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たかまつなな「NHKを辞めた今、思うこと」ロングインタビュー

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
7/31 NHK最終出社日のたかまつななさん (本人提供)

お笑い芸人のたかまつななさんが、7月末でNHKを退職した。なぜ彼女はNHKを辞めようと思ったのか?そして、これから何をしていこうと考えているのか?今の思いを単独インタビュー取材で聞いた。(たかまつ:たかまつなな Q:鎮目博道)

「残念だ」という自分の気持ちに気づいていなかった

Q:お辞めになったという話を聞いて、一番びっくりしたというか、印象に残っているのは「『残念だったね』と言わないでください」と書いていらしたじゃないですか。

何で「残念だ」と言わないでほしかったんですか。

たかまつ:7月14日に発表したんですが、思った以上にNHKの人から「残念です」という意見が多かったです。

そういう気持ちが自分でもこんなに起こるとは思わなかったんですけれども、私自身が一番残念だったんだなとすごく思いました。「残念ですといわれるのは、ちょっとつらいです」みたいなことを言ったら「別にそれはたかまつさんが悪いとかじゃなくて、もうちょっとたかまつさんが作った番組を見たかったという意味だし、あとはたかまつさんを受け入れきれなかった組織に対して残念ですという気持ちだから」と言われました。

私ももっとNHKで番組を作り、公共放送で役に立ちたかったです。

改めて、やっぱり志半ばのところってまだまだあったなと思って。そういう意味で「残念です」という感じですかね。

Q:NHKに「残念だ」ということを言う方が多かったということは、多分たかまつさんに期待するものが何かあったんでしょうね。

たかまつ:そうですね、そうだと思います。飲みに行って「辞めようか悩んでいるんです」みたいなことを言った時に、「提案を見ていて、新しい風を吹かせてくれているなということは、すごく期待していた」と言われたり。

テレビというものが、若い人にもう見られなくなってきているから、ネット世代でもあるし「つなぎ役」になってほしかったみたいな意見もありました。

NHK入局式で (本人提供)
NHK入局式で (本人提供)

「NHK」と「テレビ」に感じた“限界”

Q:NHKの方ってすごく今変わろうとしているというか、そういう意欲の強い人が多いと思います。講演みたいなことをNHKで何度かさせていただいたんですけれども、聞きにきてくれる人は結構みんな意識が高かったです。

たかまつ:そういう講演に来る人は、相当意識が高い人だと思います。

例えばYouTuberになりたいと思っている人がいっぱいいても、実際にYouTuberになる人って少ないじゃないですか。そういう感じだと思います。

良くも悪くも、人数が多い大組織なので、アクセルを踏んだりブレーキを踏んだり繰り返しているようなところがあります。それは組織の中もですし、外からの目もそうです。例えばネットに進出しようとしても、民放連が反対したり、民業圧迫だということを言われたりとか。あと、ネットで使える予算も決まっているので、そういうところがあると思います。

Q:つまり、このままじゃまずいという気持ちはあるけれども、実際に行動を起こせるかというと、いろんな障壁がある?

たかまつ:その勉強会に来ている人がいったいどのぐらい本気で変えようとしているかというところが疑問だったりもします。そういう人たちが束になって一緒にできる場みたいなのが、やっぱり少なかったりもしますし、外からもそういうふうにブレーキをかけられるというのが難しいところだと思います。

Q:たかまつさん自身は、NHKの中で何かしようとした時に、どんなところで難しいなと感じられることが多かったですか。

たかまつ:私がNHKに入る時に単独ライブをやって、そのゲストでテレ東の佐久間さん(注:佐久間宣行プロデューサー)に来ていただいたんです。佐久間さんに「番組づくりにおいて、一番大事なことは何ですか」と聞いたら、確か信頼とか仲間というようなことをおっしゃっていて、意外だったんです。やっぱり番組は1人で作れないということをおっしゃりたかったんだと思うんですけれども、中に入ってそれは強く感じました。出版業界だったら、編集者の人が著者の人と二人三脚で行きますけれども、番組を出演者の人と二人三脚で作るってほぼあり得ないと思うんです。

