Yahoo!ニュース

自民党総裁選は子ども置き去り?#子育て罰 候補は誰だ?#子ども基本法 #子ども庁 どうなる?

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
2020年自民党総裁選挙(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1.真の保守とは親子に冷たく厳しい政党・政治家のことか?

現時点で子ども若者が置き去りの自民党総裁選

少子化は重要課題といいながら2020年総裁選挙で子ども若者は置き去りだった

自民党総裁選は、派閥や政局ばかりがニュースになっています。

一部議員と主要メディアの政治部記者との癒着の成果ともいえる報道のあり方にもうんざりしています。

今回の総裁選も、これまでの総裁選と同様に子育て世代への政府投資や、子ども若者政策が置きざりのままになることを懸念しているからです。

自民党も少子化は重要課題といいながら2020年総裁選挙でも子ども若者は置き去りでした。

菅義偉氏、石破茂氏、岸田文雄氏のいずれも、少子化対策や子育て支援を重視していないことがわかります

(市川 雅浩「2020年自民党総裁選挙~3候補の政策案を比較する」三井住友DSアセットマネジメント,2020年9月7日)。

市川雅浩2020年9月7日記事より転載
市川雅浩2020年9月7日記事より転載

「子どもは国の宝」といいながら、少子化対策や子育て支援、子どもの貧困対策を抜本的に改善できる、子ども若者世代への投資や所得再分配を避けてきたのが自由民主党という政党だからです。

真の保守とは親子に冷たく厳しい政党・政治家のことでしょうか?

自民党が親子に冷たく厳しい子育て罰政党であれば、我が国の未来を弱らせ細らせることにしかならないはずです。

日本を弱らせることが、日本を大事にする政党のすることだとは思いません。

少子化を改善するためには、20年失敗を続けてきた親子への予算を増やさない子育て罰政策を転換し、親子の幸せを実現するための政府投資こそが重要であるはずです。

自民党に対する具体的な処方箋も、私と桜井啓太さんの共著『子育て罰―「親子に冷たい日本」を変えるには』でもすでに明らかにしています。

2.子ども庁、子ども基本法の流れを止めるな

自民党総裁こそ進化し、成長する存在

戦後初期を除き、自民党という政党の歴史の大半が、子育て世代や子ども若者への投資をケチってきた政党であることは確かです。

しかし、自民党総裁は、総裁就任後に進化し、成長する存在でもあります。

第1次安倍政権では教育基本法改正で親の責任を強調するばかりで教育や子どもに投資を怠った安倍元総裁でした。

しかし、第2次政権下では教育の無償化を導入し、とくに低所得層に手厚い高等教育の無償化は生活保護世帯や児童養護施設からの進学率を押し上げる効果が確認されています。

また菅総裁も、高所得層の児童手当を廃止するという少子化対策としてやってはならない子育て罰政策をすすめてしまったという汚点はあります。

いっぽうで萩生田文部科学大臣を留任させ、教育のICT化や小学校35人学級への政府投資を拡充、わいせつ教員排除法の推進など、画期的な政策の推進を応援くださいました。

また子ども庁や日本版DBSの議論の推進など、子どもたちにとって重要な政策は菅総理なしには進まなかったという国会議員からの高い評価もあります。

出生数が年間80万人と急激に悪化し、子ども若者の自殺も、虐待被害も過去最悪を更新し続ける日本です。

新たな自民党総裁が真っ先に取り組むべきは、子育て世代、子どもたち若者たちのための法律や政策を充実させることです。

私自身は、子ども庁は、子育て世代や子ども若者への予算と人員を拡充させる目的を持つならば、必要だと考えています。

もっと子どもたちのために働きたいのに、多忙すぎる少子化対策担当大臣だけでは閣僚は不足しています。

子どものために粉骨砕身する子ども庁の専任大臣を設置することも重要だと考えています。

また、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を批准しながらも、性暴力や虐待など子どもへの人権侵害が横行する我が国では、子どもの権利を実現する子ども基本法の実現も急務です。

新たな自民党総裁が、子ども基本法、子ども庁の議論を止めるならば、自民党が子育て罰を加速させることになります。

その際には私は全力をあげて自民党という政党を糾弾せざるをえません。

3.子育て罰を加速させる候補は誰だ?

子ども庁・子ども基本法に前向きな野田聖子氏

子どもへのプッシュ型支援を推進する河野太郎氏

「抜本的な少子化対策」を打ち出す岸田文雄氏

近代家父長的家族観を強調する高市早苗氏は子育て罰加速の懸念も

しかし、冷静に総裁候補と報道される自民党政治家のお名前を拝見すれば、子育て罰を加速させる候補者ばかりではないことも明白です。

それぞれの政治家に批判もあることも承知しています。

しかし私は政府委員としての経験や、子どもの貧困対策に関するロビイングを通じて、高市氏以外の政治家とは直接間接に接点を持ってきました。

(1)子ども庁・子ども基本法に前向きな野田聖子氏

まず今回の総裁候補報道がある政治家の中では、野田聖子議員は明確に「子どもにやさしい」、子育て罰消滅シナリオを実現させることのできる国会議員であると考えています。

野田聖子オフィシャルサイトにも「子どもたちの未来を重視した政治」をトップに掲げておられます。

野田聖子氏オフィシャルサイトより
野田聖子氏オフィシャルサイトより

子ども基本法の実現と推進に熱心であり、今年春の院内集会でもその旨を力強く明言される場に私もいました。

苦労してお子さんを産み育てられてきた経緯は、ミドルエイジ以上の日本の女性には広く知られているところです。

時事通信との昨年末のインタビューでは、ジェンダー平等の推進や、高所得層の児童手当廃止に反対し、子どもの財源を増やすことに意欲をお持ちです(時事通信2020年12月27日)。

