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ひろゆき氏、#難民 への偏見むき出し―番組趣旨からも逸脱

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「ひろゆき」こと西村博之氏 アベプラの番組から

 一か月程前になるがテレ朝やサイバーエージェントが出資するネットテレビ局ABEMAのニュース番組ABEMA PRIME(アベプラ)で在日外国人への差別・デマや、日本の難民認定についての特集があった。特集自体は、ネット上で拡散される、在日外国人への差別・デマについてファクトチェックを行い、在日外国人当事者もスタジオに呼び彼らの言い分を聞くという良心的なものだったと筆者は思う。ただ、残念だったのは、コメンテーターとしてオンラインで番組に出演した実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏のコメントが、難民認定申請者に対する無知と偏見を露わにしたものだったことだ。

〇「飛行機で来る人は難民ではない」という偏見

 先月7日に公開されたアベプラの番組「クルド人当事者に聞く"川口100人トラブル”の現場と難民申請とどう向き合う?」は、「埼玉県内で在日クルド人100人が乱闘した」というネット上のデマについて、乱闘したのは数人程度で、他のクルド人の人々はそれを止めるために集まってきたということを当事者への取材も行い、ファクトチェック。また、日本における難民認定率が、他の先進国に比べ極端に低いこともジャーナリストの堀潤氏の解説を交えながら指摘するなど、丁寧な番組構成だった。だが、こうした番組の趣旨を台無しにしたのが、ひろゆき氏。番組中、ひろゆき氏は、日本での難民認定率が低い理由として、以下のように発言した。

「シリア難民とかは陸路で歩いてヨーロッパにやってくる」「(日本に来て難民認定している)飛行機で来れるような人が本当に難民なのって言ったら、それは認定率下がるのは当然。飛行機乗って(日本に)行こうっていう時点で、あなたたち結構経済的に豊かで、そこまで困ってないんじゃないですかってなる。そこで認定率が低いのも当然だと思う」

*上記はYouTubeのダイジェスト。ノーカットのものは、以下、アベプラのサイトを参照。

https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p4931

 こうした、ひろゆき氏の発言には、既視感がある。今年6月に改正(改悪)された入管法の与党側の実務担当者であった、宮崎政久衆議院議員も出演したBSTBSの番組「報道1930」(今年5月2日放送)で、「飛行機に乗ってくる人は難民ではない」との発言をして猛批判を浴びたが、それと、上述のひろゆき氏の発言は同じロジックだ。

 明確なのは、難民条約において、難民として保護されるべきか否かは、その人の経済状況や、移動手段が飛行機であったかどうかは、一切関係なく、その人が出身国において迫害される恐れがあるか否かである。また、世界各地で紛争や人権侵害が深刻化する中で、広義の難民、つまり、戦乱等を逃れてきた人々も、保護対象というのが国際的なスタンダードと言える。

 上述の「報道1930」でも、宮崎議員の発言に対し、同じくスタジオ出演した指宿昭一弁護士が、「飛行機に乗ってくる人は難民ではないというのは、ただのイメージ。実際には、政治難民として、その国にいられなくなって飛行機等で来る人は大勢いる」と指摘。実際、番組中で、紹介された各国の難民認定率(2021年、一次審査)では、日本は1.1%だが、やはり海で隔てられ、紛争地から遠いオーストラリアでも、認定率は13.7%、米国も28.8%、イギリスは67.2%だ

 加えて言えば、カナダではトルコ出身の難民認定申請者の認定率は9割以上。当然だが、カナダはトルコから遠く、地続きでもない。「飛行機で来る人は難民ではない」という宮崎議員やひろゆき氏の主張は全く事実と反した思い込みなのである。

〇メディア側はコメントの質に注意を!

 上述のアベプラの番組に話を戻すと、当該特集の趣旨は、在日外国人や難民に対する偏見やデマに対するカウンターであり、事実を確認し現状の制度の問題点を見直そうというものだった。そうした趣旨にも、ひろゆき氏の発言は反していた。全ての社会問題、テーマに関して専門家レベルで詳しいという人はいないのだろうが、メディア上で発言するのならば、思い込みで語るのではなく、事前に事実をしっかりと確認すること、差別や偏見を広めないようにすることを、コメンテーターとして発言する人々には心がけてもらいたい。また、メディア側も、そうした報道倫理上、最低限のこともできないような人物は、たとえその人物が「数字が取れる」のであっても、コメンテーターとして起用しないよう、心がけていただきたい。これは、ひろゆき氏に限ったことではなく、現在の日本のメディア全般としてある、大きな問題である。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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