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サントリー45歳定年制から学ぶ若手社会人のキャリア設計の重要性

末永雄大アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

こんにちは。アクシス株式会社 代表・転職エージェントの末永雄大です。

2021年9月9日、経済同友会・夏季セミナーで、サントリーホールディングスの新浪剛史社長が発言した「45歳定年制」が波紋を呼びました。

サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長が9日、新型コロナウイルス感染拡大が収束した後の日本経済の活性化策について「45歳定年制を敷き、個人は会社に頼らない仕組みが必要だ」と述べ、SNS(ネット交流サービス)上で波紋を広げている。新浪氏は10日、「定年という言葉を使ったのはまずかったかもしれない」と釈明した。

先月9月9日に、サントリーホールディングスの新浪剛史社長が経済同友会のオンラインセミナーで提言した「45歳定年制」が大きな波紋を呼んだのは記憶に新しいところだと思います。結局、翌日の記者会見で新浪氏が釈明することとなりました。

10/4(月) 18:16配信【45歳定年制炎上】その裏にある「見て見ぬ振りをしたい現実」LIMO [リーモ]

出典:

https://news.yahoo.co.jp/articles/9e1f198c4a12f2a5f330e209ecee59425f68d0e4

そのときの発言では「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と発言しましたが、翌日の記者会見で「首切りではない」と釈明する事態になりました。

言葉のインパクトが強すぎて誤解されている方が多いようですが、「定年を45歳にすると30代、20代で皆、勉強する。自分の人生、自分で考えるようになる」という提言の一部分だけが切り取られてしまったようです。

私なりに解釈すると、新浪社長は「これまでは良い学歴を得て、新卒で大手有名企業に入ることができれば、年功序列・終身雇用制度により、エスカレーター式にキャリアアップが実現できていたが、日本経済が成熟・衰退期に入った現代においては通用しなくなった。だから20代・30代のうちから勉強したほうがいい」ということを言いたかったのではないでしょうか。

当社は「マジキャリ」という若いビジネスパーソンのキャリアづくりをお手伝いしている立場からすると、非常に賛成できる意見です。なぜなら20代のうちからキャリア戦略を考えなければ、40代以降で非常に苦労するからです。

実際に、国内の大手企業ではコロナ以前より黒字リストラする企業が増えており、NECやファミリーマートなど40~45歳以上を対象にしているケースが多いです。しかし、自分自身のキャリア設計をしっかり考えていなければ、セカンドキャリアの道は非常に厳しいです。

20代のうちから何故キャリアの勉強をしなければいけないのか、3つの理由をお伝えします。

理由①転職市場は出来レース

まず知っておく必要があるのは、「転職市場は出来レース」であるということです。「人生は何歳からでもやり直せる」という言葉がありますが、転職市場では非常にシビアな評価が下されます。

例えば SNS でキャリアの年齢論について書くと、すぐに反論する方がいるのですが、本人のマインドセットの話と、転職市場での評価の話を混同されているように感じます。確かに人生の価値を決めるのはその人自身です。そこに年齢は関係ありません。しかし、キャリアにおける評価において、年齢は大きく影響します。

「そんなことはない!」と言い切れる人は、例えば、未経験45歳の方を新規で採用し、給与を支払うという選択ができるでしょうか。採用現場では、若いうちに自社ビジネスに関係する経験をしてきた人を採用するのが実情です。

転職市場はシビアで、常に他の求職者と比較されます。転職市場では現時点での経験×年齢によって、対象となる求人とオファーされる年収は、ほぼ決まってしまっています。それを知らずに転職サイトを利用しても、掲載されている求人が自分にとって対象外であれば意味がありませんよね。

転職の現場でよく起きる事例をご紹介します。仮にあなたが企業の採用責任者だったとします。そこにA さんという30歳の男性がエントリーしてきました。 A さんは、自社に関する経験は全くありません。大手企業で新卒から30歳まで約8年間の実務経験があり、年収は600万円です。

そして、あなたの会社では新卒採用しています。A さんと同い年の30歳は勤続7年目の中堅社員です。かつ3名から5名のマネジメント経験を積んでいます。大手ではないので年収は500万円です。この状況であなたは A さんを採用しますか? 未経験者に対して「大手企業出身で30歳だから」という理由だけでオファーを出すでしょうか?

