Yahoo!ニュース

たむけんの「ちゃ〜!」が170万円で売れた!2022年は芸能人のNFT元年になる

谷田彰吾放送作家
Instagramで驚きの声をあげたたむけん

 また新たなムーブメントの始まり…そんな予感のする出来事だった。

 今月10日、お笑い芸人のたむらけんじが自身の代表ギャグ「ちゃ〜!」をNFTにして販売。本人いわく世界初のギャグNFTで、ブロックチェーンに刻まれた「音声データ」が驚きの価格で売買された。NFTのマーケットプレイス「COMSA」で出品され、77861XYMで落札。XYMとは暗号資産の一種(仮想通貨と言った方が馴染みがあるかもしれない)で、当時の価格は日本円にしてなんと約170万円。「何ごとも経験と思ってやってみた。最初にやることが大事。100万円が目標でしたけど倍近くになって、びっくりした」と喜んでいるという。

 また 先月には、同じく芸人の安田大サーカス・クロちゃんが、自身の3DアバターをNFTにして販売した。アバターとは、ゲームやインターネット上の仮想空間で自分の分身として表示されるキャラクターのこと。ユーザーは、アバターを操作することで空間を移動したり、様々な行動を行うことができる。今回は、クロちゃんの姿を撮影して3D化。購入者は、クロちゃんうり二つのアバターを様々な仮想空間で使用することができる。つまり、誰でも超リアルなクロちゃんになれるという夢の(?)商品だ。ちなみに、こちらは世界最大手のNFTマーケットプレイス「OpenSea」にて、0.3イーサリアムで売買された。イーサリアムも暗号資産で、アバターは日本円にして約12万円。これもクロちゃんアバターの「データ」が12万円という高値で売れたというわけだ。

売買されたクロちゃんのアバター
売買されたクロちゃんのアバター

 NFT?データ?どゆこと?ハテナだらけの人も多いかもしれない。いったいなぜこのようなものが販売されたのか?その背景には、芸能界にやってきたデジタルトランスフォーメーション(以下DX)の「第2波」の存在がある。

 第1波がやってきたのは2019年秋から始まった芸能人YouTubeブーム。カジサック、中田敦彦の成功を皮切りに、芸能人がYouTubeに大量参戦した。江頭2:50や宮迫博之、手越祐也など、主戦場をテレビからネットへと移行し大成功を収める芸能人が続出。これが芸能界のDXの始まりである。

 DXが爆発的なスピードで進んだのは、大きく二つの理由がある。

 一つ目は、テレビメディアの弱体化だ。テレビの広告費は下降線をたどり、ついにネット広告費と逆転。最近は大物司会者の番組が次々と終了するなど、番組制作費削減の波は顕著だ。コンプライアンスの強化もダブルパンチで、なかなか画期的な番組が誕生せず、かつての輝きに陰りが見えている。

 そして二つ目は、新型コロナウイルスの影響だ。2020年の春に緊急事態宣言が出されると、芸能界全体の仕事が激減。このまま家にいても仕方ないと業を煮やした芸能人達は、自主的に働くことができるYouTubeやライブ配信、オンラインサロンなどのデジタルコンテンツに取り組み始めた。今やTikTokも含め、芸能人の動画配信は当たり前のものになっている。

 芸能人のマネタイズの仕方は大きく変わった。メディアに雇われるのではなく、自分からビジネスを展開して稼ぐスタイルへの転換だ。では、コロナ禍になって2年、芸能界DXの第2波とはいったい何か?その一つが「NFT」である。

 NFTは2022年のバズワードとして、様々なメディアで取り上げられている。日本語に訳すと「非代替性トークン」。ネット上で唯一無二であることを証明できる画期的な技術だ。ネットでは、画像や音声や動画などのデータをいくらでもコピーできる。本物(元データ)と偽物の区別がしづらいため、実質価値を証明できなかった。しかし、NFTによって「これが元データである」ことを公にできるようになり、ネットコンテンツビジネスの発展が期待されている。たむけんの「ちゃ〜!」もクロちゃんのアバターは「これが本物ですよ」と保証されているからこそ高値で取引されたのだ。

 また、NFTには他にもメリットがある。二次流通した時にもデータの作り手に収益が入る仕組みがあるのだ。たとえば、本に例えるとわかりやすい。本屋で本が売れると、作家に印税が入る。次に所有者が読み終わり、古本屋に売る。この時、古本代は本を売った人にしか渡らない。しかし、NFTならば、そのうちの何パーセントかが作家にも入る仕組みにできる。何度も転売されたり、値段が上がれば、その分データの作り手も潤うわけだ。ちなみに、クロちゃんのアバターの販売価格は現在、25イーサリアム(日本円で約875万円!)に設定されている。もちろんこの価格で買い手がつくかはわからないが、この「価値の変動」がNFTの大きな魅力である。クロちゃんが活躍すればするほど価値は上がり、所有者も本人も得をするという、いわば「会社の株式」のような図式なのだ。

OpenSeaより
OpenSeaより

 NFTは芸能人にとって新たなビジネスチャンスになる。真っ先に思いつくのが、トレーディングカード。二次流通が期待でき相性が良い。そして、アバター関連。クロちゃんになりたい人は限られているだろうが、これが女子に人気のカリスマモデルならどうだ。そのモデルと同じルックスになりたいと思っても現実では絶対に不可能だが、アバターならばなれてしまう。また、アバターが身につける服や靴もNFTビジネスになる。デザインしてもいいし、有名アパレルブランドとのコラボもできるだろう。さらには、イベントのチケットをNFTで売ることもできる。二次流通が収益化できれば長年の転売問題を少しは解決できる。

 テクノロジーは新たな変化をもたらす。後に続く事例もどんどん出てくるだろう。「芸能界のNFT元年」はクロちゃんとたむけんで幕を開けた。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

谷田彰吾の最近の記事