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たかまつなな「NHKに入って本当に良かった」 現在の心境を明かす

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
たかまつななさん(筆者撮影)

お笑い芸人のたかまつななさんが、7月末でNHKを退職した。なぜ彼女はNHKを辞めようと思ったのか?そして、これから何をしていこうと考えているのか?前編に引き続き今の思いを単独インタビュー取材で聞いた。(たかまつ:たかまつなな Q:鎮目博道)

もっと「NHKらしい番組」を作るべき

Q:民放にいた立場からいつも思っていたのは、本当はNHKさんって視聴率関係ないじゃないですか。

たかまつ:関係ないです。

Q:そこで商売をしているわけじゃないから。でも、意外と視聴率を気にしますよね?

たかまつ:そうですね。

Q:僕らのほうから見て少し思うのは、演出論だけかもしれませんけれども、結構民放に寄せてきている感じがしていて。

たかまつ:最近はそうですよね。

Q:すごく「なぜだろう」と思っていて。というのは、結構民放でやっていると、やっぱり嫌でも視聴率を取らなきゃいけないから、すごくつらいし、本当はやりたくないと思いながらも泣く泣くやっている部分があって。そういう意味でいうと、しなくていいはずなのに、何でそれをやりたがるんだという……。

たかまつ:そうですね。それで言うと、若い人に見られないことに関する危機意識は、中でもめちゃくちゃあるわけです。

でも、やっぱり第一線の日テレの番組とか「行列」とかって相当優秀な人たちが作っているし。「アメトーーク!」とかも加地さん(注:テレビ朝日の加地倫三さん)とかってすごいですよね。NHKは良くも悪くも最初にリポートから作って、均質な教育をする方針なので、その辺の制作集団にはやっぱり全然勝てないと思うんです。民放の育成方針や制作現場に残りたくても、残れない人たちを見ていると、冷たさも感じます。数字を取るためだけど、人事がシビアだと痛感します。

だから「バリバラ」みたいな番組こそ、今あれが完璧だとは思わないですけれども、ああいうのをどんどんやっていって、新しいお笑いとかバラエティー番組というのを確立していくというのが、本当はNHKらしさだと私自身は思っています。

そうではなくて、本当に若い人に見られるということをゴールに置いたとしたら、制作会社の人が作れちゃう。たとえば、『チコちゃん』をやった小松さん(小松純也さん)が。

Q:元フジテレビの人ですからね。

たかまつ:で、それはうまくいくわけです。そうするとどうなるかというと、「第2のチコちゃんを探せ」とやっぱりなっちゃって、民放出身の人をどんどん集めてきてそういう番組を作ろう、となっちゃいますよね。ゴールをどこに置くかだと思います。

民放と違う経済モデルで成り立っているからこそ、視聴者の人を思って制作する。私は民放といかに差別化するかということがNHKの生存戦略だし、大事だと思うんですけれども、それを、波風を立てないようにああいう形にするとかというのは、中にいる時も本当に嫌でした。

Q:多分今、視聴者の方からしても、テレビ、日本のテレビは同じような番組ばっかりやっているよねという思いがすごく強いと思うんですけれども、そういう意味でもやっぱりNHKはNHKにしかできない独自の番組を作ってほしいなと僕らの立場からするととても思うところはあります。

たかまつ:そんなにオリジナリティーがある、新しいものを作りたいというクリエーターみたいなのが、テレビ界にそもそも全然いないというのはすごく感じます。

そういう人はもうテレビに来ていないんじゃないかなと思いますね。昔の人たちの若いころのことは知らないので、昔もこんなもんだったのかもしれないですけれども、それはもう本当に人気がなくなっているなとはやっぱり思います。

Q:テレビ自体から若者がもう既に離れている部分はありますが、それについてはどうお考えですか。若者をテレビに呼び戻したかったのか、それともテレビといろいろなメディアをもっと連携させて、新しい形を作りたかったのかというと。

たかまつ:そうですね、新しい形を作りたかったというのはあります。それと、やっぱりテレビは最強だとも思うし、今もネットだけでバズらせていくのはほぼ無理なので、ネットでバズらせてテレビでも取り上げてもらって、さらにもう1回ネットでもバズるとかという構造が、多分オーソドックスだと思うので、多分両方やりたかったんだと思います。

7/31 NHK最終出社日のたかまつななさん (本人提供)
7/31 NHK最終出社日のたかまつななさん (本人提供)