残念ながら転職市場では、未経験からの転職で年収アップを狙ったり、どの求人でもエントリー可能というわけではないのです。

理由②会社内価値と市場価値のズレ

市場価値という言葉をご存知でしょうか。最近では、就活生も市場価値という言葉を使うようになってきていますね。しかし、市場価値という言葉の本当の意味が理解されていないと感じています。

市場価値を説明する際に、私はよく「会社内価値」という言葉を対比として使っています。会社内価値とは、特定の会社のみで通用する経験やスキルのことです。例えば、社内人脈がその代表でしょう。

一方で、市場価値とは特定の会社に限らずに持ち出せる経験・スキルのことで、業界や会社をまたいで横展開が可能なものです。転職市場で評価されない会社内価値をいくら高めても、その会社から出てしまえば、全く評価されません。それを避けるために、市場価値を高める必要があるのです。

誤解されがちなのですが、年収が高い=市場価値が高いわけではありません。会社内価値で年収が高いケースも多く、大手企業は会社内価値により年収が高いことが多いのが現実です。

市場価値が高い人は会社を変えても年収をアップできますが、会社内価値で年収が高い人は大体の場合、年収を落とさないと転職できません。さらに、年収を大きく下げても、蓄積してきたスキルが全く評価をされず、転職できないケースも多いのです。

理由③年齢制限という現実

転職市場においては、常に年齢という条件がついてまわります。どの企業も一応に「年齢相応の経験値」を求めてきます。なぜかと言うと多くの場合、他の候補者との比較によって採用されるかどうかが決まるからです。

転職市場においては常に2つの人たちと比較されます。1つ目は既存社員との比較です。成長企業や大手企業は新卒採用を毎年しているケースが多いです。そうすると2~3年目の若手でも、社内では立派な経験者として認められるわけです。経験のある既存の若手社員と比較して、未経験で30代の人を採用する理由はないというのが実情です。

2つ目は他の候補者との比較です。中途採用の募集では3年~10年以上のベテランが競争相手になります。有名な優良企業ほど、経験豊富な人材が応募してきます。そうすると、企業は候補者を選び選びたい放題ですから、より年齢が若く実務経験が豊富な人を優先して採用するでしょう。こうした視点がないために、30台を超えて未経験の人が「大手企業でマーケティングの仕事をしたい」と言った無謀な転職をしようとしてしまうわけです。

転職支援で年齢が課題となるケースをご紹介します。大手企業出身で10年ほど実務を積み、人柄も素晴らしい方が、実際に求人にエントリーしてみると、多くの会社から書類選考の段階で落とされるケースがあります。面接に進めた数社でも結局は不採用。

この理由は年齢相応の専門性がないためです。転職支援の現場ではこうしたケースが非常に多いです。27歳~28歳くらいまでであれば、人柄やポテンシャルの高さがあれば未経験でも採用してもらえる可能性はありますが、30歳を超えると採用企業としては「さすがに年齢を考えると人物面だけでは評価はできない、専門スキルがなければ…」と一気にハードルが上がってしまうのです。

専門性のない大手優良企業の方が40代を超えて転職を考えると、中小企業で年収が前職の半分の条件でしかオファーが出ないことが多いです。また、企業がリストラを行った際に、専門スキルがない人は、タクシー運転手や警備員の求人などしか対象にならないという現実を見てきました。

本人はベンチャー企業に転職する意欲はあっても、ベンチャー企業側から断られるのがオチです。

年齢と比例して、市場価値で高い評価を得られる専門スキルを高めていなければ、残酷な現実が待っているのです。40歳以上になると、そもそも転職が難しくなり、よほどの専門能力やマネジメントの高い実績がないと転職が難しくなります。

まとめ

20代のうちから将来の目標を明確にして、そこから逆算した経験スキルを蓄積し、戦略的に転職していけば、理想の仕事に就くことも可能です。

今回の新浪社長の発言ですが、人材の流動性を高めることには大いに賛同です。なぜなら、1社だけで勤め上げる前提でキャリアを考えること自体、無理がある時代になってしまっているからです。

新浪社長の発言をきっかけに20代の若手ビジネスパーソンがキャリアについて考え、自身の市場価値を高める努力をし、自分自身にとっての「幸せな人生」をつかんでほしいと思います。

アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント

青山学院大学法学部卒。新卒でリクルートキャリア(旧リクルートエージェント)入社。 リクルーティングアドバイザーとして様々な業界・企業の採用支援に携わる。東京市場開発部・京都支社にて事業部MVP/西日本エリアマーケットMVP等6回受賞。その後サイバーエージェントにてアカウントプランナーとして最大手クライアントを担当し、 インターネットを活用した集客支援を行う。2011年にヘッドハンター・キャリアコンサルタントとして独立。2012年アクシス株式会社を設立。代表取締役に就任。キャリアコンサルタントとして転職支援を行いながら、インターネットビジネスの事業開発や社外での講演活動等、多岐にわたり活躍する。

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