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【こどもの日】こども基本法、こども家庭庁が「こども(ひらがな)」なのはなぜ?3つの理由を紹介します

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
「こどもの日」「こども基本法」「こども家庭庁」、すべて「こども」なのはなぜ?(写真:イメージマート)

子どもの権利の国内法である「こども基本法」、子どもたちのための政策を推進する「こども家庭庁」が発足して、はじめての「こどもの日」。

なぜ「こども基本法」、「こども家庭庁」、そして「こどもの日」も、ひらがなで「こども」と書くのでしょう?

こども基本法成立にかかわった私が、いま把握している3つの理由を紹介します。

1.小さな子たちにもわかるよう「こども」

こども基本法を国会に提出した国会議員のひとりは「こども」だと、小さな子たちも読むことができますからね、とおっしゃっていました。

確かに、日本で育つ子どもたちは、まず、ひらがなを読んだり、書けるようになっていきます。

小さな子どもたちにも、子どもたちの愛される権利や守られる権利、意見表明をする権利などを伝えて、子どもたちにやさしい「こどもまんなか」社会を、子どもたちと実現したいという願いがこもる、素敵な理由だと考えています。

2.「こどもの日」もひらがなだから

「こどもの日」がひらがな表記なので、「こども基本法」もひらがな、にします。

”何言ってるの、この人?”と、思いませんか。

複数の官僚や議員から、このことを聞いた研究者の私も思いました。

しかし「こども基本法」「こども家庭庁」が「こども」になったいちばん深い理由が、この2番目の理由です。

祝日法(国民の祝日に関する法律)第2条には、「こどもの日」が次のように規定されています。

こどもの日 五月五日 こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。

祝日法を国会で議論し、「こどもの日」を決める時に、反対意見はなく当時の国会議員たちの子どもへの熱い思いがあったことを朝日新聞が報道しています。

「単なる家庭的なものという以上に、もつと(もっと)社会運動として、子供の人格を認めて、子供のために、子供を本位にした、子供を祝う日にしたい」

「新しい日本が子供の人格というものをここに認めて、子供のために祝いをして、子供を正客とした祝い日を定めて、そうして子供に光明を与えたい」など、熱のこもった(国会議員の)発言が多数出てきます。

※朝日新聞「こどもの日『5月3日案』もあった 端午の節句だけ、なぜ祝日に?」,2023年5月4日

そして実は5月5日は、日本で子どもの権利に関する「児童憲章」が制定された日でもあるのです

こどもの日は、端午の節句だから祝日だ、そう思いながら柏餅やちまきを食べて、のんびり休日を過ごしている日本国民のなんと多いことか(NHKさん、恐縮です)。

こどもの日は昭和23(1948)年に祝日法に規定されましたが、その3年後の昭和26(1951)年の5月5日に児童憲章が制定されています。

もちろんあえて、こどもの日に児童憲章が制定されています。

児童憲章は当時の日本の大人たちが子どもたちの幸せを願って作りました。

・児童は、人として尊ばれる。

・児童は、社会の一員として重んぜられる。

・児童は、よい環境のなかで育てられる。

こどもの日は「児童憲章の日」でもあるのです。

第二次世界大戦後の日本では、大人の戦争で多くの子どもたちが命を失ったり、親や家族をなくしたり、飢えで苦しんだことへの反省が大人たちに共有されていました。

だからこそ子どもたちが尊重され、幸せに生きる社会へと真剣に考え、立場を越えて思いを共有し、児童憲章制定にむけて動いた大人たちがいたのです。

「こどもの日」にも、児童憲章にも、そのような大人の願いが込められていることをふまえると、「こども基本法」や「こども家庭庁」が、令和の日本でも戦後日本からの子どもたちへの願いを引き継いで実現しようとしている、深い理由があることが理解されるのではないでしょうか。

いい話をしたあとに、興ざめになる話を付け足して申し訳ないのですが、官僚が「こどもの日」もひらがなで書かれていますからね、というときは「法律に前例があるので、こどもをひらがな表記にしやすい」という前例主義のテクニカルな理由があります。

もちろん、そうおっしゃる官僚のみなさんも、子どもたちのために、大活躍してくださっています。

3.「こども」は年齢で区切られない、若者も応援するという日本国の姿勢があるから

こども基本法第2条には「こども」が以下のように定義されています。

この法律において「こども」とは、心身の発達の過程にある者をいう。

子どもの権利条約では18歳未満を「子ども」と定義しています。

これに対し、我が国のこども基本法では年齢区切りを置かない概念として「こども」を定義しています。

これは、18歳になれば児童相談所も保護してくれない、未熟な若者がトラブルに巻き込まれても自己責任で、若者を冷たく世間に放り出す日本をやめて、若者も必要なときに応援したり、そのための予算や財源、政策を拡充するためにきわめて重要な規定なのです。

18歳になっても、それ以降も応援しつづけます、こども基本法第2条には年齢にかかわらず若者期までを応援する政府の姿勢が確認できます。

日本国は「こども」の成長を年齢にかかわらず応援する、その思いがこめられているのです。

おわりに

大人は「お言葉論争」に陥らない

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以上、こども基本法、こども家庭庁、そしてこどもの日も、「こども(ひらがな)」である3つの理由を説明してきました。

最後にお願いが2つあります。

こども、子ども、子供、どの表記がいいのか、大人は「お言葉論争」に陥らないでくださいね。

確かに、文科省では「子供」を使用したり、法律や政策の中にも「子供」「こども」「子ども」が入り混じっていて、私も苦労しています。

でも「こども」をどう表記するかは、子どもたちの権利を尊重し、実現し、子どもたちと幸せな日本を作っていくうえで、まったく本質的な問題ではありませんからね。

大人のみなさんは、「こどもの日」にあらためて、自分はどのように子どもたちを幸せにしたいか、子どもたちを大切にできているか、少しだけでも考えていただけるとうれしいです。

そして2つ目のお願いです。

「こども基本法」、「こども家庭庁」はなぜ「こども(ひらがな)」か。

このリサーチクエスチョンは、まだ解明途上です。

自分は別の理由を知っているという国会議員や衆参法制局のみなさん、官僚や関係者のみなさんは、研究者にお教えいただける範囲でよいので、ぜひ情報をお知らせください(守秘義務は遵守します)。

「こども」たちが幸せに、大切に、そんな願いのこもったエピソードが、まだまだ関係者の大人たちの間に眠っているのでは、そんな気がしています。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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