「出演者」と「制作者」の二足のわらじ

Q:例えばテリー伊藤さんとか、制作者だった人が出演者も兼ねるということは、今まで結構あったと思うんですけれども、逆に言うと、出演者だった人が後で制作者側に回るというパターンってあんまりなかったような気がするんですが。

たかまつ:出演者を辞めてから制作側に入る人はいたと思いますけれども、出演者のまま残ろうとしている人は聞いたことはないです。

Q:ですよね。で、今お話を聞いていると、すごくマインドとして制作者的だなと感じるんですけれども、そもそも出演者から始められたのはなぜですか。

たかまつ:すごく悩んだんですけれども、以前テレビの番組を観覧しに行った時に、カンペをすごく出していても演者さんが結構好きなことを言っていて、最終的には演者が結構いろいろできるんだなと思ったりとかもしました。

あと、爆笑問題さんとかを見て、太田さんが活動家だったらとんでもない影響力を持っているだろうなと思ったんです。「社会活動に対してこういう取り組みをしました」といったら、すぐネットニュースになるだろうなと思って。テレビでも新聞でも取り上げられなくても、個人がメディアになれる。自分自身がメディアになれると、影響を与えられる社会問題の幅ってすごく広がるなと思って。

Q:アメリカなんかだとよくいらっしゃいますよね。

たかまつ:そうですね。

Q:そういうセレブリティーが何かを訴えるというパターン。

たかまつ:だから自分が売れることが絶対大事だと思っていたので、最初は手段を問わずに売れようと思っていました。「お嬢さま」でメディアに出たのも、手っ取り早くテレビで売れて、売れたら好きなことができるよと先輩方に言われていたからです。

お嬢さまネタでテレビに出て、活躍して売れてと思って、サンミュージックに入りました。テレビのひな壇に出ると今度はお嬢さまのフリしか求められなくなって。それがいや過ぎて、むなしくなりました。

こんなきらびやかなステージがあって、めちゃくちゃ有名な芸能人が目の前にいて、スタッフさんが何人もいて、結局私が求められることは、成り上がりの芸能人をばかにすること。

これをずっとやるのかと思って。

Q:多分、大本にあるのは活動家ということですよね。

たかまつ:そうですね。伝えるということのほうが大きいですけれども。

あんまり扇動することは……山本太郎さんには別に憧れはしないので。考え方が違うというのもありますけれども、生き方としても憧れないので、政治家や活動家ともまた違うとは思います。あくまで、伝えていくに主軸をおき、その横に活動という感じですかね。

Q:ただ、何かこうご自身の持っている問題意識を人に伝えて、社会を変革していきたい。

たかまつ:だから、野口健さんとかがすごく近いんです。富士山の問題の時とか、講演会に行ったら漫談家みたいな形でめちゃくちゃ笑いを取って、絶対ごみ問題とか環境問題とかに興味がない人がいっぱい来ているわけです。で、笑って「面白かったね」と言って、帰っていかれます。爆笑問題の太田さんとアルピニストの野口健さんと池上彰さんとかが、私のやりたいことにすごい近い方です。

Q:そうするとやっぱり今後は、NHKさんをお辞めになって、やはり何か伝えたいことを伝えるために出演者と制作者の二足のわらじを履いていくということですか。

たかまつ:YouTubeはもう本当に両方できると思うので、YouTubeでやって、出演者と制作者両方でやっていきます。また私の素材を提供したり、出演者としても、テレビと関わっていきたいですね。

「YouTubeだからできること」に切り込んでいきたい

たかまつ:放送作家として、例えばちょっと報道的な観点でこういうテーマをやったほうがいいんじゃないかみたいなこととかをすることにも、ちょっと興味があったりとかはします。

放送作家とかは少ししかやったことはないんですけれども、ディレクターとして1から10までやるということは大変ですし、自分の作りたいものを最後まで調整して作る大変さも知ったので、そういう気持ちはあんまりないんです。

限界は感じていますが、バラエティー番組のひな壇としてちょっと意義があることを言っていくみたいなことにも興味があります。大御所の方の外国人やLGBTQとかの無意識の差別的発言を冗談っぽく、いなすとかはやってみたいです。議論も巻き起こりそうですし、真面目なドキュメンタリー番組を見ない層にもアプローチできますからね。

