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日本版DBS、こども家庭庁報告書のポイント:学校園義務化、塾・ならいごと・シッター派遣は認定事業者へ

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
日本は国をあげて子どもたちを性犯罪から守れるか?(写真:アフロ)

子どもを性犯罪者から守るための仕組みである日本版DBSについて、こども家庭庁の報告書が公表されました。

日本版DBSとは性犯罪歴のある大人を子どもに近づけなくし、子どもの性犯罪被害を予防するために、学校・園や事業者が大人の無犯罪証明あるいは犯歴記録を取得できる仕組みです。

学校・園では、日本版DBSの利用を教職員に対して義務付ける方針は、事前に報道されていた通りの内容となっています。

それ以外にこども家庭庁報告書にはどのようなポイントがあるのでしょうか。

ポイント1 塾・ならいごと・シッター派遣は認定事業者制導入

もっとも大きなポイントは塾・ならいごと・シッター派遣など「教育・保育等を提供する事業者」に「認定事業者」の仕組みを導入することが明記されたことです。

なお個人で営んでいる塾やならいごとは、DBSが利用できない方針が報告書に明記されています。

個人事業主にとっては、認定が受けられないと生徒が集まらないという事態も起きかねません。

業界団体等の協力により、個人で営む塾・ならいごとにも、DBS利用ができるようになることが期待されます。

ポイント2 フリースクール・子ども食堂・学習支援事業などが「認定事業者」に含まれるかは今後の課題

塾・ならいごと・べビーシッター以外にも、フリースクール、子ども食堂、学習支援事業など、子どもが活動する場所は多くあります。

これらの運営団体が「認定事業者」に含まれるかも今後、こども家庭庁での議論となります。

私自身は、子どもに関する「全ての仕事」、そしてボランティアも含め、一定の要件を満たした「認定事業者」がDBSを利用できるようにすることが必要と考えます。

末冨芳,日本版DBS(子どもたちを性被害から守る仕組み)は「全ての仕事」を対象に,Yahoo!エキスパート記事,2023年8月14日

そのほかにも、当初予想されていた以上の踏み込んだ内容も報告書では提言されています。

・子どもだけではなく大人に関する性犯罪も犯罪歴として日本版DBSの対象とする。

・無犯罪証明だけでなく、重大な性犯罪についての前歴は「認定事業者」に提供される方向。

このように評価される内容がある一方で、課題も多くあります。

課題:性犯罪歴は「起訴された人だけ」

―痴漢は子どもにフリーパスのまま

最大の課題は性犯罪歴は「起訴された人だけ」、ということです。

不起訴や示談となった性犯罪者は犯歴がないことになります。

また、痴漢や盗撮などの条例違反を犯した性犯罪者も、報告書の内容から判断すると、当面は日本版DBSの対象となりません。

今後、撮影罪や不同意わいせつ罪で逮捕・起訴された場合はともかく、これまで痴漢や盗撮で逮捕歴のある犯罪者は野放しのままです。

また、刑法にもとづき、刑の執行後に5年・10年経過すれば性犯罪歴が日本版DBSの記録から消去される可能性についても指摘されています。

性犯罪、とくに小児性愛の治療は依存症対策として厚生労働省も位置付けておらず、法務省は3か月間で5回の性犯罪再犯防止を犯罪者に義務付けているにすぎません。

犯罪者の更生が確認できるのか、政府の取り組みが不十分な状況の中で、5年・10年経てば性犯罪者が子どもに近づけるようになることを認めて良いのでしょうか。

こども家庭庁報告書では、わいせつ教員対策法の「特定免許状失効者」(わいせつ教員)の記録が40年データベース登録されていることとのバランスをどう考えるかについても言及されています。

犯罪者の再犯予防の視点からも、安易な犯歴データ消去が行われるべきではありません。

このような課題もありますが、こども家庭庁報告書によって日本版DBSは、子どもたちを性犯罪から守る仕組みとして大きく動き出していくことになります。

犯罪者ファーストの主張に対しても、丁寧に対応し、少しでも「こどもまんなか」の日本版DBSにと、懸命に取り組んでこられたこども家庭庁のみなさんに感謝と敬意を表します。

秋の臨時国会でも、与野党の議論により、子どもを守るより実効性ある日本版DBSの法案となっていくことも期待しています。

国をあげて性犯罪から子どもを守る仕組み、読者のみなさんも応援ください。

そして性犯罪が起きない日本に、全ての人が意識と行動の変容に取り組んでいきましょう。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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