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子どもも大人もわかる「こども基本法」、どんな法律?どんな子どもの権利があるの?

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

※こどもむけの、やさしいせつめいはこちらです。

※この記事の最後に、大人のみなさんへのメッセージがあります。ぜひ最後までお読みください。

令和5(2023)年4月1日、子どもの権利の法律である、こども基本法がスタートしました。

私は、こども基本法の成立を求めるPTというチームを結成し、その呼びかけ人として、仲間たちと活動してきました。

日本の子どもたちの深刻な状況を変え、子どもたちの権利が尊重され、子どもが幸せな日本にしなければならないと考える与野党の国会議員たちとも、対話したり、協力してきました。

昨年4月28日には、こども基本法に関する国会の参考人として、日本において子どもの権利を守り、実現するための法律の必要性について述べました。

昨年11月には、熊本市教育委員会に招いていただき、1000人以上の小学生、中学生とこども基本法を学ぶ授業をしたこともあります。

※授業の様子はこちらから(熊本市教育委員会ホームページ

普段は、こども政策・教育政策の研究者として、日本大学で学生たちと学んでいたり、国や地方自治体の委員としても活動しています。

こども基本法のスタート(施行)を記念して、こども基本法がどんな法律か、どんな子どもの権利が認められているのか、わかりやすく説明していきます。

1.こども基本法は、全部で20条の法律

こどもにとって、特に大切なのは、5つの条文

こども基本法は、全部で20条の条文があります。

こどもにとって、特に大切なのは、5つの条文です。

第1条、第2条、第3条、第11条、第15条です。

こども基本法のもとの条文は、政府のホームページから確認してください。

この記事では、その条文を、小学校高学年や中学生などの、子どもたちにもわかりやすくしたものを紹介していきます。

漢字については、小学校までに学校で教わる漢字を使っています。

第1条

こども基本法は

日本国憲法と、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)

にもとづいて、

すべてのこどもが自立した個人として成長できるよう、

子どもの権利を守る法律です。

※子どもの権利条約(児童の権利条約)は、1989年に国際連合(国連)で採択され、日本は1994年に国会で批准しました。

子どもの権利条約については、日本ユニセフ協会ホームページにてわかりやすく説明されています。

子どもの権利条約を守ることを決めた(批准した)国には、そのための法律を作ることも国連から求められます。こども基本法は、子どもの権利条約にもとづいて作られた法律です。

第2条

こども基本法で「こども」とは、心と体が成長の途中にある人(赤ちゃん・学校に入るまえの小さなこどもたち、小中学生、高校生や若者)のことです。

国は、こどものための政策(こども施策)に、取り組みます。

第3条は、子どもの権利についての条文です。

とくに重要なので、さらに6つの項目に分かれています。

第3条第1項

すべてのこどもが、ひとりの人間として人権・権利を大切にされます。

こどもは差別されません。

第3条第2項

すべてのこどもに、安心して家族と生活できること、

愛されること、守られること、

健康に育ち、自立していくこと、

人間らしく生活するための社会保障、

(福祉)を受け、国に守られる権利、

教育を受ける権利、を実現します。

第3条第3項

すべてのこどもに、年れいや成長に応じて、

自分に関係するすべてのことについて、

意見を表明する機会と、

様々な社会活動に参画(参加)する機会が作られます。

第3条第4項

すべてのこどもの年れいや成長に応じて、

意見が大切にされ、

こどもの「いちばんいい幸せ(最善の利益)」を、

(国や大人が)優先して考えます。

(大人のわがままや幸せじゃなく、こどもの「いちばんいい幸せ」が優先です)

第3条第5項

こどもは、家族、とくに、お父さんお母さんに、

責任をもって育ててもらう権利があります。

だから、国は、こどもも、家族も、応援します。

でももし、家族が、子どもを育てられないときには、

こどもが心も体も、元気に育つように、

家族の代わりに育ててくれる人たちと、

安心してこどもが成長できるようにします。

第3条第6項

国は、お母さんお父さんや、家族だけでなく、

日本の人々が、こどもを育てることに、

喜びを感じられる社会にしていきます。

第11条

国や市は、こどもに関係する政策を決めたり、

いま行っている政策がよいかどうか、

せいせきをつける(評価する)ときには、

こどもの意見もとりいれるように、

必要な手続きをしていきます。

第15条

国は、こども基本法、子どもの権利条約について、

広報活動や学校での授業などを通じて、

大人にもこどもにも知らせていきます。

2.こども基本法で、こどもの権利はいくつある?