でも、一番はやっぱり今はYouTubeです。「YouTubeの動画をテレビに提供してください」と言われることも最近ちょくちょく出てくるようになり、嬉しいです。

EXITさんとかも、結構前ですが出てくださって、過去の話を文春で報じられた件とかをすごく話してくださったんです。私のYouTubeの番組がきっかけでテレビ番組に復帰されたとは思わないですけれども、でも多分、教育格差についてその後キャスティングした人はこの番組を見ていると思うんです。実際に、他のメディアの人から見たという感想をたくさんいただきました。

藤原史織さんもこの番組に出てくださいました。それで「SDGsをやりたい」とかおっしゃってくださいました。今までにテレビに出ている有名な人でも、メディアで自分の思っている本心を発信するのは怖い。社会問題や政治に触れるのは、抵抗がある。でも、たかまつななチャンネルでやったらいいかなという人を増やしていって、芸能人が政治とか社会問題についてや、触れにくいタブーとかについても発信できたらいいと思います。

YouTubeである程度自分がリスクを負えば、テレビで言いにくいような社会問題とかに切り込んでいくということもそうですし、私の視点として、将来の日本ってこういうふうに危ないんじゃないかとか、オピニオンみたいなこともやっていきたいですし、世の中を変えていくための新しい構造とか社会を巻き込んでいくということとかも、いろんな今までできなかったことをYouTubeで細々とやっていきたいです。

あとは、本当に若い子に届けるということをやっていって、ジャーナリズムとかの常識を、ポイントは押さえているんだけれども、伝え方という意味では従来の常識を壊していきたいなと思います。そういうのを見て、民放とかから一緒にやりませんかというお声掛けとかも欲しいです。

今はなかなかお金がない中、クラウドファンディングで最初の1年ぐらいは何とかして、その1年後にマネタイズできる環境まで持っていければというふうには思っています。今まで結構、講演会とかで稼いでそれをYouTubeの制作費に回すということをしていたんですけれども、(新型コロナの影響で)できないので。作って、土俵に上がって失敗してということを繰り返すのを1年間はやっていこうかなと思っています。

Q:NHKと今後手を組んでいくということも?

たかまつ:そうです。「NHKが悪い、駄目だ」とか言ったほうが、今後も仕事も増えるし、お金も儲かりそうですが、空虚で全然的を射ていない批判も多いなと中にいて思いました。中にいたからこそ何でこの問題ができないのかというところがよく分かるので、くだらない組織論理だったりとか、忖度みたいなこととか、ちょっと圧力に近いものだとかも含めて分かるということは、強みだと思います。霞ヶ関・永田町の世界もかなり分かるようになりました。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

NHKに入って本当に良かった

Q:制作者としてNHKに入って成長された面は多いと思うんですけれども。

たかまつ:多いと思います。本当に入って良かったです。

Q:どんな点が成長したとお考えですか。

たかまつ:やっぱり情報との向き合い方が変わりました。オリラジの中田さんとか、裏どりがあいまいだ、と炎上しているじゃないですか。ああいうことは絶対ないと思います。NHKに入る前だったら中田さんを100%支持していたと思います。やっぱりファクトとか裏どりをすることって大事で。それでも私は、本当はしっかり裏どりもしてほしいけど、中田さんの活動はハードルをさげる上では重要な役割をはたしているとは思いますが。

今後自分がやる上でもやっぱり炎上することは減ると思います。こういうことを言うとこのぐらい炎上するだろうなというのは、前から分かっていたんですけれども、でも炎上を回避する方法をいっぱい学んだので。例えば本当にくだらないなとは思うんですけれども、テクニック論ですが「可能性があります」とか「と言われています」というふうに断定しないとか。

そういう技術はすごく身に付いたし、本当に取材することとか、文献のリサーチとかは、例えば大学院の研究とすごく似ているなと思いました。やっぱり1しか知らなくて1言うのと、100知って1言うのとは全然違うので、そういうことの大切さとを学べたりとか。今までは「池上さんが言っている」「NHKが言っている」「文科省が発表している」からとか、どちらかというと看板みたいなところを重視していたんですけれども、今はどちらかというと、プロセスとかファクトはどこだとアンテナが持てるようになったのは、大きいことだなと思います。

Q:つまりNHKにファクトの大切さとか、ジャーナリストとしての基本とかを教わったということなんですね。

たかまつ:そうですね。あと、霞が関とか永田町でどういうことが起きているかとか、政策がどういうタイミングで動いて、どのタイミングでどういう報道をすれば、政策が変わる可能性があるのかとかということを知れたというのは、すごく大きなことだなと。いつ伝えるかでかなり変わりますからね。

