#9月入学 事実上断念!政治災害収束に1年かかる #官邸主導型政治 と #教育再生実行会議 の課題

国会衆議院本会議での安倍総理(写真:つのだよしお/アフロ)

首相官邸に置かれた教育再生実行会議が、高校以下の9月入学を事実上断念する方向を、毎日新聞が報道しました。

高校以下は9月入学を導入すれば就学前教育に与える影響が大きいことなどを踏まえ、積極的には導入を求めない方向となった。

※毎日新聞,大学入学時期「多様に」 高校以下、9月求めず 教育再生会議,2021年4月16日記事

「積極的には導入を求めない」と歯切れの悪い表現なのは、教育再生実行会議が総理大臣も参加する、官邸直轄型の組織だからです。

1.やっと9月入学断念だけど、なぜ1年もかかるのでしょうか?

安倍前総理と官邸官僚(杉田官房副長官・和泉補佐官)のメンツのため?

ヨイショ政治は時間とリソースの無駄遣いです

私自身は、昨年の時点から、大学を除いては9月入学自体が愚かしい政治アイディアだと批判してきました。

とくに乳幼児や小学生、障がいを持つ児童生徒へのダメージ、日本教育学会が試算したように最低でも6兆円を超えるコストなど、メリットがほとんどない代わりにデメリットがあまりに甚大だったからです。

子どもと保護者をターゲットとした、官邸による政治災害とでも称するべき異常事態でした。

9月入学に文科省がリソースを割かれたことで、大学入試への対応が遅れました。

安倍前総理と側近による思いつき政治が受験生に迷惑をかけたのです。

結局のところ公明党の強い慎重姿勢や自民党内での反論も相次ぎ、6月には安倍総理は9月入学を断念したはずでした。

そんな9月入学の議論を官邸は実は1年も続けてきたこと自体が、多くの国民には驚きなのではないでしょうか?

研究者としてだけではなく、ひとりの国民としても疑問です。

なぜ議論に1年もかかるでしょうか?

そもそも高校以下の9月入学を議論する意味はあったのでしょうか?

安倍前総理と官邸官僚(杉田官房副長官・和泉補佐官)のメンツのために、わざわざ1年もかけて、議論したのだとすれば、典型的なヨイショ政治です

ヨイショ政治は時間とリソースの無駄遣いです。

この会議のために、多くの官僚の時間が投入されています。

また教育再生実行会議委員の中には、中室牧子慶応義塾大学教授、松岡亮二早稲田大学准教授など、我が国の誇る優秀な研究者もおられます。

中室先生、松岡先生の貴重な時間もこの会議のために割かれています。

それ以外の有識者も含め、委員の謝金は国民の税金から支出されていますが、それは本来必要なものだったでしょうか?

2.そもそも密室の教育再生実行会議

挫折した大学入試改革にも教育再生実行会議でのゴリ押し政治の影響

教育再生実行会議データの「誤読」「こじつけ解釈」も常態化

私自身は、教育再生実行会議で、高校以下の9月入学論が息を吹き返してしまうのではないかと懸念を持ちながら、議論を注視していました。

なぜなら、教育再生実行会議は、マスコミにも公開されず、オンライン公開もされない密室の会議だからです。

過去には、大学入試改革について、十分なデータの収集や分析、大学入試実態調査も行わず、データの読み取りも「誤読」あるいは「こじつけ解釈」ではという疑念を持たざるを得ないレベルの資料や委員の言動が繰り返されていた実績もあります。

この背景には、一部の政治家が、民間事業者の大学入試参入を促進させようとしたゴリ押し政治の影響もあるのではないかという疑念はぬぐえません。

私自身も、この問題については第5回・大学入試のあり方に関する検討会議で指摘し、教育再生実行会議や中央教育審議会を批判し、データを収集し、専門家による正確な分析とアセスメントを経たエビデンスインフォームドな政策決定を強く求めています。

第5回・大学入試のあり方に関する検討会議・末冨委員資料
第5回・大学入試のあり方に関する検討会議・末冨委員資料

要するに、教育再生実行会議の密室性にまず問題があり、そこでの検証やデータに関する議論のクオリティが十分ではなかったのです。

それゆえに9月入学に関しても、官邸主導の思いつき政治に対し、合理的な結論を出せないのではないかという懸念を持っていました。

9月入学断念と報道されましたが、もしかしてまた安倍総理の思いつきで、杉田官房長官や和泉補佐官などの官邸官僚が、教育再生実行会議担当官僚に会議の方向性をゴリ押ししてくるのではないかという懸念が、安倍政権の期間はつきまとっていたのです。