別にNHKが悪いとか、自分の実力がすごく足りないということよりも、構造的にテレビというもの自体がやっぱり1人で作っているものではないんですね。

やっぱり組織を大きくすればするほど、マニュアル化したりとか、誰でもできるようにしたりとかしなきゃいけない。急にニュース番組で、毛色が違うようなバラエティーのノリとかが出てきたらやっぱり浮きますし、そういう意味でテレビ的に新しい手法をするということはなかなか難しいですよね。

これまで報じてこなかったようなことを報じようとしても、NHKの中で「合理性」みたいなものがあるんです。例えば、「ファクトをもとにやる」というところがあります。

「このままだと5年後、10年後に問題が起こる。だから今からそういう未来を防ぐために警鐘しなきゃ」と思っても、それって本当に起こり得るのか?というところを突き付けられてしまう。あなたの意見じゃないの?と。じゃあ5年後、10年後に報じればいいんじゃないか?と言われてしまいます。

私は、それがメディアの一番の問題点だと思うんですけれども、「点」でしか行動できない。今起こっている現象についてしか伝えていないというか、伝えにくい。

「それはNHKが主語ではなかなか言えない」からと、結局専門家の方に「こういうことも危惧しています」というようなコメントをしてもらうというところが、やっぱり限界でした。そういう意味では、影響力があるけれども、本当にファクトをつかんでこない限りは、報じることが難しいのです。

「伝え方にこだわる文化」が少ない報道現場

Q:多分一般の方はほとんどご存じないと思うんですが、NHKって記者とディレクターで採用が別になっていて、随分違う社会になっているんじゃないですか。

たかまつ:そうですね。

Q:たかまつさんは?

たかまつ:ディレクターです。

Q:記者とディレクターでやりやすさの違いがあったとか、そういうことはお感じになりますか。

たかまつ:もうカルチャーが全然違いますね。ディレクターだと本当に自分の関心分野に行けます。記者だとどちらかというと、担当がガッツリ決まっていて、その担当どおりにやるというような感じです。

Q:そういう意味では、やはりご自身の関心分野をやりたかったからディレクターで入った?

たかまつ:番組を作るということもやりたかったので、そうですね。

Q:ディレクターでもやっぱり「予測的なことをする番組」を作るのに結構ストップがかかるということなんですか。

たかまつ:新しく番組を提案してそれが通ればできると思います。

地方の放送局だと、地方の独自の枠が結構あるんですけれども、東京赴任だったということもありました。

あとバラエティーは、新しい番組を開発していくぞという空気なんですけれども、報道はどちらかというと、決められたフォーマットの中で、テーマを探すということのほうが重視されていました。

若い世代に届けようとか、今見られていない人にどうやって届けるかということよりは、既にあるドキュメンタリーの手法でどうやって重要なテーマを伝えるかというほうが主眼が置かれていたので、そこは全然違います。

Q:ある意味、東京に最初から配属になってしまったのが、残念だといえば残念だった?

たかまつ:どうですかね、私はそうは思わないです。やりがいがありました。

『おはよう日本』という、横並びでは一応視聴率が一番良くて、7〜8分ぐらいのコーナーを、企画が通れば1,000万人に届けられるというのは、やりがいがありました。

インタビューに答えるたかまつななさん (筆者撮影)
インタビューに答えるたかまつななさん (筆者撮影)

教育問題にこだわった2年4か月

Q:NHKに入る前から、ずっと教育とか政治とかこだわってやっていらしたわけじゃないですか。NHKに入ってからも、やっぱりそのあたりの問題をライフワークとしてやっていきたかったということですか。

たかまつ:中に入って、私は若い人向けに、政治とか社会問題を届ける番組を作りたいと思ったんですけれども、その難しさはすぐに感じました。

壁があることを感じた時に、報道番組でできること、NHKでしかできないことって何だろうと考えているときに、先輩が飲みに連れていってくださりました。

「やっぱり永田町や霞が関の人はすごく見ていて、うちが報じることによって、例えば予算委員会で質問とかされたりとかして、制度が変わっていく」と。それは、視聴率とは関係ないことだと。

私はどちらかというとそれまで、啓蒙したりとか、世論の文化を形成していくとか、そっちのほうに興味があったんですが、政策を動かしていくということに関しては、やっぱりNHKが報じるほうが簡単に変えられたりするので、それはNHKでしかできないことだと思いました。