Q:そういう意味では、いい先輩と出会えたとかそういうこともありますか。

たかまつ:それはもうめちゃくちゃ出会えたと思います。やっぱりバラエティーには一生来ないような、私がさんまさんぐらい売れたとしても出会えなかったような人に、NHKの内部に入ったからこそいっぱい出会えました。本当にジャーナリズム一筋でやっている人がこんなにいるんだと。

マイナスなのは、発言することがすごく怖くなりました。もう、今コメンテーターの仕事を引き受けるかどうかって、悩むだろうなと思います。

でも多分出ると思います。変な人が出るよりは自分が出たほうがましだなとも思いますし。

クラウドファンディングにかける思い

Q:クラウドファンディングをなさっているそうですね。

たかまつ:若い人に向けて、政策・社会問題を届ける番組を本当に作りたいなと思っています。私が出始めた時、19、20歳ぐらいの時だから今から7~8年前は、「YouTubeなんて」という感じだったんですけれども、本当にテレビが超衰退しちゃったなと思って。私は結構、最後のテレビで育った世代なので、テレビに対して憧れも好きという気持ちも、まだ全然あるんですけれども。

それでもやっぱり、未来はあんまり感じないので。YouTubeで何の言い訳をすることもなく、自分の好きなものを思いっきり作ってという方が自分の性にあっているかなと。

今は毎週土曜日に、ニュースの解説というのを30分でやっています。今週1週間に起きたニュースを解説するという番組なんですが、そういう番組で若い人に新聞・テレビ以外からもニュースを知っていただきたいですし、タレントさんとかとコラボすることで、政治とか社会問題にも興味を持っていただきたいという気持ちもあります。あと、当事者の方の意見とか、シンポジウムとかを適切なタイミングでやりたいです。

やっぱり記者クラブの弊害ってすごくあると思います。私たちが批判すべき側の人たちから、なぜか批判を受けて、情報発信が制約されるということは本来あってはならないと思うんですけれども、情報をクラブで取るということは、クラブに所属していない人よりかは遥かに簡単なので、残念ながら、クラブにいながら批判する記事を書くということは、今の組織論理上難しいと思います。

だからこそフリーランスという立場から、メディアの人に届けるためのメディアというのも一つ大事だと思うので、そういう役割も果たしていきたいなというふうには思います。例えば、9月入学が議論にあがった時に、自民党と公明党にプライベートの時間で取材にいき、そこでオフレコになっていることやオープンでもあまり報じられていないことをどう世間にだしていくか考えました。開かれた議論が必要だと考え、それぞれの党の会議で話した専門家の方に、YouTubeで講演を再現してもらいました。これは、クラブに入っている人は、少しやりにくいです。現状だと、外側の人間の方がやりやすいです。このように視聴者の方だけではなく、メディアの人に、何が問題なのか届け、それを各媒体で紹介してもらえる論点整理役のメディアも大事だと思うんです。

教育政策については、ちゃんと語れる人が本当に、タレントさんも学者さんも含めて少ないです。教育の政策というと尾木ママにばっかりみんな行くので、ちょっと新しい人が出ないといけないと思います。尾木さんが現場にいたのって随分前じゃないのかなと思ったりもしますし。若い世代の感覚も必要ですし。

取材するということと、出張授業で教育現場に行ったりとかヒアリングをするということを大事にしながら、次世代の子たちの仲間をつくっていくということをやらなきゃと思っています。

インタビュー前編『たかまつなな「NHKを辞めた今、思うこと」ロングインタビュー』はこちらから

(筆者撮影)
(筆者撮影)

たかまつなな / お笑いジャーナリスト ピン芸人 株式会社 笑下村塾取締役

1993年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科、東京大学大学院情報学環教育部修了。お笑いジャーナリストとして、現場に取材に行き、お笑いを通して社会問題を発信している。お笑い界の池上彰を目指し活動中。18歳選挙導入を機に、株式会社 笑下村塾を設立し、政治を面白く伝えるため、全国の学校へ出張授業「笑える!政治教育ショー」を届ける。フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、「エンタの神様」「アメトーーク!」「さんま御殿」などに出演、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。また「朝まで生テレビ」「NHKスペシャル」などに出演し、若者へ政治意識の喚起を促す。

(本人提供)
(本人提供)

社会問題を解決するYouTube番組を作りたい!

クラウドファンディングを「GoodMorning」で現在実施している。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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