安倍総理と異なり、リアリストであり9月入学には反対くださったとされている菅総理の登場で、一安心はしましたが、それでも密室の官邸主導型政治のもとでは何が起こるかわからないと心配していました。

私が参加する省庁の重要会議(中央教育審議会・子どもの貧困対策に関する有識者会議・大学入試のあり方に関する検討会議)は公開し、マスコミにもフルオープンになっています。

保護者や子ども・若者の意見を表明してもらう時には、当事者意思を確認して撮影の制限や氏名の匿名化等、プライバシー保護に必要な最低限の措置を行うことも可能なのです。

教育再生実行会議の議事録は公開されていますが、これはリアルの議論から、修正が加わっています。

修正は、日本語として読み手にわかりやすく、という最低限という不文律があるはずですが、委員や官僚の大幅な修正が加わっている可能性は否定しきれません。

また教育再生実行会議の本体会議委員は、当然のことながら「総理との交友関係がある委員」「官邸に近いとされる委員」(オトモダチ委員)がいるのだろうという推測を裏付けるものになっています(首長・教育長の実務家委員の人選にそうした傾向は感じませんが)。

いっぽうで、今回開催された2つのワーキンググループ(初等中等・高等教育)の有識者委員には、優秀な研究者委員も多く加わり、本体会議委員の議論の暴走を防ぐ役割も期待されていたのではないかということを推測させます。

議事録や資料を確認すると、研究者委員が冷静な意見を述べるいっぽうで、理念や信念、経験だけでモノをいうオトモダチ委員もおられるのではないかと心配な場面もありました。

たとえばある委員が、狭い範囲のデータを用いながら、「志のある子ども」が報われる社会にとも主張されています。

残念ながら日本における「意欲格差」と社会経済階層の関係もご存知ないか、視野に入れないことにされているのだと悲しい思いになりました。

そもそも学ぶ意欲を持つことすら難しい貧困層の子どもが日本にいることに、おそらく無関心な委員が、サービス対象の子ども・親のバックグラウンドデータ(性別・親学歴・学校適応度等)などの影響を加味しない初歩的な分析にもとづき、「志のある子ども」だけを救おうとする格差拡大的な提案を、無邪気な信念にもとづき行われています

もちろんこうした委員を含め、教育再生実行会議の本体会議委員は「善意の人」なのだと思われます。

ただし客観性や合理性の吟味を経ない善意は、危険です。

大学入試改革も「1点きざみ」の知識偏重型入試からの脱却という善意にもとづき、暴走しました。

大学入試・高校教育の実態調査、高校生・高校教員等のステークホルダーの意識調査、定員管理政策の変更など、現状の丁寧なアセスメントや、必要な関連政策の改革の難易度の高さを想定はしていたはずです。

しかし、調査も検証も、冷静な政策の検討も 不十分で、改革の実現のために十分なレベルの提言を出せなかった当時の教育再生実行会議も、大学入試改革の失敗の一因だったのです。

官邸主導、政治主導だからといって、委員人選が偏りすぎれば、9月入学のような愚かな政策が暴走し、政治災害を加速させる懸念もあります。

また密室の議論をしていれば、いわゆる半径5メートルの議論(委員の理念・信念や狭い範囲での経験・成功体験だけにもとづく一般性普遍性の低い意見・私見)が横行し、公共性があるのか、国民の租税を支出するに値する価値のある会議なのかに疑問も出て来るでしょう。

3.デジタルトランスフォーメーション時代の教育再生実行会議&中央教育審議会は進化しなくていいのか?

教育政策のポエム化やめませんか?

政治家も有識者なる人も理念信念でモノを言いすぎでは?

