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忘れられている3年生の不安 「9月入学」検討よりも急ぐべき入試対策7つの提言【#コロナとどう暮らす

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

 Yahoo!ニュースでは新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのように変化していくのか、皆さんが不安に感じていること、をコメント欄に記載する記事を公開しています。その中から「進路が見通せないこと」に関して不安を感じている3年生がいたので、私なりの見解を述べたいと思います。

「9月入学」議論 忘れられる3年生の不安

 

 新型コロナウイルス感染症に伴う休校などの影響で、9月入学を巡る議論が上がっています。9月入学は、休校で失った青春を取り戻したいという高校生世代の署名からはじまりました。しかしそれが、一部知事さんたちの間で「一斉休校期間や緊急事態宣言で、格差が出ている授業時数を9月入学でリセットしよう」という発想になり、さらに政府の検討ではなぜか新1年生をめぐる議論に焦点化されるなど、政策目的を見失っています。

 今年の9月入学は見送りとなりましたが、来年度の9月入学により高校3年生、中学校3年生のみなさんの卒業を来年8月まで延長する案も出ています。先行きが不透明な中、上記コメント欄では、高校3年生の生徒から「コロナウイルスの影響により予定していた留学が出来なくなり進路をどうするかずっと悩んで先が見えなくて不安」との声が寄せられました。

「全学年の来年9月入学」という大きすぎる議論の迷走の中で、こうした当事者の不安や悩みは忘れられているのではないでしょうか。

不安抱える3年生 具体的な対策の検討すすまず

 先述のコメントの通り、中高生、とくに3年生は進路への不安を抱えていることが考えられます。大学入試については、大学入試センターは例年通り1月に、第1回となる共通テストを実施する方向性を明らかにしました。

 しかし、例年冬期はインフルエンザ流行シーズンでもあり、新型コロナウイルスの第二波・第三波が来たらどうしようと心配になる受験生も多いと思います。また、冬季の受験までに履修が間に合わないことへの不安も大きいと思います。

 これまでのところ入試に関する措置としては、文科省が5月14日の通知で大学の推薦・AO入試について、開催が難しい大会や検定試験などの結果を得られなくても受験者に不利益がないよう配慮を要請。個別のオンライン面接や、大学の授業へのオンライン参加、実技動画の提出など、「多様な選抜方法の工夫」も求めています。

 「受験生ファースト」を求める内容ですが、重要なのはこうした方針をどのように進めるかです。しかし具体的な対策やサポート については、まったくといっていいほど話し合いが進んでいません。

「受験生ファースト」への7提言 安心して挑戦できるルールづくりが急務

 進路に関する不安を解消し、「受験生ファースト」を徹底するためには何が必要なのでしょうか。大学教育の現場で教員として学生に関わっている筆者から、大学入試対策を中心に7つの提言をしたいと思います。

●提言1 受験生のケアが必要 感染拡大防止も継続を

 まずは受験生の不安のケアに緊急で対応するため、ソフト面ではウイルスの再流行にそなえて学校の先生やキャリアカウンセラーに相談できる環境を、受験生から優先的に保障していくことが必要です。ハード面でも、デジタルデバイスや通信環境の保障に力を入れていただきたいです。

 また、入試シーズンにそなえ 、受験生ファーストのためのルールを整備する必要があります。受験生の周囲の人に感染予防を呼びかけることも、不安の解消につながります。一斉休校期間中も、高校施設におけるオンライン大学受験のために分散登校を認めるといった措置の検討も必要です。

●提言2 セカンドチャンス枠入試や冬期入試の時期見直しも検討を

 通常の冬期入試とは別に、来年度の春夏のいずれかの時期に、「セカンドチャンス枠入試」実施の検討も必要になると思われます。平時の厳格な定員管理を緩和し、AO入試、推薦入試や一般入試など、各大学のアドミッション・ポリシーに合わせて多様な形での実施が求められます。

 これはあくまで一案ですが、受験生のみなさんが安心して挑戦できる環境を政府が整えることが必要だと考えています。

 入試が冬期1回しか行われない場合でも、例年2月に集中する各大学の入試を3月にずらして入学時期を4月半ばに遅らせるなど、感染リスクを考えた「受験生ファースト」の工夫が必要です。