そうだとすると、自分が一番出来る事は教育政策だろうと思いました。笑下村塾という会社を4年間経営し、全国の学校に出張授業に行き、教育現場はずっと見てきたのもありますし、教員免許も取得していたので。実際、教育政策をやっているディレクターは少なかった気がします。教育に関心がある人はEテレを志望したりして、教育政策自体を追っている人というのは意外と少ないと思いました。

Q:若い人に社会問題を届ける番組をやろうと思って感じられた壁というのは、どんな壁なんですか。

たかまつ:そもそも枠もそうですし、そういうこと自体が求められていなかったりもします。

Q:そんなに若い人は見ていないという実感がおありですか。

たかまつ:はい。自分が演者として出ていた時もそう感じました。

「NHKスペシャル」はNHKの中ではトップだし、私も今後機会があれば作ってみたいとは思える番組ですし、予算をふんだんにかけてやっている番組です。

でも、『さんま御殿』に出たほうが、政治に関心のない一般の視聴者の方からの反響がありますから。

Q:たかまつさんがそもそも対象とされていた若い人って、本当にもう未成年とか20代じゃないですか。そういう人たちが、そもそもNHKの視聴者層としていなかった?

民放の「ひな壇」にとても限界を感じた

たかまつ:それは分かった上で、入りました。でも『週刊こどもニュース』みたいな番組を昔はやっていましたし、民放のひな壇で一言発することの限界をすごく感じてもいました。

Q:それはどういう限界ですか?

たかまつ:私がひな壇に座って「賛成か、反対か」みたいな意見を言うというときに、生活保護の問題とかで特に感じたのですが、やっぱり芸能界は苦労してのし上がってきた人がほとんどで、「そんなの自己責任だ」「けしからん」みたいなことをみんなが言うわけです。そんな中で「そうじゃないんですよ」ということをひな壇の席から言うことが大変だったりしました。そもそもの論点が整理されていなかったり、前提情報がかけていたりむちゃくちゃでした。

あと、学校の先生の話で、「先生のなり手が少なくなっている」みたいなテーマの時に、私は「給料を上げればいいんですよ。私は教員免許を慶應で取りましたけれども、全然友達はなっていなかったですよ」と言っても、「ハートでやってくれよ」みたいなことをベテランの方が言うんです(笑)

Q:ハートじゃできないですよね(笑)

たかまつ:バラエティーとしては全然成り立っていたと思うんですけれども、それにすごく限界を感じました。持続可能性を考えた場合は、先生の給料を上げることや働き方を見直すことって大事だと思うんです。でも、現状のままハートでやってくれと言う方が支持されてしまう。そして結局、私のネットが荒れるわけです。

でも、本当に教育界を思っているのって、私のほうだと思うんです。別に私が炎上するのは良かったんですけれども、そういうところも悲しさみたいなものを感じました。

番組の論点としても、じゃあ過労死が多い職業に先生が入っていることとか、100時間残業しているみたいな話とか、そういうところを踏まえてもベテランの方は「ハートでやれよ」と言ったかというと、言わなかったんじゃないかなと思って。

Q:よくご存じなかったかもしれないですよね。

たかまつ:そうなんですよね。番組の論点設定が違うと、結構どうあがいても、雛壇芸人の一人としては、きついなというのは思いました。だから番組はやっぱり制作に、作る側にならなきゃ駄目なんだなと。

Q:そうですよね。僕らもそれはすごくよく分かるんですけれども、やっぱり出演者は、番組の意図に乗っかったことを求められているし、意図から違うことを話せばカットされてしまうという意味では、やれることの限界をやっぱりお感じになったということですよね。

たかまつ:めちゃくちゃ感じていました。だから私がよくやっていたのは、怒って「坂上忍さん、それは違いますよ。何でそんなことを言うんですか」と言ってから正論を言うみたいな(笑)

怒っている画が欲しいわけだから、すまし顔で言っても使われない。だったら、怒っていたら、そのあとつまらない正論を言っても、使われるんなら怒ろうみたいな。

Q:その出演者としてもできるだけ使われる工夫をいろいろそうやってされていたということですよね。

たかまつ:していました。

Q:やっぱりそういう出演者としての限界、民放のバラエティーに感じた限界、そういうものがあったから、NHKを職業として選択された?

