだけで学童に行くことになるので、虐待と言われると苦しい」「納得できない」と、保護者当事者の困惑の意見も紹介されています。

子ども自身からも「やりすぎ」との困惑の声があがっています。

2.親子を追い詰める #子育て罰条例 になってしまうのでは

―子育て世帯へのシッター応援制度もない「取り締まり」発想の条例案

条例改正によって、上記の行為には罰則はないとされています。

しかし、この条例をもとに、住民たちが親子を監視し、警察や児相に通報すれば、かえって、子育てが息苦しい埼玉県になってしまうことにもなりかねません。

子どもたちが放課後に遊びに行けるのは、日本の治安が、先進国の中で相対的に良いことの証左でもあります。

子どもたちが安心して遊びに行け、のびのび成長できる日本は素晴らしい、私自身も、英国の研究者からうらやましがられたことがあります。

それが、条例改正によって住民によって監視され、通報され、子どもたちが公園で遊べなくなる埼玉県になっていく心配もあります。

子どもたちの遊ぶ権利の侵害行為でもあり、児童虐待を防止するという趣旨からは行き過ぎた条例案になっているという懸念もあります。

また、通報が増加する児相や警察が混乱し、重大虐待事案や子どもへの性犯罪などの重大事案への対応力が低下することも、心配されます。

私自身が、埼玉県自民党による条例案を「子育て罰条例」だと感じるのは、家事育児と仕事に先進国一忙しい日本のママや、長時間労働のパパの状況を改善したり応援する政策や予算なしに、親子を「取り締まる」発想に偏っていると感じるからです。

たとえばゴミ捨てや子どもの登下校・遊びの時間となる平日朝1.5時間(7-8時30分)、夕方4時間(15-19時)に、埼玉県が無料あるいは安価にシッターを小3年生以下の子どもたちに派遣してくれるなどの応援の仕組みがあれば、条例を遵守することは可能になります。

しかし議事録が公開されている範囲では、埼玉県議会で、そうした議論がされた形跡はありません。

サポートなしに、子どもだけの登下校・公園あそびや、子どもを残してのゴミ捨てまで禁止されるとなると、通報される親が激増してしまう懸念があります。

そのことは、とくにひとり親(片親)が犯罪者として追及される日本になるのではという趣旨のツイートを、ひろゆきさんがされていますが、働き方改革の進まない日本では、共働き家庭や専業主婦・夫家庭も同様の不安に怯える状況になります。

3.専門家からは憲法違反との指摘も

―こども基本法違反にも相当する埼玉県自民党の一方的意思決定で良いのか?

報道ステーション(10月6日夜)の報道では、憲法学の専門家(小林直三名古屋市立大学大学院教授)により「(親子に)広範に外出等を制限するのは、過度な制限であり、憲法違反の疑いも」という趣旨の指摘がされていました。

私自身は、今回の自民党条例案はこども基本法違反にも相当する行為であると認識しています。

こども基本法は、国・自治体やひろく国民・事業主に対し、こどもに関する施策を決める時には、こどもを権利の主体とし、こどもの意見表明や参画を保障し、また子育て当事者の声を聞くことを求めています。

地方議員がその例外であるという規定はどこにもありません。

また親が養育を責任もって行えるよう国や自治体が「十分な支援」を行う、とも書かれています

今回の埼玉県自民党の県議たちの条例案や条例可決のプロセスでは、こどもや子育て当事者の意見表明や参画が実現されるとの情報は、私が調べた範囲では今のところありません。

こどもや子育て当時者の声も聞かず「十分な支援」もない、そんな条例案が議会提出されてしまう埼玉県の状況では、親子は誰も幸せになれないのではないでしょうか。

このような一方的意思決定が県議会で拙速に行われてしまう埼玉県だからこそ、子育てのしづらい自治体であるというイメージが、日本中の子育て世帯に広がってしまうことにもつながるのではないでしょうか。

おわりに.このままでは子育てがつらい埼玉県に、どうすればいいのか?

このままでは子育てがつらい埼玉県になってしまいます。

どうすればいいのでしょうか。

まず条例の採決を見送り、県議会で子どもたちを守るための議論や、支援制度の拡充などの議論が充実されることが最善の選択肢です。

採決が強行され、子育て罰の条例案が採決されてしまうということが最悪のシナリオです。

もっと良い条例を県民が県議会議員に提案することも必要になってくるでしょう。

たとえば以下のような条例が作られ、制度整備がされたら、埼玉県では、子どもがのびのびと育ち、住民が子どもたちにやさしく、子どもの置き去りのない、安全安心な子育てができる自治体になるのではないでしょうか。

・子どもたちの最善の利益、安心して生きる権利、遊ぶ権利も実現するための「こどもの権利条例」

・子育て応援シッター無料化条例

・妊婦さん・泣いている赤ちゃんや、外で歩いたり遊んだりする子どもたちを笑顔で見守り応援する「笑顔で子育て応援条例」

・13歳未満の子どもを威圧したり脅かす大人を取り締まる「子どもを犯罪から守る条例」(大阪府で施行

・子どもを性犯罪被害から守る性犯罪・性暴力対策条例(大阪府・福岡県・茨城県で施行

・大規模ショッピングセンター等の親子連れが多い販売店に無料で子どもを一時預かりできる施設を整備・補助する「親子で安心お買い物応援条例」等。

地方議会からも研修講師や参考人として協働する機会をいただいている私から、子どもたちを大切にしてくださる地方議員さんたちにお願いです。

親子に冷たく厳しい「取り締まり」の子育て罰思考ではなく、親子にやさしくあたたかい「応援」の発想で、あなたの自治体の親子が幸せになる条例を作っていただけませんでしょうか。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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