 冬に予定されている共通テストについては、会場確保の難しさもあり時期の変更が難しいです。ですがその後の各大学の個別試験の時期の柔軟化は、いまから準備できれば実現可能です。

●提言3 AO・推薦入試はオンライン活用を

 AO・推薦入試は、大学と高校をオンラインでつないで面接を実施することが新型コロナウイルス対策として有効です。すでに慶応義塾大学総合政策学部・環境情報学部は今年9月のAO入試について、2次面接試験をオンラインで実施するとしており、各大学もそれに追随すると思われます。

 受験生がオンラインで実力を出し切れるように、事前の対策も必要です。また大学、高校や自宅の通信環境が不安定で、面接が途切れる心配のないよう、とくに高校や受験生の通信環境の整備が急務です。

●提言4 冬期入試は出題範囲の明示で“学習時間格差”に対応を  

 冬期入試は、たとえば各大学の入試で出題範囲を明示するなど、一斉休校後の学習時間やオンライン学習導入状況の格差に対し、可能な限り公平なルールを導入することが検討されるべきだと考えます。

 出題範囲の制限に対応することで、個別大学の学部・学科別の初年次教育時に、高校生のみなさんの学び残しへの対応が可能です。

大学への助成が必要 低所得世帯や就活・留学にも支援を

●提言5 柔軟な入試対応のため大学側に必要な支援を

 もちろん、例年より多くの入試をしたり、定員を拡大して学生を受け入れたりする場合、大学は施設設備の拡充や教職員の増員が必要となる場合もあるでしょう。

 4月以降に学生が入学する場合には、キャッチアップのためのカリキュラムを準備しなければならず、一般入試で出題範囲制限をした場合には、例年以上に初年次教育の質を高めることも必要です。

 柔軟な入試対応を行うためには、来年度入学生が卒業するまでの間の国立大学運営費補助金、私学助成などの手厚い支援が求められます。

●提言6 低所得層を中心とした幅広い受験料・学習料補助

 共通テスト改革にふりまわされてきた高3世代が、なるべく不安を感じず受験できるよう、低所得層を中心として幅広い受験料補助が必須だと考えます。

 また受験生が休校期間中の学び残しなどを回復できるよう学校外学習費用等への補助を、やはり幅広く家庭に行うなどの支援策が不可欠です。

●提言7 オンラインで就活や留学に対応するためのサポートを

 最後に入試以外にも3年生のために必要な対策についてお伝えします。

就職活動では、感染再拡大にそなえ、高校等でのオンライン面接を可能にするなど柔軟な対策が求められます。

 留学についても、海外の主要大学ではオンライン入試が一般的に行われており、授業が来年の春・夏学期までオンライン実施されることが予定されている大学もあります。日本にいても留学が可能です。

 すでに通信各社は当面のギガ開放などをしていますが、その後は政府による通信費補助など、若者世代を支えるサポートが必要です。

 筆者からの提言は以上です。

 繰り返しますが、ここでの提案はあくまで一つのアイデアにすぎず、実際には複雑な大学入試の仕組については、文部科学省や大学入試センター、大学関連団体による合意形成がとても重要になります。9月入学より一刻も早い検討と対応の決定が重要です。

 3年生のみなさんが、不安なく挑戦できる環境を整え、進路を保障することが、政府の、そして日本の大人の役割です。

3年生に伝えたいこと

 高校3年生、中学3年生世代のみなさんは、休校期間中もコツコツと学びつづけていた人も多いと思います。少しだらだらしてしまった人もいるかもしれません。

 でも今から集中すれば、きっと入試の瞬間に十分に力を出せると思います。

 入試のスケジュールが見通せない現在ですが、例年通りのスケジュールを前提に、計画をたてて、コツコツ頑張ることが大切です。

 進路に関して不安なことは学校の信頼できる先生や、友達に相談しましょう。

 人にいいづらいモヤモヤはオンラインでの相談もあります。

 私は大学教員ですが、来年の春と、そして政府方針次第で場合によってはその後にも新入生のみなさんを迎え入れるために、入試や入学後のサポートを含め最善の努力をつくしたいと思います。

 3年生のみなさん、応援しています!

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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