子ども庁(子ども家庭庁)にも、前向きな取り組みをいただくことも期待されます。

(2)子どもへのプッシュ型支援を推進する河野太郎氏

河野太郎氏は、行革担当大臣として、子どもの貧困対策の推進や子ども若者への虐待を減らしたいという強い意欲をお持ちであり、政府からのプッシュ型支援の実現にむけて精力的に主導していただいている閣僚でもあります。

秋の行革事業レビュー2020(1日目)に行革担当大臣として参加する河野太郎氏
秋の行革事業レビュー2020(1日目)に行革担当大臣として参加する河野太郎氏

河野大臣の後押しにより、子どもの貧困対策でも、プッシュ型支援のための取り組みが急速にしており私自身も内閣府委員として微力ながら全力を尽くしています。

また行政改革ホットライン(縦割り110番)において、子ども若者への様々な支援の所得制限がバラバラで問題があることも明らかにし改善の意向も示されています

内閣府・河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年7月30日)。

ただし「小さな政府」論者として著名だった時代もおありの河野氏なので、親子に厳しい所得制限になりかねないことが心配です。

Twitterの活用や、縦割り110番など国民との「対話重視」の姿勢で、子育て世代や子ども若者ともつながっていただき、「子どもにやさしい」政治家としての成長も期待したいところです。

(3)「抜本的な少子化対策」を打ち出す岸田文雄氏

岸田文雄氏は昨年の総裁選では子ども若者政策は前面に打ち出していません。

しかし岸田派=宏池会のHPでは「チルドレンファーストに基づく抜本的少子化対策」を明確に主張されています。

宏池会ホームページより
宏池会ホームページより

また岸田派の議員には、児童生徒1人1台デジタル端末を保障するGIGAスクール構想の端緒を作られた林芳正元文部科学大臣、子どもの貧困対策担当大臣としても活躍いただき抜本的な少子化対策に取り組まれた松山政司議員など、子ども思いの実力者がそろっています。

若い世代の議員も、子ども食堂を積極推進くださっている国光あやの議員、9月入学に反対くださり子ども若者のための教育のデジタル化を推進くださっている小林史明議員、村井英樹議員など、未来の自民党総裁候補として私が密かに期待を寄せている国会議員が多いのです。

岸田ボックスyoutubeより
岸田ボックスyoutubeより

河野太郎氏と同様に岸田ボックス(#岸田BOX)というyoutubeチャンネルやSNSのハッシュタグで国民の声をひろく集めるアプローチを採用しています。

子育て世代、子ども若者の声にもぜひ耳を傾けていただきたいものです。

(4)近代家父長的家族観を強調する高市早苗氏は子育て罰加速の懸念も

高市氏については、子どもや女性に関する政策を総裁として打ち出されないのではないかと懸念しています。

公式HPでは安倍前総裁と同様に近代家父長的家族観にもとづき、家族や「躾」を重視しておられ、子どもの尊厳や権利を尊重されているのかわかりません。

むしろ子どもに厳しい政治姿勢が心配されます。

高市早苗氏ホームページより
高市早苗氏ホームページより

”「改正教育基本法」の崇高な理念が完全に実行される日まで、教育改革への挑戦を続けます”、と強調しておられるのは結構ですが、子どもたちのための教育改革に必要な投資への言及はゼロです。

子どもや学校現場への締め付けと規制ばかりで、子ども若者に必要な投資がされない懸念を持っています。

現時点では子育て世代に不足する所得再分配の改善や少子化対策の具体策も言及されていません。

残念ながら現時点では高市早苗氏が、親子に冷たく厳しい子育て罰を加速させる候補である懸念があります。

もちろん自民党総裁が成長する存在であるように、総裁候補も進化し成長する存在であるはずです。

高市氏が「子どもにやさしい」政策を示されることを期待しています。

4.子どもが真ん中(チルドレンファースト)の自民党総裁選の議論を!

子どもを大切にする自民党こそ日本の未来の鍵を握る

最後に、自民党総裁候補のみなさまにお願い申し上げます。

子どもが真ん中(チルドレンファースト)の自民党総裁選の議論こそが、いまの日本に必要なものです。

すでに今年6月3日に「こどもまんなか改革の実現に向けた緊急決議」(自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部)が行われています。

自民党「こども・若者」輝く未来創造本部提言,p.2より
自民党「こども・若者」輝く未来創造本部提言,p.2より

児童手当廃止でいいのか、貧困世帯の子どもたちへの支援をどう拡充するのか、教育の無償化の所得制限はこのままでいいのか

障害を持つ子ども若者、日本語指導が必要な子どもたち、LGBTSなど多様な性自認を持つ子ども若者たちも、生きやすい日本にするための法や政策をどうするのか

各総裁候補が、子ども若者と子育て世代のための政策を打ち出し、十分に議論されることを願っています。

子どもを大切にする自民党こそ日本の未来の鍵を握るのですから。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

末冨芳の最近の記事