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連続強窃盗事件に思うこと

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(提供:イメージマート)

 全国的に広がっている不気味な連続強窃盗事件であるが、一部の実行犯が検挙され、今後芋づる式に事件の全容が明らかになり、解決されることを願う。

 今回の事件の特徴は、背後に何らかの組織的な存在があって、闇サイトを通じて高額バイトをエサに釣り上げられた若者たちが実行犯として利用されていることである。

 闇サイトで釣り上げられた若者たちは、「実行役」「運転手」「見張り」「連絡役」などに役割分担され、互いに面識もなく、指令も上からの一方通行である。つまり、みずからは安全な衣をまとって、末端に指令を出すだけの「元締め」の存在が強く推測されるのである。

 暴力団や半グレなどの組織犯罪集団では、構成員が犯罪を犯せば犯すほど組織内での地位が上昇するという、犯罪促進的な構造が認められるが、今回の事件ではそのようなことはなく、実行犯たちは背後の組織から雇われた単なる使い捨ての駒にすぎない。

 見方を変えれば、実行犯にされた若者たちもまた、元締めの利欲追求の踏み台、道具にされたわけである。もちろん若者たちも安易にみずからの意思で悪を選択した以上、厳しい処罰の対象とされることは当然であるが、しかし、同時に救済の対象としても把握することが重要ではないかと思うのである。

 事件の背景には、振り込め詐欺や暴力団などへの取り締まり強化などもあると思われるが、どこかを押すとどこかが膨らむという、まさに〈風船効果〉には注意すべきである。

 闇サイトで高額をエサに釣り上げられた末端の実行犯に対して、処罰後に違法行為とは無縁の生活がおくれるよう、社会全体でどうサポートしていくかが問題だ。ここが貧弱だと、若者が元締めの餌食になるだけで、結局〈風船効果〉があちこちで生じるだけのことになるし、このような財産犯も減らないだろう。闇バイトも減らない。

 暮らしが経済的に苦しくなる一方で、夢を持てなくなってきている日本社会の危うさが露呈してきているように思う。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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