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#GIGAスクール 子どもを守る情報セキュリティを保護者・子どもと学校で #町田事件を繰り返さない

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
ICTを活用した学校でのプログラミング授業(写真:つのだよしお/アフロ)

町田市でのいじめ死事件の本質は、町田市においては子どもを守る情報セキュリティが不十分なまま、GIGAスクール政策のもとで、1人1台端末による学校教育でのICT活用が進められてきたことです。

町田事件を繰り返さないためにも、子どもを守る情報セキュリティを、いま進めるべきです。

自治体・学校のいじめ対応があまりに不十分であることは私も過去の記事において批判し、改善の在り方も提案してきました。

背景には自治体・学校ですら加害者を擁護しようとしてしまう加害者加担社会という日本の社会病理があると考えています。

※末冨芳「それでどういじめ被害者を支援し、加害者加担社会を変えるか?#人権侵害のオリンピック といじめ対策・1」(Yahoo!個人・記事、2021年7月24日)

※末冨芳,「それでどういじめ被害者を支援し、加害者加担社会を変えるか?3・『いじめを司法に委ねる』ことの重要性」(Yahoo!個人・記事、2021年8月12日)

大切なお子さんの命を理不尽ないじめによって奪われ、さらに校長・教育委員会の不適切な対応という二次被害にも遭われた被害者のご遺族のお気持ちを考えると言葉もありません。

司法連携も含めた加害者へのアプロ―チにも町田市は取り組まなくてはならないことは言うまでもありません。

同時にこのような事件を二度と繰り返してはなりません。

学校だけでなく、保護者・子ども(とくに小中学生)も取り組むべきポイントをまとめました。

1.パスワード共有などありえない

「先進校」なのに初歩的すぎるミス

パスワードは保護者と子どもで設定・管理を

パスワードは友達にも教えない

まず、多くの関係者が指摘していることですが、児童生徒間のパスワード共有などありえません

朝日新聞の報道(2021年9月19日・有料記事)では、パスワードが特定されやすい方式(組+端末番号など)を導入している学校の例も紹介されていますが、これも危険です。

パスワード管理の基本は保護者・子どもで設定したり、学校が設定した児童生徒に固有のパスワードを家庭で管理したりすることが基本です。

たとえば調布市教育委員会では保護者向けのマニュアルに、まずパスワードを設定することを示しています。

調布市教育委員会ホームページより
調布市教育委員会ホームページより

小中学生はパスワードを忘れやすいので、忘れっぽいお子さんの場合にはとくに、保護者の方が注意してあげてください。

また、パスワードは大事なので友達にも教えないよう、保護者も教員も同じルールで子どもたちに説明していくことも必要です。

パスワードは友達にも教えないというルールを身につけることは、子どもたちが成長しても我が身の安全を守ることにつながります。

もしもパスワードを忘れてしまった(学校配布のパスワードを書いた紙をなくしてしまった)場合には、遠慮なく学校に相談しましょう。

学校でもよくあるトラブルなので対応いただけます。

2.教育委員会・学校は教育情報セキュリティポリシーと監査体制の改善を

ID/パスワードの管理自体は、本来的には教育委員会の教育情報セキュリティポリシーで対策基準や実施手順が定められ、それに準じて校内ルールや家庭のルールが規定されることが通例です。

文科省も「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を示しています。

教育のICT先進自治体の一つである世田谷区では、文科省ガイドラインをもとに教育委員会の主導により、学校監査等も行われる制度設計が、すでに2018年から構築され運用されています。

世田谷区教育委員会ホームページより
世田谷区教育委員会ホームページより

しかしながら、コロナ禍の中で急速に進展したGIGAスクール政策で、そうした管理運用面まで手が回っていない教育委員会・学校も少なからず存在しています。

町田事件を繰り返さないためにも、いますぐの見直しが必要です。

多忙な学校現場の先生方への負担とならないよう、教育委員会がリーダーシップを発揮し効率的にマニュアル整備していくことも必要でしょう。

3.保護者・子どもと学校の「共通ルール」を作ろう

「子供たちがICTを安心安全に活用するために」を合言葉に

チェックシートなどによる「見える化を」

教育情報セキュリティは教育委員会・学校向けのサーバー管理やID・パスワード管理方針などを定めた大人向けの専門性の高い内容になります。

子どもたちの安全を守るためには、パスワード管理や端末の利用方法について保護者・子どもと学校の「共通ルール」を作ることも重要です。

「子供たちがICTを安心安全に活用するために」を合言葉に、保護者の不安、児童生徒のトラブル事例などを聞き、また事業者等からも子ども・学校のICTトラブルを収集し、保護者・児童生徒と教員で話し合いながら「共通ルール」を決めていくことも大切かもしれません。

現行学習指導要領の中核理念である「主体的対話的で深い学び」の実践としても重要ではないでしょうか。

またチェックシートなどによる「見える化」をし、家庭学習での活用の際にも保護者や児童生徒が意識しやすくする工夫も有効かもしれません。

町田事件を契機に、チェックシートなど、保護者・子どもと学校で、安全安心なICT機器の使い方を開発する動きも進んでいるそうです。

この記事の読者には教員や保護者も多いと思います。

みなさん方ご自身も不安なこと、わからないことは、お子さん(児童生徒)と調べたり対話したり、また大人同士(教員と保護者)でもPTAや公開授業の場などを利用して、話し合ったりしながら、より良いGIGAスクールを進めていきませんか?

子どもたちの生きる現在も未来も、デジタル技術なしには成り立たないのですから。

※本記事の作成については株式会社NEL&Mの田中康平氏からの専門的助言をいただきました。ありがとうございました。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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