今回の教育再生実行会議は、9月入学の阻止に1年もの時間をかけ、無駄だったのではないかという批判をしました。

しかし、資料や議事録を確認すると研究者委員からは、非常に重要な提言が行われています。

とくに初等中等教育ワーキングの松岡亮二早稲田大学准教授と、高等教育ワーキングの中室牧子慶応義塾大学教授は、それぞれ同じ趣旨の指摘をしておられます。

教育再生実行会議・松岡亮二早稲田大学准教授資料
教育再生実行会議・松岡亮二早稲田大学准教授資料

教育再生実行会議・中室牧子慶応義塾大学教授資料
教育再生実行会議・中室牧子慶応義塾大学教授資料

すなわち、まず政府がデータを構築し、分析するエビデンス活用が基本だということです。

政策課題に関する十分な先行研究や国内外の実証研究のシステマティックレビューも必要だということです。

また、そのほかにも、ICT教育を通じた指導体制と教育分野でのDXの重要性を述べられた堀田龍也東北大学教授、国際的な教育改革の動向から日本の教育における子どものウェルビーイングの重要性等を指摘された北村友人東京大学教授などの指摘も重要です。

政治主導・官邸主導であり、その官邸がDXを進めているからこそ、いままでの信念・理念や狭い経験・問題のあるデータでモノをいうような教育再生実行会議の人選や運営も、変化の時期に来ているのではないでしょうか

政府のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や教育ビッグデータの構築の中で、子ども・若者や学校・教員の精密な検証も可能になっていきます。

総理のオトモダチを選ぶのだとしても、公開の場での議論や、データリテラシーのある委員の選出を原則とするなど、官邸(自民党)の人選や、官邸主導型政治の進化も問われるのではないでしょうか

もちろん研究者・専門家には見えない価値観もあるかもしれません。

しかし今までの教育政策は、教育再生実行会議も中央教育審議会も、あまりにも理念・信念や狭い経験に基づいた議論が展開されすぎていました。

結果として、教育政策は、一般的な定義や、評価が難しい理念・信念の羅列である“ポエム化”ともいうべき現象を起こしています。

私自身も中央教育審議会臨時委員ですが、こうした実態に強い危惧を覚え、大学入試政策のような失敗を防ぎ、検証や合理的な政策目標達成のためのより良い教育政策を立案したいと思いこの記事を書いています。

おわりに:教育再生実行会議は、検証やデータ・エビデンスに基づく対話と学びの場に

総理・文科大臣と専門家・ステークホルダーの公開の対話が重要

信念・理念も大事だが、その前にデータ・エビデンスに基づく議論が政策効率を向上させ税金の無駄遣いを防ぎます

最後に、教育再生実行会議に対し、以下の提言を行っておきます。

私は政治家、とくに総理大臣や文部科学大臣の役割は、政策の優先順位を決め、それを納得できるものとして官僚や国民に説明をし、この社会をより良い方向に変革していくものだと考えています

たとえば萩生田文部科学大臣は、小学校少人数学級について、新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策のためである、と説明を繰り返してこられました。

私自身は最初理解に苦しんでいましたが、萩生田大臣の国会や大臣会見等での説明を聞いていると、テストで点数を上げることより、まず子どもの生命と安全を守れる学校でありたいという強い思いに裏付けられていたことを理解しました。

政府DXを進められる菅総理の信念も、この国にとって必要だと考えています。

しかし、そうした総理や文部科学大臣の判断は、専門家ステークホルダーとの対話を経て、検討されたり、十分な説明や対話がされていないことも確かなのです。

だとすれば、教育再生実行会議のような政治主導・官邸主導型の会議こそ、ひらかれた対話の場として機能すべきではないでしょうか。

教育政策の優先度や大きな方針を示すのは、総理や文部科学大臣にしかできません。

しかし、DX時代にあっては、大きな方針や政策優先度も検証やデータ・エビデンスに基づき判断される必要があります。

多忙を極める総理・閣僚がこうした判断をひとりですることはできません。

だからこそ、教育再生実行会議において、検証やデータ・エビデンスを共有しながら、総理・文科大臣と専門家・ステークホルダーの公開の対話を行い、政治家としての判断の根拠をより確かなものにする場にしていただきたいのです。

いわば、教育再生実行会議を対話と学びの場に、という提案になります。

信念・理念も大事ですが、その前に検証やデータ・エビデンスに基づく議論が政策効率を向上させ税金の有効活用にもつながります

我が国の政治主導・官邸主導型政治のあり方が進化できたとき、日本の教育は確かな変革を進めることができるでしょう。