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異次元の少子化対策、子どもの生存権を否定する扶養控除廃止なら「子育て罰」に

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
6月1日「扶養控除廃止のストップを求める緊急集会」における筆者作成スライド

子どもの扶養控除廃止は、最悪の「子育て罰」

―財界と財務省こそ「子育て罰」加害者

岸田総理の異次元の少子化対策の基本方針である「こども未来戦略方針」が決定されました。

私自身も産経新聞にコメントしていますが、親の所得や働き方で、子どもへの支援を差別・排除せず「全てのこども」を応援する普遍主義に即した政策パッケージが打ち出されたことは、自民党政治の歴史的な転換として高く評価しています。

いっぽうで、こども未来戦略会議の財界委員でもある十倉経団連会長が「児童手当の所得制限全廃について、反対の意向を示し」「経団連としては納得感が少ない」と旧態以前たる「子育て罰」主張を繰り広げました(共同通信「経団連、所得制限全廃に反対 少子化対策の児童手当」2023年6月5日)。

また鈴木財務大臣は「児童手当の所得制限をなくすなら、子どもの扶養控除を廃止せよ」という主張を展開し、子育て世帯の狙い撃ち増税によって、財源をねん出しようとする意見を主張しました(NHK「鈴木財務相 “児童手当拡充の際には扶養控除の見直しも”」2023年5月26日)。

せっかく岸田総理率いる政権や、自民党が、「子育て罰」をなくし、「全てのこども」が幸せに生まれ育つ日本へと、歴史的な進化をとげようとするいっぽうで、財界と財務省こそ「子育て罰」加害者であることを痛感させられました。

子どもから扶養控除を奪う方針により、せっかく「こども未来戦略方針」での充実した政策パッケージが打ち出されても、すでに妊娠・出産を考えている若者や子育て当事者には、失望が広がっています。

ここまで全世代でこども財源の確立をと政府の動きを応援してきた子ども子育て団体も、子どもから扶養控除を奪うことが、少子化対策として最悪の手法であることを憂慮し、6月1日に「扶養控除廃止のストップを求める緊急集会」を開催し、新聞・テレビの主要メディアでも報道されました(動画はこちら)。

6月1日「扶養控除廃止のストップを求める緊急集会」において扶養控除廃止は財務省の「子育て罰」であることを訴える筆者
6月1日「扶養控除廃止のストップを求める緊急集会」において扶養控除廃止は財務省の「子育て罰」であることを訴える筆者

参加団体の1つである子育て支援拡充を目指す会も、「扶養控除の廃止に反対!〜年少扶養控除と高校生の特定扶養控除の復活を!!〜」と緊急署名を展開し、10万署名を目指し、与野党や財務省、官邸等に提出される予定です。

1.1万人アンケートのうち95%は岸田政権の少子化対策を評価していない

―58%が「岸田政権は少子化推進」、37%が「岸田政権は少子化対策をやっていない」と回答

子育て支援拡充を目指して発信してこられた当事者が、Twitterで岸田政権の少子化対策への評価を問うた緊急アンケートを実施されたところ、子育て世代を中心にまたたくまに1万人の回答が集まりました。

この1万人アンケートのうち58%が岸田政権は「少子化推進してる」、37%が岸田政権は少子化対策を「やってない」と回答しています。

つまり、1万人のうち95%は岸田政権の少子化対策を評価していないのです。

2.0-15歳の子どもたちは扶養控除廃止によりすでに生存権を否定されている。

―16-18歳の子どもたちも、このままだと財務省・財界により生存権が否定される

―子ども以外の全世代には扶養控除で生存権が保障される「子育て罰」大国・日本

そもそも、子育てしているお父さんお母さんも納税しており、累進課税制度のもとでより国家に貢献している中間所得層から、児童手当をうばった所得制限も異常でした。

これに反対する財界委員は、子育て当時者の実態も気持ちもわからない方なのではないかと心配です。

きっと十倉経団連会長の経営なさる企業にも子育て当時者はおられるはずなので、たとえ経団連加盟企業であっても子育て世代が苦しい実態を当事者から聞いていただければ、お考えも変わるのではないでしょうか。

しかしさらに、子育て世代を怒らせたのが、鈴木財務大臣による子どもの扶養控除廃止の方針です。

そもそも扶養控除は、税務の専門家も指摘する通り国民の生存権を保障する目的のもとで、家計に所得を確保するため、国民の税を免除する仕組みです(田中康男,2005,「所得控除の今日的意義-人的控除のあり方を中心として」『税務大学校論叢』vol.48,1-111.)。

子ども以外の全世代(高齢者、大学生、専業主婦や扶養家族)は扶養控除により生存権が保障される仕組みとなっています。

一方で、0-15歳の子どもたちは民主党時代の子ども手当と引き換えにすでに年少扶養控除を奪われ、国家により生存権保障の仕組みが廃止されたままです。

さらに今回16-18歳の子どもたちの扶養控除まで廃止すれば、日本国は子どもたちの生存権は認めないと言う明確な「子育て罰」メッセージになります。

私も6月1日の緊急集会で、扶養控除廃止は子どもに日本で生きる価値はないという財務省の「子育て罰」メッセージであることを強く訴え、愚策であり思いとどまってほしいことをご出席の与野党議員に訴えました(記事冒頭の画像参照)。

こんな「子育て罰の」国で子どもを産み育てたい人がどれほどいるのでしょうか。

子どもの生存権保障の仕組みである扶養控除復活こそいますぐに!

―扶養控除・現金給付・現物給付の「こどもまんなか3点セット」を「全てのこども」に

いま必要なのは、子どもの生存権保障の仕組みである扶養控除復活をいますぐ実現することです。

扶養控除とともに、所得制限や親の就労によって子どもを差別・排除しない現金給付(児童扶養手当・児童手当)、現物給付(0-2歳保育無償化、学校給食無償化、医療費無償化、高校・大学の完全無償化等)の「こどもまんなか3点セット」が、こども基本法に定めるように「全てのこども」に保障されることによって、はじめて子どもを持ちたい若い世代や、子育て当事者が、安心できる子育て支援制度となるのです。

そのための財源は社会保険料だけでなく、歳出改革、法人税や金融資産課税、富裕層への累進課税の強化など全世代の税負担、こども国債も含めて持続可能な財源を模索する必要があります。

扶養控除・現金給付・現物給付の「こどもまんなか3点セット」は、近いうちに行われるとされている衆議院議員選挙の争点ともなってくることでしょう。

超少子化をなんとかしたいすべての日本国民のみなさん、「こどもまんなか3点セット」を掲げて選挙を戦う政党・候補者に投票しましょう!

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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