たかまつ:そうですね。

Q:新聞でもなく、民放でもなく、NHKにされたというのは、やっぱりその辺が大きいんですか?

たかまつ:公共放送ということです。受信料モデルというところが全然違うと思うので。

視聴率を気にしながら世の中のために番組を作ることって、乖離しているなと思いました。スポンサーが相当理解してくれない限りは、無理だなというふうな、民放のビジネスモデル上の限界ですよね。

YouTubeで経験した「挫折」

たかまつ:民放で変えていくということは結構無理だろうと思って、YouTubeで番組のスポンサーを探して自分で作ったんです。1本200万円ぐらいお金を集めて、番組制作をしたこともありました。でも結局、途中で私はその番組制作から降りたんですけれども。制作会社さんにお願いして、結構いいクオリティーでやっていたんですけれども。

Q:200万円あれば、大したものですね。

たかまつ:いや、もうちゃんと豪華になりました。制作会社の力で。テレビクオリティーでCGとかも作ったりもしていました。私自身がテレビを作る能力がなかったというのもあるので、ちゃんとコントロールができなかったところもあったりもしましたが。

最初はスポンサーの人と「教育界を変えたいね」と言って作り始めました。割といいモデルで、今後も続けられそうだったんですけれども、数字が思ったより振るわないとか、スポンサーの方の意向とかもどんどん変わってきて。制作スタッフはやっぱりスポンサーの言うことに従わなきゃみたいな感じになりました。「別にその中で面白いものを作ればいいじゃん」みたいな感じで、教育から全く外れた企画になりそうだったので「だったらちょっと降ります」と言いました。私のやりたいことじゃなかったので。

結局これは、民放の小さいバージョンを自分がやっているというのに気付いたんです。

だから、自分で番組制作をするところまでは無理だなと。出張授業を自分の会社でやっていって、そこでは投票率が84%まで上がったりとか、すごくやりがいを感じていたんですけれども、関心を継続させることが難しいなと思いました。

だから番組のフォーマットをNHKで作って、それで数字が取れるということを証明できたら、民放も真似してくれるだろうと考えました。

池上さんで数字を取ったことが一番の功績だと思っています。ニュースの番組とか選挙特番って絶対池上さんのおかげで増えたので、そういうことをNHKでやって、パクってもらおうと。

番組のフォーマットができたら辞めて、今度は作り手としても呼んでもらえたりとか、作り手と演者両方できたらいいなと思いました。本当はキャスターみたいなことをやりつつ、制作チームの信頼できる人たちと、チームを作って世の中を変えていきたいと思ったんですけれども、今のテレビのやり方だとそれはほぼできないなと思いました。

「売れるためには趣旨理解能力が大事だ」みたいなことを言われたりとかもして。

Q:趣旨理解能力というのは、制作側の意図を酌めということですよね。

たかまつ:そうそう。渡部さんとかがその天才だったと思うんですけれども。東野さんとかもそうですよね。最近もおっしゃっていましたよね。別にそんなにゲスいことは思っていないけれども、ゲスいことを聞いてほしいんだろうというのを感じたから、聞いていますみたいな……。

逆にテリー伊藤さんとか田原総一朗さんみたいな、昔は作り手としてやっていたけれども、出演もしているという人のほうがそういうことってできるんじゃないかなということも思ってNHKに入りました。でも、そういう番組のフォーマットを作ることができませんでした。そこを一番大きな目標としていたので、もう全然志半ばですよね。

〈後編へ続く〉

(筆者撮影)
(筆者撮影)

たかまつなな / お笑いジャーナリスト ピン芸人 株式会社 笑下村塾取締役

1993年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科、東京大学大学院情報学環教育部修了。お笑いジャーナリストとして、現場に取材に行き、お笑いを通して社会問題を発信している。お笑い界の池上彰を目指し活動中。18歳選挙導入を機に、株式会社 笑下村塾を設立し、政治を面白く伝えるため、全国の学校へ出張授業「笑える!政治教育ショー」を届ける。フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、「エンタの神様」「アメトーーク!」「さんま御殿」などに出演、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。また「朝まで生テレビ」「NHKスペシャル」などに出演し、若者へ政治意識の喚起を促す。

(本人提供)
(本人提供)

社会問題を解決するYouTube番組を作りたい!

クラウドファンディングを「GoodMorning」で現在実施している。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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