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もうフィクションでは満足できない? ワタナベマホトのわいせつ暴露に見る勧善懲悪コンテンツのリアル化

谷田彰吾放送作家
ワタナベマホト、YouTubeより。

 2020年はドラマ『半沢直樹』が一大ブームを巻き起こした。しかし、これからはもうフィクションでは通用しなくなるかもしれない…。YouTube界から衝撃のニュースが飛び込んできた。

 人気YouTuberのワタナベマホトが、15歳の少女にわいせつな写真を強要したとして所属事務所のUUUMから契約を解除された。マホトは元欅坂46の人気メンバーだった今泉佑唯との結婚を発表したばかり。しかも、強要当時、すでに今泉は妊娠していた…というのである。

 いかにも『週刊文春』がスッパ抜きそうなネタだが、このスクープを告発したのはメディアではない。ツイキャスなどを主戦場とする配信者・コレコレだった。マホトと同じくYouTubeや生配信で生計を立てる、いわば「ネットタレント」だ。

コレコレは生配信界ではカリスマ的な人気を誇り、有名YouTuberの暴露話など、過激な配信が特徴。誰にも忖度することなく、活動歴が長いこともあってファンの信頼が厚い。今回は被害者の少女が自らコレコレに相談する形で、事件は明るみになった。マホトが世間から集中砲火を浴びたのはもちろん、Twitterでマホトを擁護するようなツイートをした東海オンエアのてつやも炎上している。これまでならネット界の中でのニュースで止まっていたはずが、芸能人が絡んだために一般層まで関心を寄せる事態となっている。

 その様子はまさに、「成敗」という言葉がふさわしい。

 先に断っておく。タイトルに「勧善懲悪コンテンツ」と書いたが、私は今回の一件をコンテンツとは思っていない。コンテンツと呼ぶのは被害女性にあまりにも失礼だ。だが、自らプロの配信者を巻き込んでしまった以上、ネット上ではコンテンツになってしまう。

 近年、「悪党をこらしめる」という勧善懲悪ストーリーの人気が顕著になっていると感じている。『半沢直樹』はその代表例で、サラリーマンが悪事を働く上層部をぶった斬る逆転劇だ。悪党を完膚なきまでに叩きのめすので、見ているとスカッとするのだろう。なにかとストレスが多かったり、コロナで鬱屈とした気持ちまでも吹き飛ばしてくれたのかもしれない。とはいえ、そんな筋書きは『必殺仕事人』などなど、昔からよくあるじゃないか…という意見はごもっとも。人の心を惹きつける王道のストーリーに違いない。

 だが、今はその「ぶった斬り」がフィクションではなくなった。現実世界で悪に一泡ふかせる姿をリアルタイムで見ることができてしまう。いい例が不祥事を起こした芸能人の謝罪会見だ。昨年末のアンジャッシュ渡部建の会見は記憶に新しい。

 もはや、視聴者は謝罪会見をある種のイベント、もっと言えば「お祭り」のように捉えている気がしてならない。そこにはいくつかの要因がある。

 ひとつは、自分も成敗に加担できる「参加型」になったことだ。TwitterをはじめSNSが定着し、匿名で事件の当事者を攻撃できるようになった。加害者も被害者も、その周りにいる人もターゲットになりえる。その良し悪しは専門外なので私の論じるところではないが、ここで言いたいのは、ネット上では謝罪会見にまるで恒例行事のように参加する、という風潮ができあがりつつあるということだ。一度参加してしまうと、その快感が忘れられないのかもしれない。

 そしてもうひとつが、「謝罪のコンテンツ化」だ。YouTubeには、なにか悪いことをしたり、釈明すべきことをした時に、スーツを着て真面目に語る動画を投稿する文化がある。もはや毎週のように誰かが謝っているような印象だ。その数が多すぎて、YouTubeのメイン視聴層である10〜30代はもう麻痺しつつあるのではないか。何度も謝っているYouTuberもいるし、時には謝罪動画と見せかけてドッキリということもあるから、受け止め方も複雑化している。

 マホトの一件がこれまでのものと大きく違うのは、発端となるスクープの部分がライブだったということだろう。従来、事件の発端を作ってきたのは『週刊文春』のような写真週刊誌が多かった。しかし、今回はコレコレの生配信という形。被害者の声が編集された活字ではなく、肉声で伝えられたのだから臨場感・生々しさという意味では週刊誌をはるかに凌駕する告発劇だった。

 人々は、フィクションの中で勧善懲悪を見て溜飲を下げ、日々のストレスを解消してきた。だが、ネットコンテンツが進化するにつれ、どんどんリアル化している。徐々にフィクションでは満足できなくなってくるかもしれない。行き着く先はどうなってしまうのか…。今回の一件は、考えさせられるものがあった。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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