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「処女ですか?」と聞く捜査官にレイプ被害を相談できますか?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
ソウル市「ONE-STOP支援センター」

■はじめに

性犯罪被害者から ”どこで” ”だれが” ”どのように” 話を聴くかは重要な問題です。

元TBSのジャーナリスト(51)から、レイプ被害を受けたと訴えているジャーナリストの詩織さん(28)が、捜査員から受けた”セカンドレイプ”としかいいようのない、ショッキングな捜査の実態について語られています。

捜査員のみなさんから、「処女ですか?」と質問されました。

「なんのための質問ですか?」と聞いたら、「聞かなくてはいけないことになっている」と。・・・

所轄の高輪署では、男性警官がいる前で私が床に寝転がり、大きな人形を相手にレイプされたシーンを再現させられました。さらにそれを写真に撮られるんです。口頭で説明すれば状況はわかることなのに、なんでこんな屈辱的なことをしなくちゃいけないのか。ほんとうに苦しかった。・・・

出典:「処女ですか?」と聞かれ…詩織さんが語る“捜査中の屈辱”

確かに、レイプの際に傷害が生じたのかどうかは、強姦致傷罪が成立するかどうかに影響してきますので、重大な問題です。判例は、強姦行為が必然的に処女膜裂傷を伴うものではないとして、処女膜裂傷について強姦致傷罪の成立を認めています(最高裁昭和25年3月15日判決)。しかし、(男性の)捜査員たちの「処女ですか?」というこの無神経な質問は、事実なら間違いなく被害者の精神的な傷口を広げることになります。

現在では、被害者からの事情聴取には可能な限り女性警察官で対応し、犯行再現についても女性警察官同士が代わって行ったり、丸めた布団やペニスの代わりにトイレットペーパーの芯などを使ったりしているということですが、この高輪署の捜査の様子からはまだまだ性犯罪の捜査において ”セカンドレイプ” の危険性があることをうかがわせます。

性的被害に対する配慮など、警察の体制もかなり充実してきたと思っていましたので、この記事の内容が本当であれば、たいへんショッキングなことです。

詩織さんが言われているようなことが実際に他でも行われているとしたら、いくら刑法を改正して性犯罪に対する罰則を重くしても、犯人の処罰に至るまでに、被害者はいくつもの高いハードルを越えなければならす、捜査機関に被害の申告すらためらうことになるでしょう。

■性犯罪・性暴力被害者支援センター

性犯罪被害者が ”だれか” に相談したその瞬間から治療プログラムが開始されなければなりません。繰り返しますが、性犯罪被害者から、”どこで”、”だれが”、”どのように”、話を聴くのかはたいへん重要な問題です。

もちろん、国においてもこのような問題の重要性は認識されており、「第2次犯罪被害者等基本計画」(2011年3月閣議決定)および内閣府男女共同参画会議による「女性に対する暴力に関する専門調査会報告書」(2012年7月)においても「ワンストップ支援センターの設置促進」が明記され、内閣府犯罪被害者等施策推進室からは「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター開設・運営の手引」も、2012年5月に出されています。

そして、平成20年4月1日、大阪府松原市の阪南中央病院内に「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」が設立されたのをきっかけとして、性犯罪被害者が被害を受けた直後に「安全な場所」として、支援者とともに精神と身体の回復を図るための、性虐待・性犯罪被害者ワンストップセンターの設置が全国に広がっています。

ところで、私は、2005年に韓国ソウル市にある「ONE-STOP支援センター」を視察する機会を得ました。どのような支援の仕組みが良いのかは、それぞれの国や社会の事情もあると思いますが、性犯罪被害者に対する支援の一つのモデルとしてここに紹介したいと思います。

■韓国ソウル市の「ONE-STOP支援センター」

特徴

韓国のONE-STOP支援センターの一番の特徴は、警察に相談した相談者であろうと、みずからここにコンタクトをとった相談者であろうと、すべての相談者・被害者がまず最初に連れて来られて保護される施設だということです。

そして、この施設には、女性警察官が24時間常駐し、病院内の独立の施設ですから、医師や看護師も常駐し、精神科医やカウンセラー、弁護士との連携もスムースに行われ、性被害を受けた相談者を中心に、警察官や医師など、すべての支援者がここに集まってくるという点が最大の特徴です。つまり、治療・相談・捜査・法的支援などが一箇所で完結する、まさに「ONE-STOP支援センター」として機能するような仕組みになっています。

概要

2006 年8 月にソウル市内の警察病院内に最初のワンストップセンターが設置され、全国的に拡大されています。

国の女性家族部、警察、病院の三者による協働により、従来別々の組織で行われていた、相談・医療・捜査・法的支援をワンストップで統合し、既存の人材と施設を活用することで最小の費用で最大の効果をあげることが目的ということです。

具体的な業務処理の流れは次のようになっています。

  1. 職員・女性警察官による受付(24時間年中無休、緊急電話と連携)
  2. 専門の相談員による相談(被害者の精神的安定を図り、治療プログラムを開始)
  3. 医療支援(医療スタッフによる応急治療、外科的および精神科的治療の実施)
  4. 女性警察官による捜査(証拠物の採取、被害調書の作成、陳述の録画など)
  5. 弁護士会による法的支援(無料法律相談、陳述書の作成支援など)

ワンストップ支援センターの様子(撮影は園田)

入り口の壁 上からサラサラと水が流れ、その音で気持が落ち着く。
入り口の壁 上からサラサラと水が流れ、その音で気持が落ち着く。
受付の様子
受付の様子
受付の様子
受付の様子
子どもが被害者の場合は、このような人形を使って話を聴く。
子どもが被害者の場合は、このような人形を使って話を聴く。
上の部屋はマジックミラーで見えるようになっており、その様子が録画される。
上の部屋はマジックミラーで見えるようになっており、その様子が録画される。
休憩室
休憩室
清潔なシャワールーム
清潔なシャワールーム
清潔なトイレ
清潔なトイレ
女性警察官(制服は威圧感を与えるので着用しない)、男性は通訳
女性警察官(制服は威圧感を与えるので着用しない)、男性は通訳

以上、参考になれば幸いです。(了)

【参考資料】

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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