   おそらく16個です

こども基本法の、特に重要な5つの条文をみてきました。

さて、この中に、こどもの権利は、いくつあるのでしょうか。

私が数えてみたところ、子どもが使うこどのできる権利は、おそらく16個ではないかと思います。

おそらく、というのは法律にくわしい専門家といっしょに数えていないからです。

・子どもの権利条約に定められた子どもの権利は12個

(1)差別されない権利

(2)こどもの「いちばんいい幸せ(最善の利益)」が大切にされる権利

(3)生きる権利、育つ権利

(4)こどもが意見を言う権利(意見表明権利)

(5)こどもの表現の自由と行使する権利

(6)こどもが思想・良心・宗教の自由をもつ権利

(7) 親に責任をもって育ててもらう権利

(8) 家族とくらせない子どもが守られる権利

(9) 家族がいない時、代りの家族と安心に育つ権利

(10) 社会保障(福祉)を受け、国に守られる権利くらしにこまったとき、国にまもってもらえるけんり

(11)人間らしい生活をする権利

(12)学ぶ権利、教育を受ける権利

このうち(1)~(4)は、子どもの権利条約で、とくに重要とされている、一般原則と呼ばれる4つの権利です、

・こども基本法で、日本のこどもたちのためにつくられた権利は4個

(1)愛される権利

(2)参画する権利

(3)意見が尊重される権利

(4)こどもの権利を、知る権利

12個と4個を足すと、16個になります。

いつか法律にくわしい研究者や、子どもの権利を守っておられる弁護士さんたちとも考えてみたいですね。

3こども基本法、こどもは何ができるようになる?

-こどもがどんどん意見をいえる、大人に聞いてもらえる、意見を大人が大切にしてくれる

-こどもの遊ぶ公園や、保育園、学校などがこどもにとって、もっと楽しい、幸せな居場所(いばしょ)になる

こども基本法によって、こどもはどのようなことができるようになるのでしょうか。

こども基本法や、こどもの権利を大切にして、こどもたちのために活動している、こども家庭庁という、国の組織があります。

こども家庭庁も、4月1日にスタートしました。

こども家庭庁が、がんばっているのは、こんなことです。

・こどもがどんどん意見をいえる、大人に聞いてもらえる、意見を大人が大切にしてくれる仕組みを作ること。

・こどもの遊ぶ公園や、保育園、学校などをこどもにとって、もっと楽しい、幸せな居場所(いばしょ)にするための、仕組みやルールを作っている。

こどもが、楽しい、幸せな日本にするために、こども家庭庁や、文部科学省など国の組織に意見を伝えたいと思ったきみは、こども家庭庁から申しこんでみてください。

大人と、いっしょに申しこむのがおすすめです。

※こども家庭庁(かていちょう)「こども若者★いけんぷらす

そして、こども家庭庁も、こども基本法について、説明をしています。

私の説明よりも、年齢の高い子どもたち向けです。

もっと知りたいときは、こども家庭庁の説明のパンフレットや動画を見てください。

※こども家庭庁「こども基本法

おわりに

こどもたちに

こども基本法は、すべてのこどもたちが、自分らしく、自分を大切にして、伸び伸び生きていくための法律です。

こどもと大人が、仲間になって、意見を伝えあったり話あったりしながら、こどもが幸せで楽しい国にするための法律です。

この国の主役は、こどもたちです。

こども基本法、さあスタートです。

大人のみなさんへ

私は、こども政策・教育政策の研究者として、日本の大人たちが、子どもに権利を認めてこかった状況を、深く懸念してきました。

子どもが権利を認められていない状況というのは、子どもがひとりの人間として大切にされていない状況です。

子どもの意見を聞かず、勇気をもって意見を伝えた子どもたちが「生意気だ」「わがままだ」「それはお前だけの意見だろう」とつぶされてきた状況を、心配してきました。

子どもを一人の人間として認めない大人たちが、子どもたちを何人も自殺に追い込んできました。

そこまでいかずとも、子どもたちが自分らしく生きることを認めず、子どもたちの心を潰してきた大人たちが少なくありません。

自分たちだって、大人にそうやって育てられてきたんだ。

だから、あなたは子どもの権利を大切にしない、子どもちがそれぞれに自分らしくある自由を潰して生きていくのですか。

それでこの国の子どもたちは幸せになると思っていますか。

戦後最悪の児童虐待、不登校、子どもがいじめ自殺でこどもを死に追いやることも当たり前のようになっています

先進国でもっとも低い子どもたちの自己肯定感(自分を大切にする心)、幸福度。

国や社会を良くしたい若者たちも、主要国の中では異常に少ないのです。

それらは、子どもたちの責任ではありません。

大人の私たちが、そのように子どもたちを追い詰めてきただけです。

だからこそ、この国を子どもたちにとって幸せな国にしたい、しなくてはならない。

こども基本法を作った、すべての大人たちの思いです。

その思いをあなたが共有してくださるのなら、どうかこどもたちの声を聞き、声なき声にも耳を澄ませ、こどもたちが見ているものを共にみて、一緒に考えてください。

子どもたちが、このようなことをしたいと教えてくれたとき、「ダメ」と否定するのではなく、「どうすれば一緒にできるか」を考えてあげてください。

そんな大人が日本に増えていけば、日本は大人にも、子どもにも幸せな国になっていくことでしょう。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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